【キャラ紹介ストーリー】ヒーローへの40億歩【善野英雄&アポロ】
こんばんは、「まる。」です。 あけましておめでとうございます!
※この3日間投稿できず申し訳ありません🙏💦
小説のプロットと執筆に熱中しすぎてしまい、
更新をお休みしてしまいました💦
その分、かなり熱いストーリーが仕上がったと思います!
さて、気を取り直して今回もキャラ紹介です!
今回は、Noteフォロワーの「ゼンラーマン」様からご応募いただいたキャラクターになります。
▼ゼンラーマン様
ゼンラーマン様は、ブラックコメディなヒーロー小説などを執筆されている方です。
「ありのまま」を文字通り「赤裸々」に書かれる記事は、読んでいてとても爽快感があります!
今回ご紹介する「善野英雄」くんは、正義の味方を目指す少年です。
彼がどのようにして相棒と出会うのか……。
そこに至るまでのストーリーを、小説形式でご紹介します!
小説を書くのは二回目ですが、今回も楽しく執筆させていただきました。
それでは、ご覧下さい!
📗用語
・アルカステラ
星をモチーフにしたカードの精霊たち。
プレイヤーは相棒となるアルカステラを集め、
彼らを駆使して戦う「ステラバトル」に挑みます。
・WCS
「ワールド・チャンピオンシップ」の略称。
世界一のステラバトラー(カードプレイヤー)を決める、最高峰の大会です。
「ヒーローとは、諦めない者」
『――勝者、天堂凱!!』
10年前の映像。
伝説のプロステラバトラー・天堂凱が、
あと一勝で夢の舞台「WCS」へ手が届くという、運命の試合直後のインタビュー。
スマートフォンの画面の中で、かつての英雄がフラッシュの海に包まれている。
すでにシワの刻まれた顔だが、その瞳は少年のように輝いていた。
『――夢を追い続け、見事その夢を目前にしたあなたを、世間ではヒーローと呼ぶ声も多いですが……あなたにとって、ヒーローとは?』
『ヒーローとは、「諦めない者」のことを指します』
彼は力強く断言する。
『例えその一歩が小さなものであろうと、40億歩歩めば月へも届くのです。 どれだけの困難があろうと、諦めなければヒーローは必ず勝利するのです』
画面の向こうの彼は、汗に濡れた前髪をかき上げ、不敵に笑って言った。

(ボクも……諦めなければいつか……!)
『英雄』に憧れた少年は、スマートフォンを握る手にいっぱいの力を込め、その言葉をかみしめた。
夢と現(うつつ)の境界線
「『ヘリオス』で攻撃。
……何か、ありますか?」
パチパチ、と乾いた音が響く。
それは手札のカードを弾く音であり、夢から現実に引き戻される合図だった。
「……ないです。対戦ありがとうございました」
小型のショップ大会。
善野英雄は早々にデッキを片付け、トボトボとその場を後にした。
また、勝てなかった。
沢山練習したのに。
最後まで諦めなかったのに、結果は1勝3敗。
こんなのでは、WCSは夢のまた夢だ。
「はぁ……なんで勝てないんだろう」
ため息をつくと、心が夕暮れに沈んでいきそうになる。
脳裏にまた、あの言葉がよぎった。
『例えその一歩が小さなものであろうと、40億歩歩めば月へも届くのです』 『諦めなければ、ヒーローは必ず勝利するのです』
「……ヒーロー」
英雄はもう一度顔を上げ、自分の両頬をパンッ!と力強く叩いた。
「そうだ。ここで諦めたら、ヒーローになんてなれっこない!
