ミュンヒハウゼン症候群 追体験
前置き
こんにちは!自己紹介の記事出してないので紹介するのは初ですが、私はもともとミュンヒハウゼン症候群「または、作為症(Factitious Disorder)」でした!嘘つきでした〜〜。
(※他のブログでかなりわかりやすく解説されてるので、ここではミュンヒハウゼン症候群がどういったものなのかは説明していません!
専門的なことはプロじゃないので知りませんが、元患者?元作為症?元ミュンヒハウゼン症候群者?として答えられることがあれば答えます。)
大切にされたい、心配してほしい、同情されたい。そう思って始まった病気の嘘。
担任の先生、養護教諭、そして親まで巻き込み、気づけば大切な友達も、恋人も失っていきました。嘘で関心を集めても何も残らないと気がついたのは、大切なものをすべて失ったあとのこと。
心配されている間は、確かに心地よかった。「自分は気遣われている」「大切にされている」と思えて嬉しかったのです。けれど、膨らみ続ける嘘は隠しきれなくなり、「いつバレるのだろう」と怯える毎日の方が何倍も苦しかった。それでも自ら「嘘だった」と打ち明ける勇気はなく、やめることができませんでした。
今回は、当時の私のある一日を短編物語として書いてみました。ただの事実経過を辿るよりも、物語という形の方が、当時の揺れ動く気持ちをありのまま伝えられると思ったからです。
こうやって自分を曝け出すのは匿名であってもまだ怖いです。昔の友達がこれを読んで、「あ、あいつじゃん」「あの嘘つきじゃん」って思うかもしれませんね。
けれど、これを見ることで、同じことをして苦しんでいる人が客観的に自分を見られるようになるかもしれない。過去の自分を重ねて共感してくれる人がいるかもしれない。あるいは、同じように嘘をつき続けてしまう友人や子どもを理解する、小さなきっかけになるかもしれない。
そうであったら嬉しい。
そう願っています。
※登場人物や名称はすべて架空のものであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
病名のない私を
最初は、ほんの一言だった。
「最近、病院に通ってるんだ」
放課後の教室で、私は窓の外を見たまま言った。
机の上には、貞子が買ってきてくれた二本のミルクティーがあった。一本は彼女のもので、もう一本は、「どうせ今日もお昼ろくに食べてないんでしょ」と私に押しつけたものだった。
その優しさを、私はもう少しだけ欲しいと思った。
「え、どこか悪いの?」
貞子の声が変わった。
いつもの軽い調子ではなく、はっきりと自分を心配している声だった。
その瞬間だったら、私は引き返せただろう。
寝不足で頭が痛くて、とか。貧血っぽいから検査しただけ、とか。いくらでも軽くできた。
それなのに、貞子がまっすぐ私を見ていたから。
初めて、私のことだけを考えている顔をしていたから。
「心臓」
気づいたときには、そう答えていた。
「たぶん、手術しないといけないって」
貞子の手から、ペットボトルが滑りかけた。
その顔を見て、胸の奥が熱くなった。
罪悪感ではなかった。
少なくとも、最初の一瞬は。
ああ、心配してくれるんだ、と思った。
私がいなくなるかもしれないと知ったら、こんな顔をしてくれる人がいるんだ。
それがうれしくて、泣きそうになった。
「なんで言わなかったの」
「心配かけたくなかったから」
それは嘘だった。
心配してほしかった。
ずっと、誰かに心配してほしかった。
*
それから、貞子は毎朝、私の席まで来るようになった。
階段を上れば、「大丈夫?」と振り返ってくれる。体育の授業では先生に話をつけて、私を見学にしてくれたりする。お昼を残すと、無理に食べさせるのではなく、「あとで食べられそうなら食べて」とパンを袋に戻してくれた。代わりに、飲みやすいジュース見つけたんだよねと飲み物を差し出してくれた。
夜には必ずメッセージが届いた。
《今日は苦しくなかった?》
《ちゃんと薬飲んだー?》
《眠れなかったら電話してね📞》
画面に並ぶ言葉を、私は何度も読み返した。
貞子の通知だけは、すぐに開かなかった。
