Photo by
hidemaro2005
掌編:明日から、私をいじめる人はいない
玄関を閉めると、三和土の上で笑いが止まらない。膝から崩れてこれまでの我慢が笑い声になる。
昼間、会社では刑事さんに囲まれて事情聴取を受けた。会社の先輩が横領で逮捕された。
先輩からの執拗な叱責やお菓子外し、メモした付箋を捨てられるなどの嫌がらせが続き、精神が壊れる手前にいた。
来月は辞めよう。退職代行を使っても辞める。
無理してまで居座る会社じゃない。決心を先延ばしにして自己嫌悪に陥る。
つくづく社畜が沁みた自分に嫌気が差した頃の朗報が、先輩の逮捕。
床に腰を下ろし、それでも口から笑みが溢れ、惨めさが蘇生試験に合格して昇華されていく。
先輩の破綻した有り様へ現実からのツッコミ待ち。
これまでの苦労が決壊し、笑いが止まらない自分は不謹慎なのかと思う。神妙な面持ちをするって、もちろん正解のひとつかもしれない。
でも、状況によっては神妙な顔するにはリアリティが追いついてないことってある。
現実のバグみたいな滑稽さと、人の不条理さがごっちゃになり、それに対して笑いが出るのは自分の倫理が壊れてるからじゃなくて、ちゃんと機能してるからこそ。
明日から、私をいじめる人はいない。