ボクは、ヒーローになるんだ!」
そうと決まれば、じっとしていられない。
英雄は駆け出した。
いつもの場所へ。あの人が待つ、河川敷へ向かって。
缶コーヒーと赤いマフラー
「だははははは! それで? おめおめ泣いて逃げ帰ってきたってわけか!」
河川敷に響く、くぐもった笑い声。
声の主は、ベンチでボクの隣に座っている変な男――通称『おじさん』だ。
よれたトレンチコートに身を包み、首元には色あせた赤いマフラー。
そして顔には「プラスチック製の安っぽいヒーロー仮面」をつけている。
端から見れば完全な不審者だが、このおじさんがボクの『友達』だ。
おじさんは仮面の隙間から器用に缶コーヒーをすすり、ボクの背中をバシバシと叩く。
その拍子に、おじさんのポケットの中から、呆れたような声が漏れ聞こえてきた。

『あんまコイツの話は鵜呑みにすんな、坊や。
コイツは宇宙一デリカシーのねぇ男だからよ!』
ボクの鼓膜に直接響く、凛とした声。 アルカステラ(精霊)の声だ。
おじさんはボクと同じステラバトラーだった。
世間では、いい歳した怪しいカードゲーマーとして変質者扱いされているが、カードゲームに年齢は関係ない。
それに、ボクは経験豊富なおじさんとステラバトルの話をするのが大好きだった。
「……泣いてないし。 たまたま今日は、カードの引きが悪かっただけだし」
ボクは、不貞腐れて手の中の缶コーヒーをいじった。
「おいおい、言い訳はナシだぜ、坊主。 カードのせいにしたって、強くはなれねぇぞ」
『おうおう、相棒もたまには良いこと言うじゃねぇか! 全く、最近のガキンチョは根性がなくてなっちゃいねぇぜ!』
二人で楽しそうに笑い合う。
おじさんは自分の相棒(カード)については深く語らないが、二人が固い絆で結ばれたパートナーなのは理解できる。
「うるさいなぁ。 おじさんは古いんだよ。
今の環境(メタ)も知らないくせに」
なぜ、ボクがこんな怪しいおじさんと『友達』になったのか。
話は、今から1年ほど前まで遡る。
孤独な少年と、夕焼けのヒーロー
「はぁ……」
学校の帰り道、ボクは河川敷で一人、深いため息をついた。
中学生になったボクには、友達がいなかった。
周りと趣味が合わなくなってしまったのだ。
去年までは一緒に盛り上がっていたライダーや戦隊モノの話も、今では誰も口にしなくなった。
流行りの『ステラバトル』だってそうだ。
みんなの話題は「カリスマ」と呼ばれる若手トッププレイヤーのことばかり。
天堂凱選手。
ボクにとってのヒーローは、今や「オワコン」扱いだ。
年齢によるプレイングミスが目立ち、試合でもめったに勝てなくなった。
何より、世間の目は冷たい。
本来なら、18歳で『見えなくなる』はずの精霊(アルカステラ)。
それがいまだに見えていると主張し、
若者に混じってWCS優勝という夢を掲げる初老の男。
その姿はもはや「熱血」ではなく「薄気味悪いホラー」として、周囲から疎まれていた。
『さっさと引退すればいいのに』
誰もがみんな、そう言う。
でも、ボクは最後まであきらめない天堂選手が大好きだった。
けれど、ボクが天堂選手のことを話すと、みんなが彼をバカにして笑うのだ。
大好きなカードゲームでも友達が出来ない。
ボクは、みんなと同じようにヒーローを捨てなければいけないのだろうか?
河川敷で途方に暮れていると、隣のベンチにドサッと誰かが座った。
見るとそれは、大人のくせに『御面ライダーZO』の安っぽいお面を被った、変なおじさんだった。
「なにメソメソしてんだ、坊主。 学校でいじめられたのか?」
怪しいおじさんはボクにそう話しかける。
ボクは訝しげにおじさんの方を見る。
『……おいおい。
ガキに声かけてんのかよ。
通報されても知らねぇぞ、相棒』
おじさんのポケットの中から、呆れたような声がくぐもって聞こえた。
スマホの音声じゃない。鼓膜に直接響くこの感覚。
……精霊(アルカステラ)の声だ。
(この人、ステラバトラーなんだ……)
精霊を連れているということは、この変な人もプレイヤーだ。
悪い人じゃない……のか?
