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眠れぬ夜 | シロクマ文芸部



熱帯夜は今日で何日目だろう。


真っ暗な天井を眺めている。
眺めるといっても、何も見えていない。
多分あの辺りが天井だろうな、という場所を眺めているだけ。


エアコンが、生真面目に風を送り出す音だけが、絶えず鼓膜を撫でている。


首筋が汗をかいている。涼しい部屋にいるはずなのに、身体は熱帯夜を引き寄せる。




ふと、昼間の光景が浮かぶ。



「暑いね」
「暑いですね」

今日、私は何人にその言葉を投げただろう。

この暑さという不快をシェアできる喜びを噛み締めるように、相手は激しく同意した。


「今日も熱帯夜になるらしいよ」

社内のお天気通、前田さんが言うのだから間違いない。

脳が、今夜の熱帯夜を覚悟した瞬間だった。


何時間も炎天下にさらされていた車に乗り込む。

フロントガラスを覆っている、アルミの日差しよけを外す。腕にアームカバーをはめ、サングラスをかけ、アクセルを踏み込む。

車の温度計は38度。
数字という確かなものが、この暑さに輪郭を与える。

車の中の熱を逃すため、しばらく窓を開けながら運転する。


エアコンがようやく効き始めたころ、目的地に着いてしまう。


そして、フロントガラスにアルミの日差しよけを広げる。


このルーティンこそが、私の夏。





夜には夜の、夏が存在する。

エアコンのさざ波を鼓膜に浴びながら、それでも湧き出てくる首筋の汗にうんざりする。


枕元に置かれた氷入りの水を、喉にグイッと流し込む。


それは、覚醒のための水ではなく、もう一度まどろむための水。

まどろみの中で、ふと思う。
明日もまた熱帯夜なのだろうか。


寝苦しさと眠気がしばらくせめぎ合った後、眠りに呑み込まれた。


夢の中の私は、フロントガラスの日差しよけを外していた。







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