その0.1に、私は2週間迷った
ある患者さんの検査値が、
ほんの少しだけ動いた。
数字にすれば、0.1ちょっと。
これだけ聞くと、
ほとんど変わっていないように思える。
でも私は、それを2週間ずっと考えていた。
腎臓が悪くなったのか。
薬のせいなのか。
それとも、数字の誤差なのか。
専門家だから即答できる、なんてことはない。
検査値は、同じ人でも日によって違う
まず、いちばん伝えたいことから。
検査の数字は、体の状態が変わらなくても動く。
同じ人が、同じ日に、二回採血する。
それでも数字はぴったり同じにはならない。
体の中のわずかな変動、
測定機械の誤差、
採血の時間帯。
いろんな理由で、少しずつ動く。

だから、検査値には
「このくらい動いても、まだ変化とは言えない」
という幅がある。
腎臓の検査でよく見るクレアチニンという項目だと、その幅はだいたい1割から2割。つまり、少し上がったからといって、すぐに「悪くなった」と決まるわけじゃない。
一回の数字で不安になる必要はありません。
ただ、「気にしなくていい」とも言いません。
大事なのは、何度か並べて見ること。
一点では線が引けませんが、
三点あれば方向が見えてきます。
だから、前回の値と比べてどうなのか。
それを知ることが、いちばん役に立ちます。
理由が、腎臓じゃないこともある
数字が上がったとき、「腎臓が悪くなった」以外の可能性もいくつかある。
💊最近始めた薬。
新しく飲みはじめた薬が、
数字を動かしていることがある。
腎臓を傷つけているわけではなく、
検査値の出方だけを変えている場合だってある。
🫗水分が足りていない。
夏場や、食事の量が減っているときは特にそう。
水分が足りないと、数字が上がることがある。
💪リハビリで筋肉が戻ってきた。
これは意外に思われるかもしれない。
クレアチニンは筋肉から出てくる物質なので、体力がついて筋肉が増えると、数字は上がる。
腎臓は何も悪くなっていないのに。

つまり、数字が上がったことが、
必ずしも悪い知らせとは限らない。
このあたりを、
私たち医療者は一つずつ確かめていきます。
すぐに答えが出ないのは、そのためです。
こう聞いてみてほしい
不安なとき、こう聞いてみてください。
「この数値、前回と比べてどのくらい変わっていますか」
「最近始めたお薬の影響ということは、ありますか」
「これは様子を見ていい範囲ですか。」
特に3つ目。
聞きにくいようでいて、
いちばん知りたいことだと思います。
「様子を見ましょう」と言われたときに、それが放置ではなく判断なのだとわかれば、次の採血まで落ち着いて待てます。
薬のことなら、かかりつけの薬局でも聞けます。
処方箋がなくても大丈夫。
おわりに
私が2週間考えていた患者さんのこと。
結局、いくつか検査を追加して、しばらく様子を見ることになった。慌てて薬を変えることもなかった。
わからないときに何もしない、
というのは、実はけっこう勇気が要る。
でも、慌てて動くほうが患者さんに不利益になることもある。
だから、もしあなたの検査値が少し動いていて、
先生が「もう少し様子を見ましょう」とおっしゃったなら。
それは、ちゃんと考えられた上での
「様子を見る」かもしれません。
そして、こう聞いていいんです。
「これは、様子を見ていて大丈夫な範囲ですか?」
※ この記事は「検査の数字が動いたとき」の話です。食事の制限については、姉妹記事に書きました。
▼姉妹記事。食事制限についてはこちら
【薬剤師・医療者向けの補足📚】
自分へのメモも含めて、私の考えを書いておきます。
興味のない方は、ここから先は読み飛ばしてください。
1.変化が有意かどうかを、まず問う
血清Crの個体内変動係数(CV_I)は4〜5%程度。
測定変動を加えたreference change value(RCV)は酵素法でおよそ13%、Jaffe法では19%前後。
成人でのRCVは概ね14〜25%とする報告もあります。
たとえばCr 0.86→0.98であれば変化率は14%。
酵素法でかろうじて有意、Jaffe法なら変動範囲内という位置づけ。KDIGOのAKI基準(48時間で0.3 mg/dL以上、または1.5倍)も満たしません(今回の事例も該当しません)。測定法と検査室が同一か、採血条件が揃っているかの確認が前提だと思います。
2.BUNが動いていないことの意味
腎前性であればBUN/Cr比が上昇するはず。
BUN不変はこれに否定的に働きます。
真のGFR低下であればBUNも並行して上がるのが通常。
BUNが動かないなら、クレアチニン側に特異的な機序…
たとえば、尿細管でのCr分泌低下、
あるいは骨格筋でのCr産生増加。
これらを優先して考えるべきだと思っています。
ただし回リハ病棟では、栄養介入による同化亢進がBUNを下方に押して、上昇を相殺している可能性が残る。低蛋白摂取例ではBUNの感度が落ちる点も割り引く必要があるのでは?
3.切り分けの一手
シスタチンCが最も費用対効果の高い検査だと思う。
eGFRcrとeGFRcysに乖離があれば、
Cr産生・分泌側の要因を強く示唆する。
あわせて、リハビリ強度や単位数の変化、体重・下腿周囲長の推移も確認する価値がある。回復期では、筋量回復によるCr産生増加が「悪化」ではなく「改善」を反映していることがあるため。
参考
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