おじさんはポケットの忠告を完全に無視して、ボクに缶コーヒーを差し出す。
……ブラックコーヒー。ボクの苦手な飲み物だ。
「いらないよ。 ボク、コーヒー嫌いなんだ」
「おいおい。ブラックが飲めねぇと、ダンディな男にはなれねぇぜ?
ま、坊主にはちと早すぎたか」
『へっ、よく言うぜ。自分は砂糖たっぷり入れなきゃ飲めねぇくせにな』
ポケットの声が鼻で笑う。
おじさんの強がりがバレバレだ。
その言葉にムッとしたボクは、コーヒーをひったくるように手に取ると、
プルタブを開けてグビッと煽った。
……苦い。
大人はどうして、こんな泥みたいなものを好き好んで飲むのだろう。
「だはは! いい飲みっぷりだぜ坊主。 同じ釜の飯……じゃねぇや、同じ苦味を共感(シェア)した仲だ。これでオレと坊主は友達だな」
「……恥ずかしいからやめてくださいよ」
「ああん? なんでさ」
「いい大人がライダーのお面とか……変じゃん」
『御面ライダーZO』は、実はボクも好きなライダーだ。
だから少し親近感は湧いたけど、
やっぱり大人がお面をつけて外を歩くなんて変だよ。
「ハハハハハ! いいじゃねぇか! 変上等! 人間、人と違うことをしてるやつのほうが、カッコいいってもんだろ!」
『……ま、そいつは一理あるな』
それまで呆れていたポケットの声が、その言葉にはニヤリと笑って同意した気がした。
人と違うことをしてるほうがカッコいい……そんなわけないじゃないか。 みんなと違うから、ボクは今こうして一人でいるのに。
でも――。
「話してみろよ。 全部吐き出しちまったほうが、楽になれるんだぜ?」
真っ赤な夕日に照らされる、このカッコ悪くて、
柄の悪い変なおじさんが。
なぜだか今のボクには、誰よりもカッコよく見えたんだ。

仮面の奥の、遠い瞳
「……要するに、坊主は手札(リソース)を吐き出しすぎなんだよ。
いいか、坊主。
アグロ(速攻)ってのは短距離走だが、
実は他のデッキ以上に計算が必要なんだ。
最短で真っ直ぐ相手を叩き潰す。
だけど、時にはクールにならなきゃいけねぇ。
『引く勇気』を持つ。それが速攻デッキの真髄ってもんよ」
おじさんは、妙に『ステラバトル』に詳しい。
まるで幾度もの修羅場を潜り抜けてきたかのように、誇らしげに語る。
正直、おじさんの指摘はすべて的を射ていた。
それが、悔しかった。
なんで、ボクのほうが一生懸命やってるのに。
こんなふざけた格好の人に、上から言われなきゃいけないんだ。
「……そんなに言うなら、おじさんがステラバトルすればいいじゃないか」
その言葉を聞いた瞬間。
おじさんはキョトンとして、口を閉ざした。
「……オレは、カードはやらねぇんだ」
『・・・』
急に優しく、弱々しくなった口調。
それまで茶々を入れていたポケットの中の声も、なぜか今は押し黙っている。
おじさんはそう言うと、寂しそうに空に浮かぶ月を見上げた。
安っぽい仮面の奥で、その瞳だけがここではない遠い場所を見ている気がした。

「……おじさん?」
「少し、冷えてきたな。 今日のところはここでお開きにしようぜ」
そう言うと、おじさんは立ち上がり、逃げるようにその場を去っていった。 ステラバトルの話をする時はあんなに楽しげなのに、自分のことは何も教えてくれない。
「……変なの」
そう言って自分のコーヒーをすすると、おじさんが座っていた場所に目が留まる。
そこには、飲みかけの缶コーヒーが置き去りにされていた。
「いい大人が、だらしないよ。全く」
ボクはため息をつきながら、片付けてやろうとその缶を手に取る。
その時だった。
缶の下敷きになっていた『何か』が、風に吹かれてはらりと地面に落ちた。
「なんだろう。おじさんの忘れ物かな? ……これは」
40億歩の約束
(……夢を見た)
「ヒーロー、だぁ?」
満天の星が降り注ぐ、静かな夜の公園。
ブランコに腰掛け、一人の青年が夜空に浮かぶ星の精霊に語りかけていた。
ヒーローに憧れる、まだ青くさい時代の天堂凱だ。
アルカステラ『アポロ』にとって、人の夢は彼女のエネルギー源だ。
だから、彼女は人の夢を決して笑わない。 笑わない、はずなのだが。
「だははははは!!! なんだよそれ!
