頭の中のテーブル〜ワーキングメモリを意識して伝え方を考える〜
いつ・どこで・だれが・なにを・どうした
情報を的確に伝える方法として、4W1Hとか5W1Hといった言葉をお聞きになったことがあるかと思います。いつ(When)、どこで(Where)、誰が(Who)、何を(What)、どうした(HoW)、を意識して明示し伝えると、伝わりやすい、わかってもらいやすいというわけですね。これで4W1H、全部で5つの項目を伝え、伝えられた方は、この5つの項目で理解する。ここにさらに理由(なぜ Why)を加えると5W1H、6項目になります。
一度に5つか6つの項目で理解する
ということは、私達がなにか出来事や情報を理解する場合、5つないし6つくらいの項目を一度に頭の中において関連付けて理解していることになりますね。ちょうど頭の中に大きなテーブルがあって、その上に、5つの項目を並べて、一覧することで、理解が進むわけです。
一度に一つの項目しか
ところがですね、高次脳機能障害の方では、この頭の中のテーブルが小さくなってしまうことがあります。本来なら、頭の中の大きなダイニングテーブルに5つや6つの項目が載るはずのところ、小さなサイドテーブルに縮んでしまったら、一つの項目しか載せられません。4W1Hの5つの項目を載せようにも、一つを残して、あとは落ちてしまいますね。つまり伝えられた情報のごく一部しか、把握できないことになります。これではせっかく話をしてもらっても、伝わらないのも道理です。
複数指示は苦手、ストーリーがわからない
高次脳機能障害の方でよくある訴えとして、一度に複数の指示をされて混乱してしまったり、指示を落としてしまったりする、といった内容があります。また、小説や映画のストーリーを把握できないとおっしゃる方も少なくありません。
このような訴えを引き起こしている要因の一つが、上述の、頭の中のテーブルが小さくなってしまい、一度に一つしか処理できない症状です。
ひと皿ずつ
ではどのように対処したらよいのか。一度に一項目しか処理できないので、一つずつ片付けていきましょう。4W1Hの5項目なら、いつのことか、それが理解できたら、どこについての話か、理解できたら、誰の話か・・・といった具合に、一つずつ理解を進めればよいのです。
例えて言えば、豪華なフルコースを、いっぺんに大きなテーブルに並べて食べなくても、ひと皿ずつ順番に食べていけば、小さなサイドテーブルでもフルコースが味わえる、というわけですね。
ですから、伝える側は、一つずつ、確実に伝えることを意識すればよいわけです。コース料理をひと皿ずつ順番に供する感じです。
頭の外に並べてみる
とは言え、伝えられる側としては、一つ処理したら、一つ忘れてしまうじゃないか、ひとつずつしか処理できないのだから、全体を把握できない、と心配される方もあるかもしれません。
で、いつもの話で恐縮すが、頭の中で処理できないことは頭の外に置けばよい、この原則で行きましょう。頭の中に並べられないのであれば、頭の外に並べればよい。
4W1H(5W1H)の項目を一つずつ、紙の上に書き出せば、頭の中のテーブルに並べなくても、紙の上で一覧できます。もちろん、紙に限らず、スマホなどIT機器を使うのも便利かもしれません。最近はAIも使えますしね。
ワーキングメモリ
本稿で述べた、”理解する”ために、必要な情報を一時的に記憶しておいて(=頭の中に並べておいて)、それらの情報を操作する働きをワーキングメモリと呼びます。
このワーキングメモリという頭の中のテーブルに並べられる個数は、数え方にもよりますが、通常、4〜5個とか7個とか、まあ、そのくらいの個数と言われているようです。思ったより少ない?そうですね、多くはないと言えるでしょう。高次脳機能障害では、このもともと多くはない個数が更に減ってしまうので、皆さん、お困りになるわけですね。
当事者ご本人も周囲の方も、このワーキングメモリの縮小を理解して、上述のような”伝え方”や”理解の仕方”を工夫していただくと、伝えやすい、伝わりやすいと思います。
ワーキングメモリ縮小の相談例
診察室でよくある相談の一つなので、これまでの話を念頭に置いて、次の相談を考えてみましょう。
話題Aについて家人と話し合いたいのだが、家人からの発言は話題Aについて完結しないうちに、いつの間にか話題Bに移り、更に話題Cになっていて、理解できない。ついていけないので黙ってしまうと、家人を怒らせてしまいがち。話題は一つずつ話してほしい。どうすればよいか?
家人としては、話題Aの背景にBがあり、またCも関連してくる。すべて関連している以上、全部話す必要がある。それを理解できないのは、ひょっとしたら障害特性のため?だとしたら、どのように対応すればよいか?
対処の考え方
この相談の本質は、ご家族の推察通り、高次脳機能障害の典型的な症状、上述の、一度に頭の中においておける項目の数が減ってしまうワーキンメモリの縮小現象と考えられます。
家族や支援者など周囲の方はこの点を理解して対処すればよいのです。複数の項目を一度に頭の中に置けないから、関連付けて考えることが難しい。。
だから、一つずつ、処理します。一つ処理が完結したら、次の話題にうつる。一つの話題そのものも、できるだけ簡潔に最小限の一まとまりになっていると高次脳機能障害の方にも受け入れられやすいでしょう。
一方、当事者ご本人も、”一つずつ”を意識して対処しましょう。前述のように、一つ理解したら次にうつる、頭の中に並べるのではなく、紙や画面に並べて一覧すると理解しやすくなるはずです。
「水戸黄門」なら楽しめる
これ、ドラマや映画のストーリーの理解でも同じです。あるメンバーがおっしゃるには、ドラマや映画を楽しめない。なぜなら、内容を把握できないから。
例外はTVドラマの「水戸黄門」。ストーリー通りの時系列プロット(フラッシュバックを多用するような時間の前後がない)。しかも毎回ワンパターンのマンネリ、おなじストーリー。録画して数回繰り返し視聴すると、ドラマの内容、ストーリーを把握できるそうです。5W1Hなど内容把握に必要な情報を一つずつ、順番に理解できるからドラマを楽しめるわけですね。
最近、同じような相談が続きましたので、ワーキングメモリについて、とくに”伝え方”の面から説明してみました。ご参考まで。
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