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小説: ペトリコールの共鳴 ⑯

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第十六話 愛しの遥香 ②


遥香を愛していたから隙だらけになったのか、依存する対象がなくスッカスカになったのか、両方同時に訪れたのでどっちもだ。

じゃ愛羅についてどうだったかというと、愛というより冷静に考えて執着心だと思う。



監禁され、裸のままマンションの路地裏に投棄された俺は、愛羅へ憎しみが湧かなかった。

愛羅も騙されて俺とは別の場所へ監禁されているに違いない。
「早く助けに行ってやらねば」
気持ちが焦ったせいか、汚物塗れの身体にそのまま服を着て急いで部屋へ戻り、シャワーを浴びると真っ先にpcへ向かった。

pcを開いて目に飛び込んだメール2通は、俺を奈落に追いやった。

瞬間に掴んだのはキンクマの“手”だった。
無意識レベルで俺はキンクマを信用し、現実へ引き戻された。


タツジュンへ
元気ですか? ぼくは、きんくまです。
ぼくは、今、198ー4530東京都青梅市八幡町1丁目15ー3八幡ビル1F101にいます。
あいらのアジトを見つけました。ロッカーの中に人間が2人閉じ込められています。はやく助けてあげてください。いちみは女が5人です。今からたくさん、タツジュンにメールをします。警察に教えてあげてください。
そしてぼくをつかまえに来てください。ビルの近くにコンビニがあります。ぼくはずっと、タツジュンをまってます。いちみに見つからないように、気を付けてください。
それから、ごほうびはマンゴーがいいです。
それから、タツジュンが元気だったら、ぼくはすげえうれしいです。
きんくまより


タツジュンへ
ぼくは、きんくまです。
あいらのスマホにジーピーエスをいれました。
たつじゅんとはるかとおなじやつです。
パスワードは198956です。あいらのたんじょうびです。
それから、あいらのほんとの名前は、あいだりこです。
警察におしえてあげてください。
そしてタツジュンが発見したことにしてください。
きんくまより


SNSにはもちろんのこと、メモ帳や遥香の日記へも書いてない、
遥香、キンクマ、俺という家族だけが共有する情報がメールには書き込まれていた。

キンクマはマンゴーが好きで、遥香と俺のスマホにGPSが付いているのは3人しか知らない。
3人とは言わないだろうが、キンクマは家族。

遥香は闘病中、キンクマへGPSを見せながら
「ここにタツジュンはお勤めしているのよ」など教えていたのだと思う。

GPSは昔、俺がスマホを失くした後に遥香とアプリをインストールしたもので、今役立つとは夢にも思わなかった。
遥香とキンクマの絆が俺のピンチを救った。

監禁されていた間に考えていた愛羅への慰謝料300万円は詐欺だと見抜いた。

しかし、詐欺の証拠がどこにもない。
俺は愛羅と刺し違える覚悟で不同意性交等罪を自首して立件の方向が妥当に思えた。
まずは自分の罪を認めるのが先だ。

昨日まで、300万円なら払えない額ではない。
新車を買ってすぐにお釈迦にしたのだと思えばと考えていた俺は本物のお人好しだ。