人間ってやつは、大体思春期を過ぎたらそういうのを『卒業』するって聞いたぜ?
それを……んっな大真面目な顔で言われちゃあ…… 流石のオレも聞いたことねぇな!」
アポロは腕を組み、不敵な笑みを浮かべて夜空に舞う。 その首元の赤いマフラーが、まるで彗星の尾のように揺らめいた。
「しかも、なんだぁ? 何年かかってもそのWCSの優勝を目指すだぁ?
人間は18歳を過ぎると、オレたちの姿は見えなくなる……そういう理(ことわり)だろ?
お前いくつだよ? 今からそんなの目指すなんざ、遅すぎやしねぇか?」
アポロの哄笑が夜風に溶ける。 だが男――天堂凱は、馬鹿にされても怒る様子もなく、ただ真っ直ぐに頭上の月を見つめ返した。
『人はどのタイミングからでも生まれ変われる。だから私はヒーローを目指したんだ。飛び出した空が青空だと信じて』
男の瞳に映るのは、夜の闇ではなく、その先にある光だった。
『これは、オレの憧れのヒーローの言葉なんだ。 ヒーローはいつもオレに『夢』という約束事を与えてくれた。 だから、今度はオレの番なんだよ』
凱は拳を握りしめ、遥か彼方に浮かぶ月を指差す。
『オレは絶対諦めねぇ。 オレの一歩は小さいかも知れないけどよ。
40億歩歩めば、月までだって届くんだ!
だからよ、目指そうぜ! 俺と一緒に、最高のヒーローをよ! 相棒!』

なぜ、諦めてしまったのですか
次の日。 何気なくスマホで見た記事に、ボクは膝から崩れ落ちそうになった。
『【悲報】プロゲーマー・天堂凱選手、引退。』
ネット掲示板にひっそりと書かれた、その記事。
世間にとっては、ほんの小さなニュースかもしれない。
けれどボクにとっては、天地がひっくり返るほどの絶望だった。
『まぁ、流石に年だししゃーない』
……嘘だ。
『正直、ワイ天堂選手好きだったよ。いつも熱い試合をして、いい選手だった』
嘘だ。
『最後に引退試合見たかったけどな。まぁ、今のレートじゃ配信に映るのも難しいしね』
嘘だ!!!!
『ヒーローとは、「諦めない者」のことを指します』
諦めないのがヒーローだって、言ったじゃないか!!!
『例えその一歩が小さなものであろうと、40億歩歩めば月へも届くのです』
夢を叶えるって、言ったじゃないか!!!!
