第五章4
山中が顔を真っ青にしてやってきた。
「昌次さんが近くの駐車場に来てて、翔太さんと連絡つかないんだけどどこにいる?って聞かれて家にいると思います。二階で寝てるかもしれませんって話して一緒に上がったんです。」
二階からガタガタ音がしていた。
慌てて昌次さんが降りてきて外へ出ていった。
続けて翔太も上から降りてきた。
「おい!警察呼べ。不法侵入だ。脅迫もされてる。携帯取られたんだよ。いいからさっさと呼べよ!」
そう言いながら外へ行ってしまった。
しかしすぐ戻ってきて子供に携帯を貸せと取りに帰ってきて自分で110番通報した。
警察が入りその場で解散したようだった。
責任を感じた山中は翔太に会わないまま早々と帰宅した。
その後翔太も機嫌悪く帰宅してきた。
勝手に自宅へ入れた山中にも怒っているようだったが、今回の件は山中は知らないのだから翔太の弟が来れば家に入れてもいいと思うのは分かる。
(昌次さん大丈夫かな?)
私は翔太にこんなことをされた昌次さんの方が心配だった。
普通兄弟にそんなことするものなのか⋯。
翔太はこの時亡くなったお義母さんに生前お小遣いとして振り込みしていたことや葬儀のお金、入院していた時のお金のことを文句言っていた。
「俺結構金出したんだから少しぐらい待てよ。ガキじゃあるまいし。」
私はお義母さんのことを思い出していた。
私はとても好きだった。
世間一般的な嫁姑の確執や嫁イビりなんて無縁のとても優しくてユーモアのあるお義母さんだった。料理もとても上手で綺麗好きな人だった。
お義母さんはよくうちに泊まりに来ていた。
まだ小さい子供を抱えシングルマザーになり、年子3人育てて大変だったんだからってよく聞いたこともあった。
子どもたちも可愛がってくれて、今でも話に出てくる人だ。
過去に脳の病気を発症し、ドクターヘリで病院へ搬送してもらって緊急手術をして一命を取り留めた。リハビリをしないとなんて話していて、別の病院へ転院したけど後遺症もなく数ヶ月で無事に退院した。
それから何年後かにS字結腸がんで亡くなった。
闘病生活は3年いかないかぐらいだった。
告知の時も翔太は付いていってあげなかった。
翔太のお姉ちゃんが翔太に連絡してきて1人だと心細いから一緒に来てほしいとお願いしたのに私に放り投げた。
「俺そういうお母さん見たくない面倒くさいから代わりにお前が行ってきて。俺忙しいし。」
普通そういう時って翔太が行くところじゃないの?と思いながらも、翔太のお姉ちゃんに連絡して
「私が翔太の代わりでお姉さんに付き添います。」と言った記憶がある。
朝早く子どもたちを学校へ行かせ、高速道路に乗り2時間ほどかけて病院に向かった。
病院の看護師さんにも「長男さんが来てるんじゃなくてお嫁さんが来てるんだね。遠くから大変だったね。」なんて言われて少し気まずかった。
翔太のお姉さんもとてもパワフルでいつも心配してくれる素敵な優しい人だった。
「美咲ちゃん。遠いのにごめんね。来てくれて心強いわ。私一人だと頭真っ白になって手につかなくなっちゃいそうだから。ありがとう。翔太は?遊び呆けてない?大丈夫?」
いつも気遣ってくれていた。
でも中々全てを話す勇気もなく、翔太から余計なことを言うなと当時は言われて洗脳されていた時が多かったから話は出来なかった。
お義母さんも来てくれてありがとうねって頭を下げてくれた。
この時お義母さんは元気なんだけど、食欲があまりなく残便感があったりして便に血が付いたりして気になってって話していた。この間までいろいろ検査したと言ってて大変でしたねって話した。
この当時ちょうどコロナウイルスが流行し始めて県またぎは避けましょうと言われてる時だった。
こんなに普通に元気なのにと思いながらいると名前を呼ばれた。
先生は年配の男性の先生だった。
カルテを片手に座ってくださいと促した。
「検査をした結果が出たのでお話しします。腸のS字部分に腫瘍があります。これが原因で便通が悪い、血が付着していると思われます。原発巣はS字結腸がんです。ただここは手術で取れるかなと思います。あと肝臓にも転移がありました。ただ肝臓は星が散らばったような感じの細かいものので抗がん剤を使った治療が有効かと思います。小さくなってきたら放射線治療も出来ますし。それとリンパ節にも転移が見られました。ここも手術で切れればと思ってます。」
お姉さんは泣いていて、ハンカチを渡し背中を擦った。
私はなるべく泣かないよう何とか堪えた。
お母さんも冷静に話を聞いていた。
「大腸部位の原発巣で他のところへのガンの転移が見つかった場合はステージはⅣになります。5年以上の生存率は10%未満と出ていますが、あくまでこれは例としてなのでまずは手術から始めて抗がん剤をやりましょう。」
まだ道はあると私は思った。
「お母さん頑張りましょうね。」
私が声を掛けるとお義母さんは先生にこんな事を言っていた。
「どうにか治してください⋯先生。生きたいんです。孫が私にはたくさんいて成長を見ていきたいんです。三人の子どももみんな家庭を持って頑張って暮らしているんです。長女の孫が成人するまではどうか。どんな治療でもやりますから。お願いします。」
私はこれを聞いて涙が止まらなかった。
お義母さんの口癖を思い出した。
「美咲ちゃん。美咲ちゃんも私と同じ3人の子供産んで大変な思いしてきたけど健康が一番なんだよ。健康。お金じゃ買えないんだから。私も健康でいるから美咲ちゃんもとにかく健康でいてね。」
悲願するお義母さんのことを思うと心が締め付けられる気持ちになった。
私もきっと同じ立場になったら同じ事を言うだろうなって⋯。
帰りの車の中私は何度もサービスエリアやパーキングエリアに寄って止まっては泣いてを繰り返した。
いい人がなんでこんな病気になるんだろう。
悪いことしてる人には何もなくて。
やっぱり不公平だと思い悔しくてたまらなかった。
翔太にも何度か電話したが出なかった。
途中私がちょうどパーキングエリアで止まってる時にメールが入った。
「今人といて電話無理なんだけど、帰ったら聞く!早く帰るよ!」
人といる場合じゃないだろと頭にきた。
自分の母親がこんな状態なのに呑気に不倫でもしてるわけ?と思い、それが許せなかった。
きっとお母さんは私なんかよりも翔太に来てほしかったに決まっている。
気を使うお義母さんは、昌次さんも翔太もお仕事優先なんだから来れなくて当たり前なんだよ。
一家を支える大黒柱なんだから。
とも病院で言っていた。
結局翔太が帰ってきたのは朝方だった。
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