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ICU㉙|ダークサイド


ICU内での処置は全て終了し、この後は、ICUから移動するという。


そんな中、

「最後に私たち(医療チーム)も手を合わせます」

と告げられ、改めて妻が息子を抱きかかえ、家族と医療チームでICUを後にした。


だが、この時点では “手を合わせる” と言われたのみで、どこで何をするのかという細かな共有はなく、悶々としながらの移動だったのを覚えている。

冷静な思考も僅かに戻り始めていたとは言え、まだまだ放心状態から脱しているわけではない私たち。

この状況下での “次に何をするかわからない” というのは、想像以上にストレスであった。


移動には、院内専用のエレベーターを使った。


到着したのは、棟の最下層である “地下2F”

そして、そこからさらに迷路のような通路を進む…

照明も点いており、地下にしては明るいが、異様な静けさに加え、どことなく “冷たい空気” が漂っていた。


さらに進むと、そこには1人の男性が。

白衣を着ているが、なんとなく “医療者” という雰囲気ではない気がした。


そして、そのまま “とある部屋” へと案内される。

部屋には簡易ベッドが置かれ、そのそばには “仏具一式” が準備されており、そこでようやく気づく…


ここは「霊安室」だったのだ。


そこは病院の “ダークサイド”
迷路のような導線になっているのも頷ける。

そして、この男性も “葬儀屋” であり、先の印象にも合点がいった。


(手を合わせるって、そういうことか…)

無知かもしれないが、私も妻も最後に身内が亡くなったのは15年以上前で、当時はまだ学生。

“院内死” の流れがわからず、ようやくここで理解した形だった。


そして、案内されるがまま、簡易ベッドにゆっくりと息子を寝かせ、いくつかの説明を受ける。

順番に線香をあげ、手を合わせていくとのことであり、まず最初に私と妻が息子の前に並んだ。


お看取りから数時間が経ち、幾ばくか冷静さも戻ってきた私たち。

だが、思考が巡るようになったが故に、逆にこの状況が信じられなくなっていた。


(俺… 息子に線香あげてるよ…)

(これ本当に現実なのか…?)


低音のお鈴、線香の匂いは、「死」という現実を否応なく突きつける…

そして、静寂で冷たい空気の中、燭明に照らされた息子の顔を見るのは、胸が引き裂かれる… いや、“魂をも引き裂かれる” ほどに重かった。


(きつい…)

なんというか… 「リアル」だった。


何より「儀式」というのが、より一層私を苦しめる。

手を合わせながら、息子に感謝をし、安らかに眠るよう伝えるが、感情はぐちゃぐちゃだった。


そして、それは家族たちも同じであった。

私たちの後に家族も手を合わせていくが、特にそれぞれの母は終始涙が止まらず、静寂な霊安室に “哀哭” が響き渡る。


「凰理… やだ… やだよ…」


だが、その光景をじっと見つめることしか出来ない私…


そして、無意識のうちに自ら “冷静さ” を手放そうとさえしていた。

もはや、“冷静でいること” が苦しいのだ…


いや… 苦しいとか、辛いとか、悲しいとか、もはやそういう次元でもないのかもしれない。

目の前のこと “全て” が信じられなかった。


自分の心を “どこに据えるべきか” わからない…

そんな感情に支配され、ただその場で立ち尽くす私だった。



つづく



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