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おとぎの傷跡 ショート×3

    
       〜正義病のウサギ〜

 診療室は泣き声で充満した。
 白くて小さなウサギは、周囲から正義病だと避けられ、眠れなくなったと訴える。

「伴侶を婆汁にされたおじいさんや歩みのゆっくりな亀に、自分はどうしたら喜んでもらえるか。ただ行動しただけなんです」

 くたびれた白衣に着られた若い女の医師は、pcのキーボードを軽やかに叩き
「それであなたの周りから誰もいなくなったの?」

 ウサギは項垂れ
「はい。正義の暴走だって」また涙声を上げた。

 医師は画面を見つめながら
「喜んでほしかっただけなのにね」少し考え
「何かきっかけがあったの?」と問いかけた。

 ウサギの泣き声は止む気配がなく、診察室に看護師が入り、背中をさすった。

「私、今までドジばかり踏んで……。ワニに毛を毟られて男の人に助けられたり、お年寄りを助けようと火の中に入って死んじゃったり。みんなに迷惑をかけてきたから少しでも誰かの役に立ちたくて」

「周りの意見、視点を見てなかったのかな?」

 医師の話に、ウサギは肩を震わせた。


      〜化けすぎたタヌキ〜

 診療所に入ってきたタヌキは、どこか所在なさげに目を泳がせていた。

「今日は、どの姿で来たの?」
 医師の問いに、タヌキはしょんぼりとした声で答える。

「サラリーマン風の柴犬です」
「疲れたのね?」
「はい。もう、誰に化けてるのか、自分でも分からなくて」

「そう。何か動機があったの?」医師の問いに
タヌキは遠くを見つめ
「昔は自分らしく生きていたんです。
ところが背中に火をつけられました。騙されて泥舟に乗せられて死にかけたこともあります。
こんな被害を受けたら、自分は化けて生きるしかないと思って……。茶釜にもなりました」

 医師は「大変だったのね」とタヌキに同情した。

「自分の個性を活かして、楽しく生きろ。
そんなものウソでした。被害ばかり受けて……」

「タヌキさんは相手の気持ちを考えたかな?」

 突然、医師を鋭い目で睨み
「だから言ってるじゃないですか!
自分は被害者で、被害者ばかり損する」

 医師は目線をpcに向け
「カウンセリングをやってみない?」タヌキに促し、診察は終わった。


      〜取り残されたカメ〜

 診療所のドアがゆっくり開き、カメがゆっくりと入ってきた。

「どうしましたか?」
 医師が問うと、カメは甲羅を揺らしながら言った。

「気づいたら……みんな、先に行ってしまっていたんです」
「それは寂しいね」
「ええ。若い頃は遅くてもいい、自分のペースでって信じてました。だけど……」
 カメは俯き、甲羅に頭を引っ込める。

「ある日、恩返しした帰りですが、気づいたら時間が経ちすぎていて。
陸に戻ったら、誰も、何も残ってなかった」

「それで、今は?」
「まだ、浦島太郎を待ってるんです」

 医師は看護師と目を合わせ、顔を曇らせた。
「どうして浦島さんの所へ戻ったの?」
「謝ろって」
「なにを?」
「乙姫から言うなと口止めされています」

 医師は首に下がる携帯を操作し
「病棟、空いていますか?今きた患者に入院してもらうわ」

 カメの甲羅を覗き込み、
「カメさん、暫く入院しましょうか」

 病棟の看護師とカメは上階へ移動した。

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