あとがき「火遊びウサギは笑わない」
運命の人というワードがある。
運命の人とは、一目惚れや波長の一致、価値観が完璧に重なるような幻想として語られることが多い。
実際のところは、何かの契機で自分を奮い立たせて、前を向かせてくれた人を運命の人というのかもしれない。
わたしはそれを書いてみたかった。
ニュースやネットを見ながら、社会の状況を見て、
「今、これが書いてみたい」と、
主人公・里見瑠璃と城ケ丘安優香を誕生させた。
高学歴、そしてお金もある。美貌も備わっている。だけど、世間が指す幸せを掴みにくい女たち。
椎名林檎さんのMVのように、美しくも痛い蹴りを入れたくて。読者の心のど真ん中に、ヒールで踏み込むような気持ちで書いた。
彼女たちを縛るもの。
縛られたままの人。縛られたものから逃げた人。
一見タイプが違う者同士が惹かれ合うのはなぜか。深掘りして物語に落とし込んだつもりだ。
瑠璃と安優香を動かしていく中で、
自分のなかのどうしようもない感情や誰にも見せたくない弱さが言葉になっていく感覚があった。
安優香はあけすけで破天荒なようでいて、実はとても繊細。自分を守る術を知っている女性。
瑠璃は気づかないふりをして、人の痛みに気づけてしまう、そんな強さと弱さを同時に持った人。
書きながら、2人ともわたし自身の分身だと感じることも多くあった。
安優香は、ただの良家の子女じゃない。
離婚や流産を経験し、消えてしまいたいほどの絶望を抱えながらも、生き続けてしまう。
彼女が瑠璃に安寧を求めるのは、誰かにすがりたかった叫びであり、許されたいという祈りでもある。
男性から本気にされない不安、自信のなさへ、自己否定のリアルを描いた。
それでもピンクネイルとゴム草履、ベビースモーカーは、傷ついても見た目で自分を取り繕おうとする、必死な生き方。
物語にあるのは、人格の矛盾と葛藤、人間らしさ。そして、読者が「わかる……」と立ち止まれる痛みの共有。
『火遊びウサギは笑わない』は、恋愛小説のようでいて、本当は愛されたいと願う大人たちの物語。
親からの言葉に傷ついた人。
誰かを大切にしたいのに、うまく愛せなかった人。
好きだけど一人でいたくなる、そんな人。
この物語のどこかに、自分の輪郭を見つけてもらえたら嬉しい。
限りなくいないけど、
もし最後まで読んでくれたかたがいらしたら、
心から「ありがとう」と言いたい。
そして願わくば、この物語を通して、
誰かを思い出したり、自分を少しだけ許せたりする時間が訪れますように。
火遊びをするウサギたちが、あたたかさに触れる物語をわたしは書けてよかった。
