その"動けなさ"、本当に病気のせいですか?─褥瘡予防で薬剤師が最初に見る"眠剤"の話
この記事で取り上げている症例は、複数の症例を掛け合わせており、個人が特定されないように配慮を行っています。
夜勤明けの看護師さんからの言葉
昨日、夜勤明けの看護師さんから
「この人、今日も全然動けないんですよね」と言われた。
ベッドサイドに行くと、
目は開いているけど反応が遅い。
手足は動かせるはずなのに、
自分から動こうとしない。
声をかけると、ゆっくりこちらを見る。
でも、また視線が天井に戻る。
カルテを開いてみると…
リスペリドン、ブロチゾラム、
頓用でクエチアピン。
…これ、全部一気に飲んでるのか、と思った。
入院時の処方箋を遡ってみる。
入院前から飲んでいたのはブロチゾラムだけ。
リスペリドンとクエチアピンは、
入院後の"夜の不穏"に対して導入されている。
昼の覚醒が悪くなったのは、その後だった。
褥瘡のリスク評価表(うちはOHスケール)を見ると、「自力体位変換能力=できない」にチェックが入っていた。
先週までは「どちらでもない」だったのに-

仙骨部の皮膚は、まだ赤くなっていない。
でも、このまま昼間も動けない日が続いたら、
たぶん来週には赤くなる。
「最初に見るならどこ?」への答え
以前、褥瘡予防の"正解"が見えなくて悩んでいる話を書きました。
あの記事で挙げた"薬剤師が介入を検討する6項目"のうち、今日はいちばん最初の項目
── 体動を妨げている可能性がある薬剤 ──を、
私が現場でどう見ているかを書いてみます。
私なりの結論はあります。
でも、毎回スッキリできているわけではない、
という前提でお読みください。
20年以上やっていても、
カルテの前でフリーズする日があります。
今日はそういう話も含めて、
正直に書きたいと思います
"眠りの薬"を最初に見る、3つの理由
6項目のうち、なぜ最初に"鎮静薬・抗精神病薬・睡眠薬"を見るのか。
私の中では、理由が3つあります。
① 疫学的に"動けない"の上流にいる薬剤群だから
鎮静薬を入院前から服用していた高齢者は、入院時にすでに褥瘡を持っている率が高く、潰瘍がより重症・多発・深い傾向があるという後方視的研究があります(Patient risk factors for pressure ulcer development, PubMed 2003)。
また、抗精神病薬のクロルプロマジン換算量が踵部褥瘡のリスク因子になり得るという報告も、厚労省の高齢者医薬品適正使用検討会で取り上げられています。
② OHスケールの"自力体位変換能力"を直接押し下げるから
『褥瘡予防の正解はどこ?』の記事で触れたOHスケールの4項目(自力体位変換能力/病的骨突出/浮腫/関節拘縮)のうち、薬剤が最も直接効くのは"自力体位変換能力"です。
拘縮や浮腫よりも先に、
ここに影響している薬が多い。
逆に言うと、薬を見直して動きが戻れば、
他の3項目に介入する前に
褥瘡リスクが下がる可能性があるということです。
③ "薬剤師が介入できる余地が一番ある"領域だから
拘縮はセラピストの皆さん、
浮腫は循環や腎臓・心臓の問題、
低栄養は管理栄養士さん。
6項目の中で、薬剤師が一次的に提案できて、
かつ提案が通りやすいのが"眠りの薬"だと思っています。

順番として、ここがいちばんやりやすい。
だから最初に見ます。
薬を4つに分けて見る
実際にカルテから見つける薬を、
私は頭の中で4つのグループに分けています。
看護師さんやPT・OTさんにも共有しやすいように、表にしてみました。

