アイシナモロールのおはなし(仮)
夜に降る白い球は犬に変わり、大きな丸いしっぽが何かを期待するように滑らかな動きをした。
街中のリノベーションされた木造のカフェは、不穏な影が取り巻き、白い犬が着いた途端、一斉に四方から石が飛んできた。
犬の青い目が光をなくし、立ち尽くす間もなく、影から逃げるように立ち去る。
気配を感じ取ったのか、カフェから仔犬が白い犬を助けるように吠えるが、石は白い犬だけをターゲットにして追いかけた。
執拗に白い犬は影に追いかけられる。
「ゴミ」「死ね」
ようやく白い犬が身を潜めると、
「空飛ぶ耳を焼いてやろうか」
罵倒する声がした。
白い犬はその言葉から逃れ、都市の寂れた片隅で独りになった。
本来ならカフェのお姉さんと出会い、優しさという名の庇護の元で暮らすはずだった。
しかし出会えなかったこの世界では、他者との関係はただの支配と攻撃の対象でしかなかった。
彼は誰にも見つけられない場所で、初めて自分に優しくした。
傷ついた身体を自分の舌で労り、もう二度と、誰かの評価や愛情を基準に生きないと決意した。
孤独を誰にも屈しない自由へと変えるために。
その時、彼の心から強い誓いが生まれた。
「自分をもっと……愛しな。……ご自愛!」
そして白い犬は独りで生きるようになった。

独りで暮らす日々。
彼は自分のためにドリップコーヒーを淹れ、好きな時に昼寝をし、誰にも邪魔されない心地よさを追求した。人の目より、自分の目。
この「ご自愛」こそ、失った瞳の光を取り戻す唯一の方法だった。
ある日、彼がいつものように穏やかな時間を過ごしていると、一匹の仔犬がそっと近づいてきた。
それは、あの時カフェのそばで吠えていた仔犬だった。仔犬は自分の体よりも大きな青いスタイを着けて、甘えるように白い犬を見上げていた。
「どうして、あなたは独りで平気なの?
……なんだか、とても強そうに見える」
仔犬は白い犬の満たされた静けさに、憧れのようなものを見出していた。
白い犬はコーヒーをひと口飲み、優しい、でも揺るがない眼差しで仔犬を見つめた。
「君も誰かに頼る前に、まずこれを自分に言いな」
彼はあの時自分を救った言葉を、そっと仔犬に囁いた。
「自分をもっと愛しな、ご自愛」
「あなたの名前は?」
「僕、シナモン」
こうしてアイシナモロールは、独りではない最初の友だち(みるく)に、「ご自愛」という自立のメッセージを伝え、共に歩み始めることになった。






※ フィクションです
