JKC訓練競技会を引退した話
小さなダックスフンドと訓練を始めることになった理由
うちには、体重3kgのカニンヘンダックスフンドがいます。顔はとにかくスイートです。小柄で細身でパタパタする耳がタダンボみたいでかわいい。カニンヘンダックスフンドというと、ミニチュアとの違いは単に大きさだと思われがちだけど、ドッグショーの基準で見ると体形も性格もかなり違います。よく走るし、猫のように高いところに上るお転婆です。
子犬の頃からとにかくやる気があり、冒険心が強く、好奇心の塊。かわいいのけど、正直なところ、何もしつけをせずに家庭犬として暮らすのはかなり大変なタイプだった。「これは、どこかでちゃんと訓練を入れないとコントロールできなくなるな」そう感じるようになったのは、ごく自然な流れだったと思う。
ドイツから帰国したのが2歳を少し過ぎた頃。そのタイミングで、訓練競技会を目標に警察犬訓練所へ通い始めた。結果的に10歳までの約8年間、訓練競技会に出続けることになった。
3kgの小さな犬、それも上目遣いとウルウル目が武器のダックスフンドに本気の服従訓練を入れるのは、なかなか精神力がいる。実際に猟犬としてダックスフンドを飼った猟師も「かわいすぎるから、家で待ってて」と職務放棄させてしまうくらいかわいい。
ただ、幸いなことに、うちの犬は訓練が大好きだった。嫌がるどころか、「次は何?」「まだやる?」という顔で待っている。訓練性が高く、集中力があり、努力を惜しまないタイプだった。嫌なことは忘れるので、次の日にはまた、訓練に付き合ってくれる。
よく「犬の訓練ってかわいそう」と言われたが、むしろ、犬の方がやりたがっていた。どこかでコマンドが聞こえると飛んでいって「私もできるよ!」と訓練中の犬を邪魔してしまう。だからこそ、気がついたら8年も続いていたのだと思う。
JKC訓練競技会とは何か
ここで私がメインに参加していたJKC訓練競技会について簡単に紹介したいと思います。これは、ジャパンケネルクラブ(JKC)が主催する犬の服従訓練の完成度を競う競技会です。JKCは日本最大の血統書を発行する犬籍登録団体で、ドッグショーやアジリティ、ドッグダンスなど、さまざまなドッグスポーツを開催しています。
訓練競技会の中心は、服従作業で、これは何かというと「犬がどれだけ正確に、安定して、人の指示を理解し実行できるか。そして、犬と指導手(ハンドラー)がどれだけ一体として動けているか」を評価するものです。点数制で順位がつき、一定の成績を収めると「トレーニングチャンピオン(T.CH)」などの称号がもらえます。
訓練士が参加する「一般の部」とそれ以外の人がでる「アマチュアの部」に分かれていて、同じ競技「CD」とか「オビディエンス」とかがあります。この他にも競技がありますが、これは混合です。
メインは「CD」という家庭犬として必要な服従訓練のレベルを競う科目ですが、実際にはほとんどの犬がプロの訓練を受けた犬なので、「家庭犬」という言葉のイメージとは少し違います。
どんなことをするかというと、例えばCD2では、規定課目と選択課目を合わせた10課目で競います。紐付き脚側行進(脚側行進=犬が人の隣を歩くこと)、紐なし脚側行進、呼び戻し、伏せ、立てなど、一見すると地味だが、すべてが犬と人の信頼関係の上に成り立つ作業です。
競技会中、リードを外した瞬間に犬が脱走することや全く動かなくなることなど、練習とは全く違う動きになることもあり、競技会という環境は犬にとって非日常で、集中を保つのは簡単ではありません。
ダックスフンドは、意外と訓練向き
10kg以下の人気犬種の中で、訓練競技会で比較的成績が安定しているのは、トイプードル、パピヨンとダックスフンドだと思います。柴犬、ブル系は向いていない…。
ダックスフンドの場合、
・子犬の頃に甘やかしすぎて手に負えなくなり、訓練所に預けたら意外と訓練好きだった
・以前は大型犬を飼っていて、次にダックスを迎えたので、いつもの癖で訓練してしまった
このどちらかのケースが多い印象だです
