誠意について—カボチャと銘菓と大吟醸—
誠意を求められる場面で、思い出すのが、
昔のドラマ『北の国から』だ。
純くんが彼女を妊娠・中絶させてしまう話がある。
父・吾郎さんは謝罪にカボチャを持っていくが、彼女の叔父(菅原文太さん)は静かに言う。
「誠意ってなにかね」
あの表情と一言を、今も忘れられない。
吾郎さんは富良野へ帰り、自分の夢だった丸太の家を諦め、溜めておいた材木を売り、大金に換えて、叔父に送金する。
しかし、お金は彼女から純くんへ、無情にも突き返される。
二十代の頃、某省庁の天下りと一緒に仕事をしていた。
この人から多くを学んでいた。
ある日、営業が「クレーム対応が面倒だ」と言いながら、適当なお菓子を持って謝りに行こうとした。
天下りはそれを止め、「謝罪には名店の銘菓を持っていけ。それが誠意だ」と言った。
「心から詫びるとは、些細なことでも抜かりないところに本心が出るんだ」と。
会話を聞きながら、吾郎さんのカボチャが頭に浮かんできた。あの場面でカボチャは相応しくなかったと、正解を得た気がした。
だから、彼女は大金を突き返したのだと。
貧しい吾郎さんは、地域の常識を踏まえてカボチャを差し出した。
でも、それは常識ではない。
カボチャを持っていくより、ただひたすらに頭を下げた方が伝わったのかもしれない。
カボチャは誠意の形であり、同時に値段にもなってしまった。
一個五百円のカボチャが五個。
その金額が、命の代償として突きつけられたとしたら……それは、火に油を注ぐことになる。
だから、天下りは相手を不愉快にさせないように、反省を名店の銘菓にしろと言ったのだと理解している。名が通った店の銘菓だと、相手を重く尊重している現れだと思う。
「お菓子ならなんでもいい」
謝罪とセットになっているのが、お菓子。
自分の懐事情を優先したばかりに、かえってトラブルが拗れた話も幾つか知っている。
春先、レオ氏が営業周りをしていて、お客様へ不手際があった。
営業職に従事した経験がないレオ氏は、わたしへ相談してきた。
お客様の好みを聞き、
「どこそこの純米大吟醸酒を持って行きな。値段は張るけど、そこは反省であり投資よ。大丈夫、わたしが保証する」
レオ氏は不手際から一転、信頼を得た。
ご指名やお客様が他の客を紹介してくれるなど、数珠繋ぎの成功を収めている。
あのとき、天下りの話を聞いていたから。
菅原文太さんの顔と声を思い出したから。
今になって感謝した。
誠意とは、今も私の中で問い続けている言葉。