少し待ってから、
《心配してくれてありがと!全然大丈夫だよ!》
と返した。
あくまでも、心配をかけないように振る舞う病弱な女の子として返事をしているつもりだった。
本当は、本当に大丈夫だった。健康過ぎて自分を恨むくらい。
だから、返事を書く指は震えていた。
病名を聞かれるたびに、私は「難しくて覚えてない」と濁した。薬の名前を尋ねられれば、「今度見ておく」と答えた。手術の日程はまだ決まっていないことにした。
でもいつまでもそう言ってやり過ごせるわけではないとわかっていたから、その後自分の年齢でも当てはまりそうな病気を必死に調べた。貸してもらった母親の携帯で。履歴の消し方はそれをして初めて覚えたものだった。
嘘は、一つつけば終わるものだと思っていた。
実際は違った。
一つの嘘を生かしておくために、その周りへ小さな嘘を何本も立てなければならなかった。
診察日。検査結果。薬の副作用。医師に言われたこと。
適当に話した内容が以前の話と食い違っていないか、私はいつも貞子の表情をうかがった。
彼女が一瞬黙るたびに、喉の奥が冷たくなったのを感じた。
気づかれた。
今ので、気づかれたかもしれない。
そのたびに話題を変えた。少しだけ胸を押さえてみせると、貞子はそれ以上聞かなかった。
「保健室、行く?」
心配そうに私の背中へ触れる。
私はその手に安心しながら、その手から逃げ出したくなった。
*
嘘をついて三週間が経ったころ、貞子が小さなお守りをくれた。
白い布地に、淡い桃色の花が刺繍されていた。病気平癒守りというものがあるらしい。
「有名な神社なんだって。お姉ちゃんに頼んで、車出してもらった」
「え、わざわざ神社まで行ってくれたの?」
「そりゃ行くよ」
貞子は何でもないことのように笑った。
「花子に死なれたら困るし」
その言葉は、私がずっと欲しかったものだった。
いなくならないで。
あなたが必要だ。
死なれたら困る。
病気になれば、誰かがそう言ってくれると思っていた。
やっと手に入れたのに、うれしくなかった。
貞子が神社まで行った時間を想像した。車の中で私の手術が成功するように祈っていたこと。お守りを選びながら、私に似合う色を考えたこと。
全部、存在しない病気のためだった。
「ありがとう」
私は笑おうとした。
けれど、口元がうまく動かなかった。
「どうしたの?」
「何でもない」
「しんどい?」
違う、と言えなかった。
貞子は私の手を握った。
温かかった。
その温かさが、自分のものではないような気がした。
これは、架空の心臓病の私に向けられた手だ。
何の病気にもかかっていない私には、触れる資格がない。
そう考えた途端、息ができなくなった。
貞子に手を握られているのに、その手を失う瞬間ばかりが頭に浮かんだ。

*
嘘がばれる夢を、何度も見た。
夢の中の貞子は、決まって何も言わなかった。
怒鳴られるより、その方が怖かった。
ただ私を見て、それから興味をなくしたように背を向ける。声が届いているはずなのに、無視をする。
待って、と呼んでも振り返らない。
目を覚ますと、私は必ずメッセージを確認した。
《おはよう。体調どう?》
その一文を見て安心し、同時に吐きそうになった。
いっそ本当に病気だったらよかった。これから病気になってくれないかな?と毎日願っていた。
そうすれば、何も嘘ではなくなる。
貞子の優しさを、堂々と受け取れる。
私は別に、死にたいわけではない。
苦しい治療を受けたいわけでもない。髪の毛抜けるとか、痛い注射とか、吐き気とか、検尿カップを提出しないといけないのも……全部嫌。
ただ、病気の人に向けられる優しさだけが欲しかった。
都合のいいところだけを切り取って、身にまといたかった。
私は病気になりたかったのではない。
病気になった私を、誰かに愛してほしかったのだ。
あんまり重たくなるのも嫌だったので、登場人物は貞子(さだこ)と花子にしてみました。笑
半分ふざけてますけど、ちゃんと本気です!
読んでいただいた方、ありがとうございました。
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