甘えん坊で、好奇心が強く、意外と忍耐力があり、食への執着もある。そうした性格は、実は訓練に向いています。ただし、犬種特性として、本番になるとテンションが下がりやすくて、パフォーマンスが悪い。体調が悪いのかな?と思うと、リンクから出た瞬間に元気になっておやつをねだる。そのギャップに、何度も悔しい思いをしました。
一年中訓練、週末は競技会という生活
競技会に出るには、まず出場レベルまで訓練を積む必要があります。出場方法は、訓練士にハンドリングしてもらうか、飼い主が出るかの2通り。トータルの費用は大きく変わらないらしいです。
日本では訓練士が出すケースが多いが、ドイツでは飼い主が出すことが多い。この違いは、訓練競技を「仕事」と捉えるか、「レジャー」と捉えるかの文化の差かもしれない。ちなみにアジリティは、日本でもほぼ100%飼い主が出している。
関東では、9月の長野から5月の埼玉まで約9か月間、月に1〜2回競技会がある。中部地方では5月に岐阜で開催してシーズンが終わる。この後は暑くてパフォーマンスが落ちる。同時期に警察犬団体(PD)の競技会もあるので、人によっては、こちらも出場するので、この時期は月2回競技会に参加しているという生活になります。
会場はだいたい河川敷や海沿いで、普段行かない場所です。どれも今では、全部まとめて「訓練競技会の風景」として記憶に残っています。
8年間の成績
うちの犬が8年間で出場した競技会は、およそ32回。スロースターターで、成績が出始めたのは最後の3年だった。入賞はしたけど4席ばかり。白いカデットが大量に手元に残っている。競技会に出るとチャンピオン(T.CH)のポイントは貯まるが、血統書に載せる称号ではないので、それ用にテストも受けた。子孫を残すわけではないけど、ブリーダーにはきちんと育てたという証明ができたと思う。
引退は、ある日突然に
2025年5月、訓練競技会を引退した。9月に「また、会おう」と友達とあいさつしたけど、今回は気持ちが前を向かなかった。
成績が悪い年の最後の競技会は、いつも辞めるタイミングだったと思う。でも、そのたびに踏み切れなかった。長年の習慣を手放すのは簡単ではないし、今までかけたお金への未練もあったし、私自身が訓練への完成度がまだ低いと思い、諦めきれていなかったのだと思う。
引退を決めたのは、犬の反応だった。集中力が落ちたというより、耳が遠くなってきた。遠隔での指示に対する反応が、明らかに遅れるようになった。訓練競技は、健康だからこそできる遊びです。聞こえづらい状態で続けるのは、犬にとって楽しいだろうか。そう考えたとき、答えは一つしかなかった。
目はまだ見えているので、ハンドサインにはよく反応する。普段の生活には支障はないだろう。だからPDなら続けることもできるかもしれない。その可能性が、今も心のどこかに残っていて、「もう少しだけ…」という悪魔のささやきと、日々戦っている。その思いを断ち切るために今回書いてみたのです。
訓練競技会を辞めた、その先に
そして、引退のタイミングで、キャンピングカーを購入しました。8年以上、週末をすべて犬の訓練に捧げてきた家族への、ささやかなお礼です。「これで自由に出かけられる」と思ったのですが、行き先を決めるときに、家族がJKCのHPを見ているのに気づき、私だけでなく、家族も今までの生活リズムから抜け出せていないことを知りました。長年の習慣は恐ろしいものです。
私は時間ができたので、チェロの練習を8年ぶりに再開しました。さらに、なぜかバイオリンも始めました。突然始まった弦楽器の練習に、うちの犬は最初かなり戸惑い、怒りを隠せず、バイオリンケースを開けるたびに文句を言いに来て、松脂ケースを転がしたりしていましたが、今はだいぶ落ち着いています。チェロは彼女が家に来たときからあったので、分かっているけど、バイオリンは新参者なので長時間練習しているとかまっているように見えて嫌みたいです。
私と私の犬との訓練競技会は終わりました。でも、犬と過ごす時間が終わったわけではありません。この先は、真剣な競技ではない形で、彼女の好奇心を刺激できるなにかを見つけて、一緒に年を重ねていこうと思っています。なにか見つかるはず。
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