ひびを指摘されて、謝らなかった左官屋さん
「自然素材の壁にしたのに、ひびが入ったんですけど」
入居して数か月の家で、施主がそう切り出したそうだ。
窓の角から、髪の毛ほどの細い線が一本。声には、責める調子が混じっていた。本人の中では、もう施工ミスだと決まっていたらしい。
呼ばれた左官屋さんは、道具も出さずに、まず壁に顔を寄せた。
線を目で追って、指の腹でそっとなぞって、しばらく黙っていた。
それから、振り返って言った。
「これは出ます。出たら、同じ材料を詰めて直せます」
謝らなかった。開き直りでもなかった。塗る前に言っておけばよかったですね、と笑ってさえいたという。
珪藻土や漆喰の壁は、湿気を吸ったり吐いたりして生きている。呼吸する壁は乾く季節にわずかに縮み、家の木も動くから、その動きの集まる窓の角に細い線が出やすいのだそうだ。
壊れたのではなく、そういう素材なのだ。
そう分かった途端、同じひび一本が、まるで違って見えてくる。
「ビニルクロスと違って、同じ材料を詰めれば、跡も分からなくなりますよ」
施主の肩から力が抜けたのは、その直し方を聞いたときだったらしい。不良品だと身構えていた線一本が、説明ひとつで、素材の癖に変わった。
帰り際、その人はひとつだけ言い添えた。幅が広がっていくひびは別ものだから、そのときはすぐ呼んでください、と。様子見でいい線と、点検がいる線。その線引きまで置いて、帰っていった。
私は普段、相談を受けて、業者さんへ発注する側にいる。
この話で覚えているのは、直った壁のことより、謝らなかったことのほうだ。
悪くないのに謝って、その場を収めてしまう人はいる。謝りもせず、説明もしない人もいる。責められた場面で、悪くない理由を落ち着いて説明できるのは、自分の仕事の中身をよく分かっている人だけだと思う。
あの日、あの人が詰めたのは、壁の線だけではなかったのだろう。
施主との間に入りかけていた、もっと細い線も、一緒に埋めていった。
ただ、その受け答えが届くのは、目の前にいた施主までだ。
いまも、壁の細い線を見つけて、施工不良を疑いながら検索している人がいる。その人の家の壁も、同じ材料で直せる壁かもしれないのに。
宣伝は性に合わない、という職人さんは多い。
ホームページは、うまいことを言うための道具でなくていい。「これは出ます。出たら直せます」——現場で先に言っているその一言を、まだ会っていない人のもとへ先に置いておく場所なのだと思う。
確かな仕事をする人が、必要な人にちゃんと見つかるように。
ホームページがない、または古いままになっている会社さんへ。
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左官の仕事は、完成写真だけでは半分しか伝わりません。続きはこちらに。
