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雨に導かれ、ひろしま美術館へ「アルベール・マルケ展」

前回の記事で、ハローキティ新幹線(山陽新幹線こだま)に乗ったことを書いた。広島で下車し、旅はまだ始まったばかり。

東京から「のぞみ」と「こだま」を乗り継ぎ、6時間以上。はるばる広島に着いたものの、この日はあいにくの雨模様だった。それも本格的に降っていた。この降り方では街歩きはきびしい。
雨の日でも、その魅力を存分に味わえる場所といえば、やはり美術館だろう。ちょうどチェックしていた美術館があったのだ。
フランス印象派作品が充実しているひろしま美術館、縮景園と共に楽しみたい広島県立美術館、そして海辺に佇む下瀬美術館の三つの施設。
すでに時刻は2時過ぎていたため、今回は近くのひろしま美術館へ行くことにした。

美術館外観とマルケ展パネル

特別展として、アルベール・マルケ展が開催されていた。
先日観たばかりのシュルレアリスムとは全く異なる画風のマルケの絵は、しみじみ旅情をさそうようであり、詩的な印象を受けた。

ひろしま美術館で鑑賞した特別展、そして常設展について綴っていこうと思う。


1.マルケとマティス

はじめの部屋に展示されていた絵を見た瞬間、「あれ、この絵、見たことある…」と思った。裸婦の絵だ。
たしか、マティスに同じような絵があったような…と思い、過去の写真を調べたら案の定出てきた。
マルケとマティスは友人だ。この絵を描いた当時、同じ場所で同じ対象を見ながら描いていたんだろうか…と思うと、なんだか感動した。

左:マルケ「裸婦、通称フォーヴの裸婦」
右:マティス「画室の裸婦」(アーティゾン美術館)

画家仲間が集まるアトリエで、若かりしマルケとマティスは競うように本作に取り組んでいたんだとか。

原色を大胆に使用し強烈さが感じられるフォービズムの渦中で、マルケもその流れにのっていたが、徐々にそこから離れた位置の画風へと変化していくことになる。

2.静寂を纏った水辺

旅を愛したマルケは、その地その地の風景を制作していたというが、その作品は、ほとんどが水辺だ。
観ていると、穏やかだがどこか感情が排除されたような感じがした。決して声を張り上げることはない。ただただ、静かにぼんやりと時が流れていく感じ。

「ナポリ、帆船」「ナポリ港」
「アルジェ港」「アルジェの連合艦隊」
「ラ・グレットの窓」「ラ・フレットへの道」

きっと、部屋の窓からの景色が実際にこんなだったのかもしれない。
全体的に派手さはないものの、癒しが必要なときにはこういう穏やかな絵をじっくりと鑑賞するのがいい。激しい色彩を放っていた初期のフォービズムとは、対極にある穏やかさだ。

こういう絵を描くマルケ自身の性格も穏やかだったのだろうか。

3.ポン=ヌフに寄せる、パリの追憶

ポン=ヌフをモチーフとした作品が数多くあった。
晩年のマルケが終の棲家としたのが、セーヌ河にかかるポン=ヌフのたもとのアパルトマンだったとか。
異なる季節や時間帯で描かれるポン=ヌフは様々な表情を見せてくれた。

「雪と緑色の空、パリ(ポン=ヌフ)」
「ポン=ヌフとサマリテーヌ」

ポン=ヌフは、映画の舞台でよく使われているせいか、わたしの中ではドラマが起きる場所というイメージ。
いつかこの橋を歩いてみたい。……パリへ行ったのはいつだっただろう。ふと、かつて訪れたパリの記憶が蘇る。あれはまだ、フランス文学や芸術に傾倒する前の20代の頃だった……

4.ドームの中の巨匠たち

美術館本館は、丸いドーム型となっている。原爆ドームをイメージしているんだとか。

本館内

放射状に4つの展示室が配置されている。
フランス絵画を中心に多くの作品が展示されていた。多くの巨匠作品を観ることができて、眼福。
その中で、印象に残ったいくつかの作品をまとめた。

まず、モネの水辺の風景の絵に目が留まった。先ほどのマルケも水辺の作品が多く描いていたからかもしれない。

モネ「アムステルダムの眺め」「セーヌ川の朝」
ゴッホ「ドービニーの庭」

ゴッホの鮮やかな緑がひときわ目をひく「ドービニーの庭」は、今の新緑の季節にピッタリな気がした。これからする旅で、この作品のような鮮やかな緑に出会ったから。

そして、マルケが何枚も描いていた「ポン=ヌフ」にも目が留まった。

ポール・シニャック「パリ、ポン=ヌフ」
カミーユ・ピサロ「ポン=ヌフ」

絵画に関わらず、多くのアーティストがこの橋をテーマにする。きっと、詩情あふれる場所なんだろうな。

そして、フォービズムとピカソの部屋では、マルケの友人マティス作品も展示されていた。
「ラ・フランス」というタイトルの女性、椅子に肘をかけ堂々とした様子。女性の姿を大きく見せているせいか強さを感じさせる。鮮やかなドレスに鮮やかな背景が目をひいた。

マティス「ラ・フランス」/フェルナン・レジェ「踊り」
パブロ・ピカソ「仔羊を連れたポール・画家の息子、二歳」「手を組む女」

箱根彫刻の森のピカソ館にも、ピカソの息子ポールの作品が展示されてあった。どちらのポールもかわいらしく描かれていた。

5.さいごに迷子

雨に導かれるように訪れたひろしま美術館。
マルケの穏やかな絵画から始まり、巨匠たちの名画にひたる時間は、とても贅沢だった。

美術館を出たときも、雨はまだ降り続いていた。旅先で雨に降られると、どうしても残念な気持ちになるが、マルケの絵を観た後は、なんだか穏やかな気分でいられるようだった。
……そんな余韻に浸っていたら、宿へ向かう途中、路面電車の方面の多様さによく分からなくなり、慣れない広島の街で迷子になってしまった…

ま、とにかく、これからの旅路で出会う景色は、マルケの穏やかな水辺や、ゴッホの鮮やかな新緑、マティスの力強い色彩のように、わたしだけの特別な色に彩られるだろうと思う。

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