左右病に縛られ過ぎない打順の最適解
プロ野球の監督を、基本的にはネガティブな意味合いで表現する言い回しとして「左右病」というものがある。右打者は左投手に強く、左打者は右投手に強いという考えから、例えば対右投手に左打者をズラリと並べた打線を組む、というものだ。「相手投手の球の出所が見やすいから」という理屈に基づいた策と思われるが、打者の能力を度外視して一括りに打順を組むケースも散見され、プロ野球ファンからは前述のように、否定的な使い方をされる事も多い。
中日ドラゴンズの井上監督も、ご多分に漏れず「左右病」の傾向が見られる。それがデータに裏打ちされた策であるなら問題ないが、実際のところはどうなのだろうか。もっと言うと、「適正打順」というものを考えたときには、当然「対右投手/左投手」以外のデータも絡めて考える必要があるはず。5/1~2の広島2連戦で個人的に思うところもあったので、今回はここの部分について触れてみたい。
1. 中日野手陣の打撃成績検証

まずは、現状1軍で登録されている選手を中心に、中日野手陣の昨季/今季の成績を上記のように整理。今回は対右/左投手・出塁率・得点圏について並べてみた。いずれも、打順設計を考えるうえで重要と思われるデータだ。
最初に、冒頭に書いた「左右病」について。「右打者は左投手に強く、左打者は右投手に強い」という説が当て嵌まる選手という括りで見たとき、昨季/今季ともに該当するのは石伊雄太・福永裕基・鵜飼航丞・板山祐太郎・岡林勇希・サノーの6名。今季はまだ1ヶ月のみで試行数も少ない可能性もあるため、昨季の成績も含めて見ると高橋周平・ボスラー・細川成也・上林誠知の4名が更に加わる。検証した17名中で当て嵌まるのが10名と考えると、ある程度は的を得た説であるようにも思えてくる。もちろん傾向が当て嵌まらない選手も居るが、個々の打者特性も含めて運用すれば、それなりに有用なデータであるのかも知れない。例えば著しくプルヒッターのジェイソン・ボスラーは左腕投手のクロスファイアーが泣きどころのため、左投手の方が成績が悪いのは頷けるし、逆にアウトコースを逆らわずに流すことが得意な大島洋平は逆に左投手の方が好相性、など。
縛られ過ぎは良くないが、一概に「左右病イコール軽率」と断ずるのもリーズナブルでは無いようだ。この点は、自分も考えを改めるようにしたい。
2. 板山祐太郎の2番起用
ところで、個人的に広島2連戦で気になった点は、板山祐太郎とジェイソン・ボスラーの打順だった。板山に関しては、5/1は7番も、5/2は2番で起用。ちなみに負け試合となった4/30の横浜DeNA戦も2番起用だった。自分としては、この板山の2番起用には強く疑問を持っている。理由は、板山の野手としてのキャラクターからだ。

上記は、板山の近年の成績。ヤクルト戦の満塁ホームランに始まり、連敗を止めた広島2戦目でも貴重な追加点を叩き出す活躍。特に2番で起用された広島戦の三塁打は後に続く細川成也のタイムリーへと繋げ、上位打線としての役割も果たしたように見える。が、上記に記載した成績を見ても分かるように、板山のキャラクターは「確実性は低いが、長打の可能性を秘める博打性の高い野手」だ。今季はバットを代えた効果か、その傾向はより顕著となっており、本塁打数は既にキャリアハイに迫る2本。今季の安打7本のうち、二塁打以上が実に5本。打率/OPSともに「強打者」と呼ぶには物足りないが、「傾向」で見るとその括りに入ると思われる。
このタイプの打者を、2番に置くのはどうなのだろうか。昨今は「2番最強説」も囁かれる打順ではあるが、その考えを採用するのであれば2番には細川成也を置くべきで、現状は「高い出塁率を持って、チームの主軸に繋ぐ」という役割を期待している事は明白だろう。その前提で言うと、上位打線にこの種の選手を置くのは、非常に確実性に欠けると感じてしまう。やはり、「下位打線に置いて偶発的な長打に期待」という役割が適正。打順で言うと7~8番に置きたい選手と言えるのではないだろうか。左右別相性が顕著な打者のため、相手が右投手という点を期待したのかも知れないが、大きく傾向が変わるものでもないだろう。この点は、疑問を持たざるを得ない。
3. 細川の後ろに置くべき打者
もう1つ気になった点は、ジェイソン・ボスラーの打順。広島のカード初戦は細川の後を受ける5番に起用。結果は細川成也が4四球ながら、ボスラーは4タコ。加えて試合を決定づけるエラーも犯してしまい、残念ながら「戦犯」と言わざるを得ない内容だった。