『諦めなければ、ヒーローは必ず勝利するのです』
「天堂さん……ボクはあなたになりたくて…
…あなたのようなヒーローになりたくて頑張ってきたのに
……なのに!!!!」
気がつけば、ボクは走っていた。
ポケットに入れた、昨日の「忘れ物」を握りしめて。
……
「おっ、坊主。今日は早いな」
河川敷のベンチ。
おじさんは、安っぽい仮面をつけたままで、いつもと変わらず缶コーヒーを啜っていた。
ボクは荒い息を整えもせず、おじさんに歩み寄ると、あるカードを突きつけた。
「……なんだ、これは」
「おじさん、昨日ベンチに忘れてったよ。 大事なものでしょ。返すよ」
突き出したのは、天堂凱が魂よりも大切にしていた相棒――『アポロ』のカードだ。
おじさんは仮面の奥で「あちゃー」という様子で頭をかいた。
「あぁ、やっぱり忘れちまってたか。
……そいつはな、坊主にやるよ」
……は?
「実はおじさん、昔はステラバトルでちょいとばかしブイブイ言わせてたんだけどよ。
さすがに年だろ? いつまでカードゲームで遊んでるんだ!って家族にも怒られちまってな。ここらが潮時、もう辞めることにしたんだよ」
ヘラヘラとした、軽い口調。
まるで、ゴミでも捨てるみたいな言い草。
……なんだよ、それ。
「本当は昨日、坊主にあげるつもりだったんだが、タイミング逃しちまってよ。 坊主に見えるように置いとけば、拾ってくれるかなって思っ――」
「ふざけるなッ!!!!」
ボクは、おじさんの胸ぐらに掴みかかっていた。
視界が涙で滲む。
「ふざけるなよ……!? これは、あなたの一番大切な夢だったはずじゃないですか!
どうして、どうしてあげるなんて簡単に言うんですか……『天堂』選手!!!」
叫びと共に、ボクは地面におじさんを押し倒す。
その勢いのまま、おじさんの顔を覆っていた仮面をひっぺがす。
「あ……」
夕暮れの中、露わになったその素顔。
そこにいたのは、ボクが憧れたヒーロー『天堂凱』だった。

「……バレちまったか」
天堂選手はバツが悪そうに、ぽつりとそう言った。 間違っててほしかった。 天堂選手がそんな諦めの言葉を口にするなんて、あって欲しくなかった。
「……どうして」
気が付くと、ボクの目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「ボクはヒーローになりたくて……あなたのようになりたかったんです!」
「……言ってたな」
「負けても決して諦めないあなたに憧れて! 諦めなければ、必ずヒーローは勝てるって、そう信じて……!」
「……あぁ」
「なのに、なんで辞めるなんて言うんだよ!!!!」
ボクは、気が付いたら叫んでいた。 悔しかった。 あの言葉は嘘だったのか?
結局、ヒーローは現実に勝てないの?
「……坊主」
そう言うと、天堂選手は困ったような顔をした。
「……勝負、してよ」
ボクは涙を拭い、彼を睨みつけた。
「ボクが勝ったら、諦めるなんて言葉、取り消してよ!
諦めないって言ってよ!!! もう一度、戦うって言ってよ!!!」
「……それは、出来ない」
「なんで!!!!」
天堂選手はふと視線を外し、空を見上げた。
どうして、どうしてこの期に及んで……!
アポロが不意に悲しそうに呟く。
『・・・そうか、もう『お別れ』がきちまったのか。』
「!!!」
脳裏に、世間の悪意ある噂が蘇る。
『本来なら、18歳で見えなくなるはずの精霊。それがいまだに見えていると主張する痛々しい男』
そんな……まさか、本当に?
