ポケットと駐車場〜置き忘れと紛失を減らすために〜
紛失の2つのパターン
筆者のクライアントの多くに共通する悩みに、物をなくす、紛失ということがあります。どこにしまったのかわからない、どこに置いたのかわからなくなった、使いたいものがすぐに使えない、切符をどのポケットに入れたのか忘れた、大事な書類を紛失して申請できなくなった、などなどキリがありません。
ものをなくしてしまう紛失現象には上に書いたように、置き忘れと、しまった場所を忘れる、の2つのパターンがあります。この2つ、実は異なるメカニズムで起きているのです。
置き忘れは不注意現象
これ、「どこに置いたか忘れた」、というように「忘れる」という言葉で表現されるので記憶の問題と思われる向きが多いようですが、この現象の本質は記憶障害ではありません。
いわゆる「置き忘れ」という現象を考えてみましょう。メガネを置き忘れてどこにいってしまったのかわからない、よくありますね。「置き忘れた」とは「置いた」+「忘れた」です。まず「置く」動作があります。このとき、置き場所をしっかり意識していますか?「さあ、今から、自分は、TVの横の戸棚の3段目の右端に、メガネを置くぞ!」このような宣言をする人はまずいないでしょう。
意識せずに置いている
「何気なく」、「手近なところに」、「無意識に」置いているのではないでしょうか。つまり、「忘れた」以前に、そもそも、「置く」動作そのものに意識が向いていない、注意が向いていない状態になってしまっています。意識していないこと、注意を集中していないことはそもそも覚えることができません。記憶していないのです。
したがって置き忘れ現象とは、記憶する以前の注意の問題なのです。置き忘れとは言うものの、忘れるような情報をはじめから持ち合わせていない状態と言えます。そもそも覚えていない、だから忘れたのではなく、不注意なのです。
置き忘れのメカニズムを意識する
ここに気づくことが置き忘れ防止のポイントです。「置く」動作を意識する、注意を向ける、これだけです。ですが、それができれば、そもそも置き忘れなんて起こらない。どうすれば、「置く」ことを意識して注意を向けられるか。そのための処方箋が表題のポケットと駐車場です。順番が逆になりますが、話の流れ上、駐車場から始めましょうか。
モノの駐車場
自動車には駐めるべき駐車場が決められています。自動車を購入するときは車庫証明で決められた駐車場があることを明示します。自動車は移動するための道具ですが、一日移動しても最終的にはその自動車の駐車場に戻って駐めなければなりません。ものの置き場所も同じです。メガネでも財布でも書類でも教科書でも衣類でも、全て、自動車と同じようにそのものの”駐車場”を決めて、必ずそこに置くようにします。
習慣にする
そんなのめんどくさい?はい、とっても面倒です。でも頑張ってやってみましょう。毎日毎日、繰り返し繰り返し、同じところに格納しましょう。毎日繰り返していると習慣になります。脳の特性です。大脳基底核の自動運転機能ですから、一旦習慣になってしまうと考えなくても、意識しなくてもできるようになります。便利ですよ。
あれ?、意識して注意しようって話だったのにおかしいね。でもそれでいいんです。意識も注意もしなかった状態から、意識的に注意を向ける練習を繰り返して、とうとう意識しなくても自動的にできるようになったわけですから、最初の意識できない状態とは全く意味が違います。大きな進歩です。
住所とラベル
ちなみにこの方法、ある通院メンバーは、筆者が指導する前にすでに実践してました。なんでも、整理収納アドバイザー講座なるものを受講したところ、「モノの住所を決めて、ラベリングする」という方法を教わったのだそうです。以来、すべて「住所」を決めて、そこにラベルを貼るようにしたところ、散らからなくなったとおっしゃってました。全く同じ方法論ですね。障害だから置き忘れる、というより、ヒトはそういうもの、との認識が大事なのでしょうね。
しまった!しまった場所を忘れてしまった!〜紛失のもう一つのパターン
これは置き忘れ現象に更に記憶の問題(意識して覚えたはずの格納場所を忘れてしまった!)が加わった状況とも言えます。置き忘れ現象と違うのは、置き忘れが置いた場所をそもそも意識していないことに起因する現象であるのに対し、ここで取り上げるのは、意識していても片付けた場所を忘れたり、思い違いをしたりするために、物を探し出せなくなる現象も含みます。「大事なものだから、確かにしまったはずだけど、どこに入れたかなあ、おもいだせないな。」という状況です。
例えば外出したとき。ズボンの左尻ポケットにお財布、右ポケットにハンカチ、書類をジャケットの内ポケットに、おべんとうのおにぎりをリュックに、お茶のペットボトルはリュックのサイドポケットに、スマホはショルダーポーチに入れて・・・、と持ち物をアチラコチラに収納します。駅についたら切符を買って上着の左ポケットに。小さいものだしなくすといけないから、ポケットの中の内ポケットに入れておこう。
