掌編: 焚き火のとなりで
11月の山の夕暮れは、想像していたよりも早く、そして冷い。
昼間はあたたかかった日差しが嘘のように消え、テントを張り終える頃には吐く息が白く、小さな白い雲になって空に昇っていくようだ。
落ち葉をかき集めて焚き火を起こすと、ぱちぱちと乾いた枝が楽しげにはぜる音が山あいに響く。
火のそばに置いた銀紙の包みがころんと転がり、やがて甘い焼き芋の香りが漂い始める。焦げ付かないよう彼女が枝を転がす仕草は、なんだか小さな生き物を慈しむみたいで、俺はその横顔を少しのあいだ眺めていた。
参道のほうから子どもの声が聞こえてきた。「千歳あめ、重いよ!」
笑いながら父親に手を引かれているのは、七五三のお祝いに着付けをしてもらった小さな女の子。
足袋の白さが夕暮れの境内に浮かび上がり、母親が袖を整えてやる姿は、愛おしさに満ちた一枚の絵だ。
家族連れの楽しげな姿を目にすると、なぜか胸へ苦さが広がり、少し照れくさくなって、視線を焚き火に戻す。
もしも彼女がああいう未来を望んでいたとしたら……俺はしっかりと応えられるだろうか。
そんな温かい問いかけがゆらめく火の粉のように心に舞い上がる。
「はい」
不意にカップが差し出された。
彼女がリュックから取り出したのは、一本のボジョレーヌーボー。
「キャンプにまでワイン?」
思わず聞くと、彼女は満面の笑みで答えた。
「いいでしょ。11月のお楽しみだもの」
注がれた赤紫の液体は、焚き火の光を映してルビーのようにきらめいていた。
「かんぱーい」
軽く触れ合わせたカップから、若い果実の甘酸っぱさが広がる。冷えた夜気の中で飲むワインは不思議なほど心にじんわりと染み渡り、胸のもやもやを優しく溶かしてくれる。
やがて彼女はブランケットを広げ、ごく自然に俺の肩に半分かけてきた。
一枚のぬくもりを二人で分け合う。布のやわらかな手触りと焚き火の熱が重なり、二人だけの特別な場所で温められているような、安らぎに満ちた感覚があった。
火のはぜる音を聞きながら、しばらく黙っていたが彼女がぽつりと言った。
「ねえ、保護猫のNPOを立ち上げたいんだ」 「……猫?」
思いがけない言葉に、俺は思わず聞き返した。 「そう。捨てられたり迷ったりした子たちを助けたいの。あなたも動物、好きだよね?」
彼女の澄んだ瞳が、焚き火の光を宿して美しく輝く。
その言葉に、胸に燻る靄がほどけていくのを感じた。
結婚という形ばかりが未来じゃない。
猫と人が安心できる場所をつくる、そんな温かくて優しい道を一緒に歩むこともできる。
銀紙を開くと、さつまいもがほくほくと湯気を立てていた。
二人で手を伸ばし、熱さに「ふーふー」と息を吹きかけながら分け合う。甘い香り、彼女の笑顔、そして、互いの未来を照らす焚き火の炎。
俺は気づけば、心の底から微笑んでいた。
結婚という形に縛られなくても、こんなふうに寄り添い、誰かや何かを一緒に守っていけるなら、
……それで十分なのかもしれない。
いや、むしろその方が俺たちらしい。
夜の冷え込みは一層強まっていくけれど、焚き火のぬくもりとブランケットの温もりがあれば、怖いものなんてない。
この灯りを絶やさずに、いつまでも二人で温まり続けられたら。
そう思ったとき、山あいの闇は、不思議なほど優しく俺たちを包み込んでくれた。(1361字)
˚✧₊⁎三條凛花さん⁎⁺˳✧༚
おはようございます
お世話になります
11月の暮らし
経験したことがない方にも想像できて
秋ならではを取り込んでみました
恐れ入りますが
よろしくお願いいたします
参加させていただき
ありがとうございます😊
【プロフィール】 ももまろうめこ
2020年1012日から、
note、Xを中心に活動開始。
気がつくままに何かしら書いています。