ボクは、ハッとして手元のカード――『アポロ』の方を見る。
アポロは、実体化してそこに立っていた。
そして、ずっと天堂選手の横顔を、悔しそうに見つめていた。
『……分かっちゃいたさ』
アポロの声が、ボクの頭に直接響く。 それは、主にはもう届かない声。
「…いつからですか?」
ボクは、天堂選手に言う。
「なぁ、坊主。
少し歩かねぇか。」
天堂選手と夕暮れに沈む河川敷に向かって歩き出し、
ぽつり、ぽつりと語る。

受け継がれる「赤いマフラー」
----1年前、オレはショップ大会に出場した。
対戦番号がコールされるたびに、血が沸騰する感覚を覚える。
ステラバトルを始めて20年余り、オレはずっと相棒と一緒に青春を走り抜けてきた。
辛いこともあった。
日に日に頭の回転は遅くなり、以前のようなキレのある戦術を取れなくなった。
メタ(流行)の変化も早くなり、置いていかれそうになることなんて日常茶飯事だ。
自分が知ってるプレイヤーは、何人も『夢』から覚め、自らの相棒を手放した。
彼らは夢見る子供から『卒業』し、大人になっていく。
それは、自分とて例外ではないと分かっていた。
それでも、オレにはコイツが見えていたから。
『さぁ! 始めようぜ! 相棒! ……相棒?』
アポロの声が、水の中にいるように遠く聞こえた。 隣を見る。
『……ッ!?』
いない。 いや、いるはずだ。
気配は感じる。
だが、オレの相棒が……まるでピントが合わないカメラのようにぼやけて、輪郭が溶けていく。
(そうか……遂にオレの青春も、終わっちまったのか)
18歳どころか、40歳近くまで見えていたこと自体が奇跡だったのだ。
魔法が解ける時間は、あまりにも唐突に来た。
『おい! どうした凱! どこ見てんだよ!』
遠くで、相棒の困惑する声が聞こえる。
不安にさせてはいけない。
コイツとオレは、何度も危機を乗り越えて来たんだ。
最後くらい、カッコつけさせてくれよ。
オレは、見えてもいない虚空に向かって、精一杯の強がりで親指を立てた。
「おう! 行くぞ、相棒!!! 人類にとっては小さな一歩かも知れねぇが、俺たちにとっては大きな一歩だ!!!」

……その日の試合、オレはボロ負けした。
当たり前だ。
見えていないカードを使えるほど、甘いゲームじゃない。
…… …………
「……それから逃げるように会場を出て、この河川敷のベンチでぼんやり座っていたんだ」
天堂選手は、懐かしむように河川敷を見る。
「そうしたら、泣きっ面で歩いてくる中学生のガキを見つけた。
……それが、1年前のお前だ」
そうか。 あの日、おじさん(天堂選手)が一人で黄昏れていたのは、
アポロが見えなくなった直後だったんだ。
それなのに、ボクの前では……。
「坊主に『ライダーのお面』を馬鹿にされた時、嬉しかったよ。
子供だましのお面でも、被っていれば『ヒーロー』でいられる気がしたからな」
「……っ」
「でもよ、もう潮時だ。 見えねぇのに見えてるフリして戦うのは……相棒(アポロ)に対して失礼だろ?」
天堂選手はボクに向き直ると、静かに言った。
「俺は、俺の夢をお前に託したい」
「……ボクに?」
「ああ。 俺じゃ届かなかった40億歩の先へ……お前なら行ける」
天堂選手は、憑き物が晴れたような笑顔でそう言った。
「でも、ボクはカードゲームが弱くて」
「知ってるよ。」
「・・・泣き虫で、子供っぽくて」
「関係ないさ」
凱は英雄の肩に、強く、優しく手を置いた。
「『人はどのタイミングからでも生まれ変われる。 だから私はヒーローを目指したんだ。 飛び出した空が青空だと信じて』」
それは、彼が憧れたヒーローの言葉。
そして、かつて彼がアポロに誓った言葉。
「……これは、オレのヒーローの言葉さ。 坊主。
お前さんがもしヒーローになりたいのなら
その夢に、どうかコイツを連れて行ってくれ。
……オレは、十分夢を見させてもらった」
