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本の表紙をつくるときのデザイナーの頭の中 -伊佐知美さん・古性のちさん著【Letters】編-

こんにちは。アートディレクター・デザイナーの市角です。

普段はデザインや映像制作したり、
大学で准教授としてデザイン思考について教えてみたり、デザインの考え方をビジネスに活かすワークショップを全国でやったりしています。


noteではデザイナーの頭の中シリーズを毎週火曜日、noteに書いています。




今回も本のデザインのお話。
秋間早苗さんの「脳マネジンメント」から続いて

写真家・エッセイストの古性のちさんと
写真家・フォトグラファー伊佐知美さんの共著
「Letters」の表紙デザインについてです。


素敵な書影は伊佐知美さん撮影

紙の本において表紙は「無意識担当」「本能担当」


紙の本の“表紙”は、じつは私たちの“無意識”や“本能”に直接働きかける、とても大切な存在です。言ってみれば、本の「顔」にあたります。

書店やイベント会場でたくさんの本が並んでいるとき、私たちの頭の中には無数の選択肢が浮かびますよね。その中で最初に手に取られるのは、理屈ではなく直感的な“本能”が動かす瞬間です。

たとえば――
・色づかいがきれいだから
・写真に写っている人や料理が魅力的だから
・紙の質感に思わず触れてみたくなるから
・なんだか胸がざわついて、気になってしまうから

こうした「本能的な理由」が、実は手に取る動機の大半を占めています。もちろん、内容の面白さや実用性も重要ですが、それは脳が“必要かどうか”を判断するまでにタイムラグがあるもの。第一印象で「欲しい!」と感じてもらえなければ、どれだけ素晴らしい内容でもそもそも手に取ってもらえません。

人と人の出会いで「第一印象が数秒で決まる」と言われるように、本と読者の出会いも同じです。だからこそ、表紙は「心地よさ」や「ざわざわする違和感」を最優先にデザインする必要があります。


著者が見えている世界を掴まえたい



今回デザインを担当した『Letters』には帯がありません。裏表紙で内容はしっかり紹介しますから、正面のデザインでは「まず手を伸ばしたくなる」ビジュアルを目指しました。

写真家の伊佐知美さんと古性のちさんは、どちらも刹那的で情緒豊かな1枚を切り取る才を持っています。この本を手に取る人は、まさに「彼女たちが見つめる世界」を共有したいと思っているはず。デザインは、そんな読者を迎え入れる“入口”として、「彼女たちの目を通した世界」にそっと誘うことから始まります。


二人が作り上げる光と影の世界

本書に収められた写真だけでなく、SNSでの投稿やお二人の日常のつぶやきから感じ取れるのは――
「美しくも儚い、日本的な美意識」。

イラストレーターさんが紡いだ、鮮やかで優しく、そしてどこか侘び寂びも感じさせる世界観を活かしながら、表紙というひとつの作品に昇華しました。

これは、以前お話しした「作者自身をデザインに投影する」という考え方にもつながります。


実は余白が主役


背表紙から裏表紙まで、一冊をぐるりと包む“白い余白”が、今回のデザインでひときわ輝くポイントです。まるでポラロイド写真のフレームのように、余白は中にあるイラストやコメントをそっと閉じ込める役割を果たします。

この本は、写真家のお二人が向き合ってきた世界をそのまま映し出す“器”です。余白という静かなスペースにこそ、彼女たちが伝えたい風景や感情の余韻が宿っている──そんなメッセージを込めました。

では、もし余白がなかったら?描かれた絵も、紡がれた言葉も、画面いっぱいに広がってしまい、どこに視線を置けばいいのかわからなくなるかもしれません。適度な“間”が僕達の想像の余地にもなります。

ためしに余白がないデザインはこちら。

全くの別物になってしまったことが伝わるでしょうか??
華やかな主役たちに私達は目が行ってしまいますが、デザインにおいて余白はかくも重要なもの。

本がそっと重なるときに見える背表紙の角──紙の本ならではの、上品な質感が写真から伝わりますね。

僕はこの本の角が作り出す陰影が大好きです。

今回、表紙にはヴァンヌーボという紙が使われています。マットな風合いで光の反射をほどよく抑えながら、表面にあるわずかな粒感がきらりと陰影をつくってくれます。同じ「白」なのに、表紙と背表紙では微妙に異なる艶めきが生まれるのが、この紙の魅力です。

しかし、この美しさを最大限に引き出すには、余白のサイズが肝心。余白が広すぎると紙の陰影がぼやけてしまい、小さすぎると紙そのものの存在感が隠れてしまいます。ほどよいバランスで設けられた余白が、ヴァンヌーボの持つ繊細な表情を際立たせる鍵といえます。


書体で伝えるメッセージ


表紙はシンプルを極めました。

伊佐知美と
古性のちの
頭の中──

三行の日本語タイトルに、左下から斜め上へ羽ばたくように伸びる筆記体の「Letters」。

イラストと文字が、まるで最初から一体だったかのような調和を生むバランスです。地平線を思わせる日本語タイトルが視線を集め、そこから自然に「Letters」へと誘導される設計になっています。

もし、この表紙が本棚や机の上に“そのまま”置かれていたら――。
イラストと文字がひとつのビジュアルとして強く印象に残るからこそ、好きなものを飾りたがる読者の心に響くはずです。

伝えきれない詳しい情報は、帯の代わりに裏表紙へ。裏表紙はまるで帯のように、そっと内容を彩りつつ本全体を締めくくります。

裏表紙の明朝体の部分。
これは本の世界観から飛び出してきたメッセージ。
クラシックで人のぬくもりを感じさせる繊細な書体を選びました。


書体名は、筑紫Aオールド明朝 Pro 6N L
表の日本語タイトルにも使われています。


またゴシック体の部分はモリサワのA1ゴシック M

近代的な印象を与えるゴシックの中では手触りの柔らかい書体で、ビジネスライクになりすぎないバランスが絶妙です。この書体をあえて入れることでこの部分は「この本はこういう本です」という客観的メッセージになっています。


帯ではなくて裏表紙として許される最大限のアピールがこのくらいのバランスと思いました。



作者と読者、その間にある“共鳴”を大切にしながら、デザインを通して豊かな出会いをつくり出したい――そんな想いを込めた表紙です。ぜひお手に取って、その瞬間の“ときめき”を感じていただけたら嬉しいです。

Lettersはこちらから購入できます。

お二人のnoteはこちら



本書に関しての情報は伊佐さんがまとめています。


こんな感じで毎週火曜日にデザイナーの頭の中シリーズ、書いています。

こちらはよく読まれているCDジャケット編

こちらは好きな人が多いフォントの話



その他のデザインのお話はこちら。

私のデザイン事務所のサイト。普段はこんなものを作ってます。


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