ボスラーは昨季の成績を見ると、クリーンナップを打つにふさわしい内容だった。加えて、今季の成績は下振れているにせよ、5/1試合前までの得点圏打率は.400。現状の中日はチャンスになればなるほど細川成也との勝負を避けられる構図となるため、後に続く打者の得点圏打率は重要だ。結果、試合では機能しなかった訳だが、実際の成績から見ても、初戦のボスラー5番起用は間違いではなかったと理解したい。
ただ、初戦の不振を受けて、翌5/2の試合ではボスラーは7番に降格。代わって5番には、高橋周平が入る事になった。こちらも得点に絡む事はなかったが、個人的にはこの起用は大賛成。冒頭に整理したデータを見ても、高橋周の得点圏打率は昨季・今季ともに非常に優秀。細川の後を受けるに充分な選手と言えるだろう。首脳陣の采配に否定的な意見を述べる事が多い自分ではあるが、この策はリーズナブルで、好意的に受け取った事案であった。
4. 現時点での打順の最適解
別記事でも書いたが、現状のドラゴンズの打順設計を検討するうえで、最重要ポイントは「細川成也の前後をどうするか」だと考える。単純な打率やOPSのみならず、得点圏打率・出塁率ともに抜群の成績を誇る細川を中心に、前はとにかく出塁率の高い選手が求められる。理由は当然、塁上にランナーが居る状態で細川の打席を迎えるためだ。そして、もっと重要なのは細川の後ろ。細川自身の出塁率の高さ、だけでなく広島戦の例を見ても分かるように、相手バッテリーが細川との勝負を避けた場合に得点に結びつける一打を期待できる打者を選択する事。つまり、得点圏打率の高い打者が求められるという事だ。
現状の細川以外の中日野手陣の中で、まず今季の出塁率が高いのは高橋周平・村松開人・福永裕基・阿部寿樹・鵜飼航丞。山本泰寛は打席数自体が少ないので、とりあえずは除く。昨季は田中幹也も出塁率が高かったが、今季は苦戦している。次に得点圏打率で言うと、高橋周平・阿部寿樹・ボスラーの3名。こちらも昨季は田中幹也・石伊雄太が好成績も、現状は苦戦。石伊は序盤の活躍が高かっただけに、現状は下振れの状態なのかも知れないが。ここに左右別打率も勘案した結果、個人的な打順の最適解は以下だ。

細川成也の打順は3番。4番に据えるのが本来の形というのは百も承知だが、「前に置く打者が3人もいない」というのが実状。対左投手/右投手ともに、出塁率の高い鵜飼・村松を前に置き、好調な高橋周が細川の後を受けるという形が基本だ。対右投手の場合は、その後ろに阿部寿樹。セカンドはとりあえず田中幹也だが、現時点は不振であり、今回データの少なかった山本泰寛や土田龍空を試すのも手。板山は先に述べたように8番だ。
対左投手は、まず板山は対左成績が顕著に悪いので、大島にスイッチ。また福永は逆に対左成績が良好のため、こちらは阿部に代えて使いたい。ボスラーは左右ともにスタメンに入らない形になってしまうが、阿部の状態を考えると致し方ないだろう。両者の好不調が変動してこれば、入れ替えも当然視野に入れるべきではあるが。
とりあえず現状の戦力で考えると、上記が最適解ではないかと考える。井上監督は鵜飼航丞への信頼があまり高くないようにも見受けられるが、成績だけを見れば見切るのは早計ではないだろうか。勿論守備面での不安はあるが、「盤石の中継ぎ陣」も「鉄壁の守備陣」も崩壊している今のチーム状況を考えると、あまり守備に軸足を置く状況でもないだろう。ある程度のリスクは享受しながら、少しでも得点を高くする方法を模索するべきでは。
本来であれば、岡林勇希が5/2から実戦復帰のはずが再度の「違和感」により先送り。他の負傷者も復帰時期は未だ見通せずと、厳しい状況は続く。目下6連敗中の阪神戦には、どのような打順で臨むのだろうか。首脳陣には、「直感」ではなくデータに基づいたリーズナブルな打順設計を期待したい。
