ショート: 初めてのプレゼント×2本
役所の窓口に「誤字審査課」がなかった頃。
今日も新生児の名前を巡る親子の悲喜こもごもが繰り広げられていた。
「名前は『一昇(かける)』です」
父親が得意げに出生届を差し出す。
職員は一瞥し、苦い顔をした。
「誤字ですね。しょうの漢字。
『翔』が『昇』になっています」
「えっ……」
父親は愕然とする。スマホの予測変換に頼りすぎたのか。
「制度により、一度提出された名前は修正できません」
「そんな!」
「お子さんの名前は
『いっしょう』と書いて『かける』になります」
父親の顔が青ざめる。
「いっしょう? 一生、昇進し続けるってこと?」
「まあ、前向きに解釈してください」
職員は淡々と言った。
それから三十年後。
「一生、昇進し続ける男」
一昇課長は、今日も会議室へと駆け込んでいった。
役所の窓口は静けさに包まれていたが、新設された「誤字審査」のコーナーには連日多くの人が列を成している。
出生届を提出するために訪れた佐藤さんも、その一人。
「うちの出生届です」
佐藤さんは自信満々に書類を差し出した。
でも窓口の職員は眉をひそめ
「名前を確認していいですか?
『太郎』ではなく『大郎』と書かれています」と指摘した。
「え?そんなはずは……」佐藤さんは驚いた。
何度も確認したはずなのに、なぜ誤字が生まれたのか理解できなかった。
pcやスマホの影響で、正しい漢字が書けない人が増え、誤字審査が行われているのだ。
その後も誤字審査を受ける人々の多くが同じように嘆いていた。
「間違えたのは初めてです」
母親が涙ぐみながら言う。
書類には『未来』が『末来』になっている。
慣れない育児や多忙では、誤字は誰にでも起こり得る。
役所の職員は優しく
「誤字は誰にでもあります。大切なのは直すことです」
制度があって、子どもへ親が望む名前を与えられる。 家族の行く末を守る役割を果たしていると皆が実感した。