彼は、自分の首に巻いていた「赤いマフラー」をほどいた。 ボロ布のように使い古されているけれど、何よりも鮮やかな赤。 それを、ボクの首にふわりとかける。
「ヒーローになってくれ。 次は、キミの番だ」
「!?」

ドクリ、と心臓が跳ねた。
脳裏に、あのインタビュー映像がフラッシュバックする。
『――ヒーローとは?』
『ヒーローとは、「諦めない者」のことを指します』
『例えその一歩が小さなものであろうと、40億歩歩めば月へも届くのです』
『諦めなければ、ヒーローは必ず勝利するのです』
首元のマフラーから、彼の体温が伝わってくる。
その熱が、ボクの臆病な心を焼き尽くしていく。
隣でアポロが、ニカっと笑ってボクの肩を抱いた気がした。 もう迷わない。 ここで引いたら、男じゃない。
「……ずるいよ。 大人って皆、そうやって人にあれこれ押し付けてさ」
ボクは涙を拭い、顔を上げる。 そして、真っ直ぐに凱を見据えた。
「だけど、分かったよ。 なってやるよ。
『オレ』が、ヒーローに」
アポロと英雄
----2年後
放課後の廊下に、春の風が吹き抜けた。
善野英雄(ぜんの ひでお)は、渡り廊下の真ん中で仁王立ちしていた。
彼の自慢の真っ赤なスカーフは、まるで特撮ヒーローのマフラーのように、
背中でバタバタと激しく暴れている。
「――来たか」
英雄は青く大きな瞳を細め、誰もいない廊下の先を睨み据えた。
彼が見据えているのは、まだ見ぬ敵『アンゴルモア』か、それとも世界の終焉か。
否、彼が見ているのは、壁に貼られた『ヒーロー部・部員募集中』のポスターだ。
「よし! 画鋲の角度、完璧!」
英雄は満足げに頷くと、くるりと振り返り
誰もいない空間に向かってポーズを決めた。
「待たせたな! オレの名は善野英雄。
この学園を、いや、世界を守る男だ!」
シーンと静まり返る廊下。
通りがかった生徒が数名、奇妙な生き物を見る目で彼を避け、足早に過ぎ去っていく。
だが、英雄の心は折れない。
防御を捨てた攻撃特化のスタイルは、メンタル面でも同じだ。
無視というダメージを受けても、彼のやる気は止まらない。
(天堂選手、見ててください)
脳裏に蘇る、あの日の夕暮れ。
差し伸べられた節くれだった手と、託された色あせた赤いマフラー。
あの時の憧れが、今の彼の背骨を支えている。
「部員はまだゼロ……。
だが、問題ない。
ゼロになにを掛けてもゼロだが、足していけばいつかは無限大になる!」
『――おいおい。ゼロにゼロをいくら足しても、答えはゼロだぜ?』
突如、懐かしくも呆れたような声が、英雄の思考に直接響いた。
英雄の隣に、陽炎のようにゆらりと赤い影が現れる。
かつてのヒーローの隣にいた相棒――精霊アポロだ。
彼女は腕を組み、やれやれと首を振っている。
「数学の授業、寝てたのか? 坊や。」
「なんだよアポロ! 計算式じゃない、ハートの話だ! 俺たちの熱い魂(ゼロ)が集まれば、ビッグバンだって起こせるんだよ!」
「だはははは! 言うねぇ。
そういう無茶苦茶な理屈……ホント、『あの男』にそっくりだ」
アポロは愉快そうに笑うと、英雄の背中で暴れるネクタイを愛おしそうに眺めた。
その視線の先には、今の主(あるじ)と、かつての主の面影が重なって見えているのかもしれない。
「ま、いいさ。付き合ってやるよ、どこまでもな。――まずは部員『1』を目指してな!」
アポロの言葉に、英雄はニカっと笑い返す。
スカーフを風になびかせ、二人の英雄は今日も笑う。
「さあ、今日も一日頑張ろう! 頑張るきみが、本当のヒーローだ!」

いかがでしたでしょうか?
納得いくまで何度も書き直していたら、投稿がすっかり遅くなってしまいました……。
ですがその分、英雄君の「継承」と「覚醒」を描いた、熱いお話になったと思います。
2026年も『HorizonNotes』共々、何卒よろしくお願いいたします!
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