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中国のリスニング文化と機材事情——Wiimの国の“音”の現実

ぼくは中古クラシックCD(仕入れがあればカセットも)の販売をしている。クラシックカセットや西ドイツ盤を買っていくお客様の多くは中国の輸入代行業者さんだ。彼らは日本国内の販売者から1枚ずつ丁寧に注文してくる。最初は「中国でクラシックのカセット?西ドイツ盤?」と驚いたが、調べてみると、そこには独特のリスニング文化が広がっていた。

スマホ+Bluetoothが支配する日常
中国の音楽リスニングの多数派は、スマートフォン+Bluetoothイヤホンという組み合わせだ。Huawei FreeBudsやXiaomi Buds、1MORE、Edifierなどの製品が人気で、音質よりも接続の安定性やバッテリー持ちが重視される。音楽は「ながら聴き」の対象であり、通勤・通学・作業中に流すものという位置づけだ。

ストリーミングサービスもQQ音楽(Tencent Music)や網易雲音楽(NetEase Cloud Music)が主流。Spotify的な使い方が一般的で、プレイリスト文化も浸透している。家庭ではXiaomiやHuaweiのスマートスピーカーが活躍しており、音楽だけでなく語学学習や音声ドラマなどの再生端末として使われている。

音声コンテンツの消費量は膨大で、喜馬拉雅FM(Ximalaya FM)は登録ユーザー数4億人以上を誇る。中国では「音楽」より「音声体験」が重視されていると言っても過言ではない。

焼友(シャオヨウ)層と中華オーディオの世界
もちろん、オーディオマニアも存在する。彼らは「焼友(シャオヨウ)」と呼ばれ、FiiOやSMSL、DOUK AUDIOなどの中華オーディオブランドを駆使している。FiiOのBTR5やK3は入門機として人気で、SMSLのPL100やDOUKの真空管風アンプも注目されている。

中国のオーディオフォーラムでは、DACの測定結果やアンプの改造方法が共有されており、DIY文化も根付いている。SMSL製品は「TEACより音が良い」と語られることもあり、日本製品との比較対象として扱われることもある。

ただし、展示会の規模を見ると、オーディオマニアは少数派だ。広州のイヤホン展示会は来場者数1万人前後で、日本のポタフェス(6万人)と比べると小規模。視聴者より出展者の方が多いという印象すらある。音質を追求する文化は、まだ“ニッチ”な領域にとどまっている。

CD・SACD派の存在と“逆流”する音源
意外だったのは、CDやSACDを好む中高年層の存在だ。上海オーディオショウではアキュフェーズやエソテリックのSACDプレーヤーが人気で、「中国では高級機から売れていく」という傾向もある。Grandiosoシリーズなどの高級機が売れているのは、ディスクメディアへの信頼が根強い証拠だ。

そして、ぼくのような販売者の元に届く中国からの注文。クラシックカセットや西ドイツ盤を求める代行業者の動きは、まさに“逆流”だ。彼らはまとめ買いではなく、1枚ずつ丁寧に選んで注文してくる。中国のSNSやフォーラムでは「西德版(西ドイツ盤)」というタグが存在し、音質やマスタリングの違いを語る投稿も見られる。

帯付きや未開封の日本盤はステータスとして扱われることもあり、「日本からの仕入れ」は一部のマニアにとって誇らしい行為でもある。クラシック音楽は中国では「知性の象徴」として位置づけられており、ピアノやバイオリン教育の延長線上にある音源へのこだわりが見える。

グローバル系ストリーミングは“憧れ”の存在
では、Apple MusicやSpotify、Qobuzといったグローバル系ストリーミングサービスは中国で使えるのか?結論から言えば、基本的に“使えない”か“制限付き”だ。