さて目的の駅に到着、改札を出ようとしたら、あれ、切符がない。どこに入れたのか、上着、ズボン、リュックのポケット、ポーチ、ない、ない、ないぞ!散々探しまくってやっと見つけた。そうだ、なくすといけないからわざわざ内ポケットに入れたんだった!やれやれ。
お昼になったのでお天気もいいし、公園のベンチでおにぎりを食べよう。リュックをおろして右側に置いておにぎりとお茶を取り出す。ポーチからスマホを出して眺めながら公園のおにぎりは美味しいなあと。さて一息ついたし出かけよう。スマホは忘れないように自分のすぐ左側に置いて、右側のリュックにお弁当包みやお茶をしまって。公園を横切って、現在地をスマホで確認。あれ、スマホ、どこいった?ポーチに入ってないぞ!もしかしてベンチ?戻ってみたら、ありました。ふう、助かった。
こんな話をよく聞きますね。地下鉄に乗ってバッグを横に置いて、降りたときには持ってなかったとか、高次脳機能障害のない方でも経験あるでしょ。
ポケット1つルール
こちらのパターンへの対処法が「ポケット1つ」ルールです。野口悠紀雄先生の有名な「「超」整理法: 情報検索と発想の新システム (中公新書 1159)」にあります。物を紛失しないための方法ですが、特にしまった場所、片付けたところがわからなくなってしまうことを防ぎます。
やり方はいたってシンプル、全て一か所にまとめて管理する、それだけです。持ち物はひとつのバッグだけにまとめてしまう、メモ書きは一冊だけに順番に書き込む(用途別に分類しない)などなど。
ひとつにまとめておくと何が得か?それは、探す場所が一か所だけで済むってことに尽きます。モノがなくなった、メモ書きが見つからない、そんなときあちこち探さないで済む。ひたすら一か所だけじっくり探せばよいのですから、いずれ、必ず見つかります。
探す場所はひとつだけ
「ポケット一つ」とは入れ物、置き場所を一ヶ所だけに限定することです。
駐車場ルールで持ち物を入れる場所を決めておいても、数が多くなると覚えていられない、そんなときこそ「ポケット一つ」。切符もお財布もスマホもショルダーポーチに入れてしまう。すると、探す場所がただ一ヶ所になります。あっちこっち探さない、これがコツです。
肌身はなさず
特にお出かけの場合、「肌身離さず」です。自分の体から離れると、そのまま、意識が離れてしまいます。先の例ではスマホやバッグを自分の傍らに置いたために、その場に置いてきてしまったわけです。ポーチもバッグも降ろさないこと。ポケット1つで探す場所を一ヶ所限定、肌身離さずを心がけましょう。
「不注意なうっかりミスを防ぐための心構え」にも書きましたが、見落とさないためには一次元で処理すること。二次元、三次元に展開してしまうと、探すための方略自体を持つことができません。一次元なら探し方も一箇所を一直線です。ポケット1つは一次元の原則と同じです。
おまけー出掛けに忘れ物!
明日の外出に備えて前の晩から必要な持ち物を玄関に置いておいたのに、持たずにでかけてきちゃった、なんて話もよく聞きます。大事な書類を提出するためにでかけたのに、肝心の書類を玄関に置いたまま、よくありますね。あるいは、出かける直前にバッグを替えたために保険証を持ってこられなかった、なんてパターンもあります。
動線を遮るように
外出先なら上述の「肌身はなさず」だけど、家から出るときはどうすればいいの?一晩抱えて寝るわけにもいかないし。このような場合は、もちろん、持っていくものを前もって準備して(直前に準備したり変更したりせず)玄関に置いておくのだけれども、ただ置くだけじゃない。動線を遮るように置くのがコツです。とはいえ、蹴躓いても困るから、例えば、玄関のドアノブに引っ掛けておく、とか、小さなものなら靴に突っ込んでおくとか、とにかく、出かける動線を遮るように、引っかかるようにしておくと、見落とさずに気づけます。邪魔だからといってサッと横に避けたりしてはだめですよ。そのまま忘れてしまうから。
掲示・張り紙にも
この「動線遮り作戦」ですが、掲示や張り紙にも応用できます。手順や注意点など、掲示や張り紙に書いて壁に貼りますよね。みなさん、やってます。ところがこれ、毎日毎日みていると、そのうち意識しなくなる。壁紙に溶け込んでしまいます。こうなってしまうと、掲示の意味がありません。ではどうするか。作業の動線に引っかかるように掲示をぶら下げるのです。作業するたびに手が引っかる、眼が行きます。壁紙化を防げるわけです(50シーンイラストでわかる高次脳機能障害「解体新書」. メディカ出版 p.219 「明示の方法」参照)。
まとめ
・置き忘れ対策は駐車場/住所とラベル
・習慣にする
・ポケット1つツールで必ず見つかる
・動線遮り作戦も有効
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