今日、誰かに優しくできなかった|器が小さかった夜に
こんにちは、ゆきのです。
エレベーターの「閉」ボタンを押した。
押した瞬間に、廊下の端を早歩きで近づいてくる人の姿が見えた。
「開」を押そうと手が動いた。
でも扉は、もう閉まっていた。
扉が閉まる一秒のあいだに、その人の顔が視界をよぎった。
驚いたような、というより、諦めたような表情だったと思う。
それだけのことでした。
でも、夜になっても、その一秒がどこかに残っていました。

帰り道、少し遠回りをして歩きました。
すっきりしたくて歩いたわけではなかった。
ただ、まっすぐ帰る気になれなかっただけで、目的もなく角を曲がった。
足の裏に、アスファルトの固さが伝わってくる。
蒸し暑い夜の空気が、首のあたりにまとわりついていた。
歩きながら、ずっと同じことを考えていました。
私はやっぱり優しくない人間だ、と。
あの一秒で、確認したような気がしていた。
少し歩くと、自販機の前で立ち止まりました。
冷たいものを買おうとして、財布を出したとき、ふと自分の手のひらを見た。
何かを渡そうとして開いた手のひらが、空のままだった。
そのとき、少しだけ思ったことがありました。
今日の私の器は、もういっぱいだった。
「優しくなかった」のではなく、「器がいっぱいだった」のかもしれない。
仕事のこと、積み重なっていたこと、細かいことが重なった一週間のこと。
そういうものが、気づかないうちに今日の器をいっぱいにしていた。
「あのとき、もし余裕があれば」——そう思うくらいには、渡したかった。
渡したかったから、一秒のことが夜まで残っていた。
ひっかかっていること自体が、渡したかった証明だった。
どうでもよければ、残らない。

自販機の前で、冷たい缶を手に取りました。
手のひらに、その温度が伝わってきた。
さっきまで空だと思っていた手のひらが、何かを受け取っていた。
ひと呼吸、吐いた。
帰れる気がした。
優しくできなかった夜は、今日の器がいっぱいだった夜かもしれない。
ゆきの

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