大事な補足をひとつだけ。
私は"ベンゾ=悪"とは思っていません。
必要な患者さんも、もちろんいます。
ただ、褥瘡予防の文脈では「昼間の覚醒度を奪っていないか」が判断の入口になる、というだけです。
高齢者の睡眠薬リスクをまとめた解説(みんなの介護)も、
看護師さん・PTさんと一緒に読むのにちょうどいい感じでした。
私が現場で最初に投げる3つの問い
ここからは頭の中で言っていることを書いていきます。思考パターンなので、羅列でよみにくかったらごめんなさい。
カルテを開いたとき、
私が最初に自分に投げかける問いは3つ。
① 「"いつから"動けないのか」
入院前から動けていなかったのか、
入院後の処方変更とタイミングが合うのか。
リハ記録(PT・OTさんのコメント)と処方履歴を、横に並べて見る。
ここが揃うと、
「薬かもしれない」が「薬だと思う」に変わる。
逆に揃わないなら、薬以外の上流(脱水、感染、せん妄、急性期からの持ち越し)を先に疑う。
② 「"日中"の活気はどうか」
夜の睡眠を確保するための薬が、
昼の覚醒まで奪っていないか。
看護記録の"傾眠"や"反応鈍麻"、"声かけで開眼"といった表現を拾う。
リハ時間帯の活気は、
PT・OTさんに直接聞きに行ったほうが早い。
カルテの記載より、
口頭の方が情報量が多いことが多い。
③ 「"代替案"があるか、ないか」
中止が現実的でないなら、
減量/剤形変更/服用時刻ずらし/別系統への切替。
ラメルテオンやスボレキサントへの置き換えが妥当な患者さんか。
主治医に提案する前に、看護師さん・PTさんの「動かしたい時間帯」を確認しておく。
これをやっておくと、提案が通る確率が体感で倍くらい違う。
3つの問いに順番に答えていくと、
方向性がみえてくることがあります。

それでも、方向性がみえるだけでも良しとしたい。
答えが出ない日のこと
正直に書くと、リスペリドンとブロチゾラムが両方入っていて、両方とも"夜の不穏"のために導入された患者さんを見ると、私はその場で答えが出せない。
"先に減らすならどっち?"を、
頭の中で何往復もする。
実際に看護師さんに相談されたりもする。
ベンゾの筋弛緩に重きを置くべきか、
抗精神病薬の錐体外路を最優先に心配すべきか。
薬局に持ち帰って、ガイドラインと過去の経過と、入院前の生活歴を並べて、
ようやく"こっちからかなぁ…"と決まる。
そして翌日、提案が通って減量したとしても、その夜に不穏状態になってしまうこともある。
そうなった夜の申し送りを聞くのは、
かなりつらい。
"動けるようになる"と"夜眠れる"を両立させる答えは、毎回見つかるわけではない、と思います。
それでも見にいく理由は、
見にいかなければ、
その患者さんの褥瘡は"皮膚の問題"として処置だけ続くからです。

皆さんに聞いてみたいこと
褥瘡予防について、
皆さんに聞いてみたいことがあります。
★看護師さんへ★
夜勤帯で「眠れているように見える」患者さんが、翌朝問題なく起きれたときと、傾眠が強いと判断されるとき。その判断の見極めはどこですか?食事を食べれるかどうかでしょうか。
看護師さんの思考の裏側を知りたいです。
★PT・OTさんへ★
リハ時間の"動けなさ"が、麻痺や筋力なのか、薬による眠気なのか── 切り分けるとき、どこを見ていますか。
「今日は薬が原因かもしれない」と感じる日の、
PT/OTさん側の判断基準を、教えてください。
★管理栄養士さんへ★
覚醒度が落ちて食事摂取量が減ると、
低栄養→皮膚脆弱→褥瘡という連鎖に入ります。
覚醒と食事の相関、現場でどう情報収集していますか。"傾眠で食事が進まない日"の記録のつけ方、知りたいです。
★同じ薬剤師さんへ★
「夜の不穏で導入した薬を、減量する」提案を主治医に出すとき、いちばん通りやすかった伝え方があれば、教えてください。
私は「夜の不穏が戻った場合の頓用プランをセットで提案する」とわりと通ることが多いですが、もっと上手なやり方がある気がしています。
褥瘡が"皮膚の問題"でなくなるとき
"動けない"が薬のせいだとしたら、
褥瘡は"皮膚の問題"ではなく"処方の問題"になる。
これが、褥瘡予防に薬剤師が最初に呼ばれるべき理由だと、私は思っています。
次回は、6項目の② ステロイドと皮膚の脆弱性 を、減量提案のタイミングという切り口で書く予定です。
回リハ病棟で意外と多い、
長期低用量ステロイドの患者さんの話になります。
今日も、最後まで読んでいただいてありがとうございました。
📚あわせて読みたい
▼ 「6項目の全体像」を確認したい方へ
今回の話の出発点。なぜ薬剤師が褥瘡予防に関わるのか、最初に書いた1本です。
▼ 「処置の現場」で悩んでいる方へ
"動けなさ"の上流を見るのが今日の話なら、こちらは"処置"の現場の話。看護師さんと一緒に読んでもらいたい1本です。
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