見出し画像

【File No. 016】 B2F攻略戦:『名もなき毛玉と聖域の主』 〜敗北

 最後の激突は、生存を賭けた泥臭いものとなった。モフモフはもはや、美しく舞うことはなかった。剥き出しになった赤黒い筋肉を剥き出しにし、粘液を撒き散らしながら、重力に従って突進してくる。それは、ただ死を拒絶する生命体の、純粋で残酷な叫びのようだった。

 冒険者の呼吸は荒く、甲冑は凹み、視界は自身の血で赤く染まっている。それでも、この不条理な生命の循環の中に、一点の光を見出そうとする意志が、剣を支えていた。

 極限の集中。世界がスローモーションに沈む中、冒険者はモフモフの「核」へと肉薄した。 剣が深く、その生命の根源へと突き刺さる。

 しかし、その一撃は、決定打にはならなかった。  モフモフは、自身の体内から噴き出す血潮をものともせず、冒険者の胸板に、残された太い肢を叩きつけた。それは、大地が揺れるような、しかし予測不能な軌道を描く、根源的な一撃だった。

 ガシャリ、と鈍い音が響き、冒険者の甲冑が砕け散る。  肋骨が軋み、肺から空気が漏れる。視界が急速に狭まり、腐植土の匂いが、遠い記憶の残滓のように鼻腔を掠めた。

 冒険者の体は、ゆっくりと地面に沈んでいく。  モフモフは、その巨大な単眼を冒険者へと向けた。そこには、恨みも憎しみもない。ただ、自身の縄張りを侵した者を排除し、生き抜こうとする、厳かで、そして冷酷な生命の循環があるばかりだった。

 冒険者の意識が途切れる寸前、見上げた視界に、ゆっくりと近づいてくるモフモフの、最後の毛玉が映った。それは、まるで雪のように、冒険者の顔の上に、そっと舞い降りてくる。


 やがて、冒険者の体は、苔むした岩と同化するように静かになった。  モフモフは、その場所で、ゆっくりと、しかし確実に、失われた毛を再生させていく。剥がれ落ちた冒険者の甲冑の破片は、やがて土に還り、このダンジョンの栄養となるだろう。

 地下二階の空洞は、再び静寂に包まれる。  そこにあるのは、ただ、生命が生命を喰らい、土へと還り、また新たな生命が生まれる、永遠にも思える循環のみ。人間の冒険などという、一時の波紋は、この深淵の摂理の前には、あまりにもちっぽけなものでしかなかったのだ。

 誰の記憶にも残ることなく、冒険者の足跡は、冷たい土の中で静かに消え去っていった。


……BAD  END【効果音】



👉 宿場町へ戻る




いいなと思ったら応援しよう!

くだちい 女王『私への敬意を示しなさい』氷室『合理的な判断です』。10人のメンターと女王が、あなたの挑戦を全力サポート!頂いたチップは、より質の高い記事制作と、コミュニティの充実に活用させていただきます。読者の皆様の熱い応援が、私たちの原動力です!よろしくお願いします!