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言葉になる前に、届いている|ペトリコールのように

五月の雨は、匂いがします。

降り始めるより先に、空気が変わります。
乾いた土が水を待っているような、あの匂い。

これから雨が来ると、からだが先に知っている。


あの匂いに名前があることを、後から知りました。
ペトリコール。

でも名前を知るより前から、あの匂いを、私たちはもう知っていました。


感情も、少し似ているのかもしれません。

言葉になる前に、もう届いている。

何かが変わりそうな予感。
胸の奥に、うすく広がるもの。

その正体がわかる前に、からだはすでにそれを受け取っている。

「なんか、変な感じがする」
「今日は、何かが違う気がする」

そういう感覚を、ぼんやりしているとか、
気のせいだとか、大した感情ではないと
思ってきたことがあります。

でも、雨の前の匂いを「気のせい」とは言わないように。
あの漠然とした感じにも、確かな理由があるのかもしれません。
 


胸のあたりに、うすく残っているもの。
鎖骨のあたりに、まだ言葉になっていないもの。
それを急いで翻訳しなくてもいい。


ペトリコールは、名前がなかった頃から、
雨が来る前。


もし今夜、まだ言葉にならない感情があるなら。


「雨の前の空気みたいなものが、
今、胸のあたりにある」
 


それだけで、十分かもしれません。

名前がついていなくても、
それはあなたの中にある、確かな何かです。


ゆきの
 



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