景色として残っている|ミラノからカンヌへの道で
小さな赤い古びた車で、
ミラノを出た。
目的地はカンヌだったが、道のりは長かった。
高速道路が、 ただ続いていた。
運転していたのは、 ローマ出身の主任だった。
週末は浜辺で家族と太陽を浴びて過ごす。
それが、人生で一番大事なことだと言った。
ピザが好きで、
ミラノに住んでいると、
ローマの太陽が恋しくなるとも話した。
長い道のりの間、 お互いのことを話した。
故郷の話をした。
広島の話をすると、
彼は昔起きたことを知っていた。
だが、 復興した街のことは、 あまり知らなかった。
いい街になっている、
そう伝えた。
父が子どもの頃、
きのこ雲を見たという話をすると、
彼は言葉を失った。
それ以上、 説明はしなかった。
車は走り続けていた。
彼のことを思い出すと、
浮かぶのは、
まだ見たことのないローマの浜辺だ。
強い太陽と、 白い光。
あの景色は、 実際に見たものではない。
ただ、 語られたものだ。
それでも、
今も残っている。