Spotifyは中国本土では公式サービスが提供されておらず、VPN(仮想の専用回線を使うことで中国などの制限地域でも、海外のサービスにアクセスできる)を使わないとアクセスできない。Qobuzも未展開で、ハイレゾ音源を楽しむには海外アカウント+VPNが必要になる。Apple Musicは中国でも利用可能だが、ローカル版に最適化されており、グローバルな楽曲の一部が制限されることもある。

その代わりに、中国ではQQ音楽や網易雲音楽、咪咕音楽(Migu)などのローカル系サービスが圧倒的に強い。これらは中国語コンテンツが中心で、海外の楽曲は一部しか提供されていないこともある。

この状況は、中国の音楽消費が“体験”や“利便性”に重きを置いていることの表れでもあり、WiimやFiiOのような製品が海外市場に向けて設計されている理由とも重なってくる。

中国のハイファイ志向レーベルとevosoundとの対比
香港にはevosoundというラグジュアリー系レーベルがある。Bob Jamesや山本剛、Susan Wong、Julienne Taylorなど、ジャズやアコースティック系のハイレゾ音源を得意とし、録音環境・マスタリングに徹底的にこだわる姿勢が特徴だ。日本でも一部のオーディオファンに熱烈な支持を受けている。

では、中国本土にevosound的なレーベルはあるのか?答えは「あるが、性格が異なる」だ。

代表的なのが、北京発のModern Sky(摩登天空)。中国最大級のインディー/オリジナル音楽レーベルで、Strawberry Music Festivalなどの大型フェスも主催する。音楽性やカルチャー性を重視する傾向が強く、録音品質はアーティスト次第だが、制作環境にこだわるアーティストも多い。

もうひとつは上海拠点のLuuv Label。日本・台湾のアーティストとも連携し、シティポップやインディー・ロック系の高品質音源を制作・流通している。坂本慎太郎やevening cinemaの中国ツアーも手掛けており、録音・マスタリングへのこだわりも強い。

evosoundが「音質と空間表現の美学」を追求するのに対し、Modern SkyやLuuv Labelは「音楽文化の拡張と共鳴」を重視している。どちらも“ハイファイ”という言葉の意味を異なる角度から体現していると言える。

Wiimの国の“音”の現実
Wiim MiniやWiim Proなど、革新的かつ手頃な価格のネットワークプレーヤーが世界中のオーディオファンを魅了している。こうした製品は中国企業によって設計・製造されており、技術力と価格競争力の両面でグローバル市場において存在感を増している。

しかし、こうした製品を生み出す中国国内では、必ずしもそれらが広く使われているわけではない。むしろ、Wiimのような製品は海外市場——特に日本や欧米——のリスニング文化に合わせて設計されているように感じる。

中国国内では「音質」より「体験」「価格」「利便性」が優先される傾向が強く、オーディオ文化の成熟度は地域や世代によって大きく異なる。クラシック音源の物理性と文化的記憶が交差する場所として、日本の中古市場が中国のマニア層にとって重要な意味を持っているのかもしれない。

まとめ:音楽の“聴き方”が文化を映す
中国のリスニング文化は、利便性と情報性を重視する多数派と、音質や物理メディアにこだわる少数派に分かれている。中華オーディオブランドのFiiOやSMSLは、こうした二層構造の中で「入門機」として機能しつつ、海外市場では“価格破壊”の旗手として評価されている。

クラシックカセットや西ドイツ盤を求める中国のマニア層の動きは、音楽の“聴き方”が文化や記憶と密接に結びついていることを教えてくれる。さらに、evosoundのようなハイファイ志向のレーベルと、Modern SkyやLuuv Labelのようなカルチャー重視の中国本土レーベルを対比することで、「音源の質とは何か?」という問いにも触れることができる。

Wiimの国の“音”の現実は、ぼくたちが思っている以上に複雑で、そして面白い。音楽を聴くという行為が、国境を越えて文化・技術・記憶をつなぐ営みであることを、日々の販売現場から実感している。

参考リンク

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2023/72218cac73449251/music.pdf


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