ピロリ菌と朝シャンと団塊ジュニア:衛生環境の今と昔
団塊ジュニアは、いわゆる「昭和の時代(末期であるが)」と「平成以降」の丁度時代の変わり目に当たった世代だと思っているのだが、今回は衛生環境の今と昔について書いてみようと思う。今では自分の世代を含めて当たり前のようになっている衛生観念の発達。常に除菌シートを持ち歩くとか、他人の作ったものは食べられない人とかは普通にいて、特に「ヘンな人」とも思われず、ちょっと神経質だくらいにしか思われない。コロナの時期は、神経症かというくらいに極端なほど除菌や衛生面に命を燃やすような人たちがあふれていた。これらを見ると、時代が変わったとはいえ、ほんの数十年前までは日本人もあまり衛生的ではなかったということを覚えている自分としては、隔世の感がある。
数年前のことだが、検診で「ピロリ菌感染」を指摘されたときは多少のショックを受けた。筆者は1975年(昭和50年)生まれであるが、医者によると「この年代ではまだピロリ菌が出る人がけっこう多く、普通のことだ」という話であった。ピロリ菌感染というのは5歳ころまでの衛生環境が大きいようで、5歳以降になると基本的にもう感染しないらしい。つまり、ピロリ菌感染ということは、5歳までの衛生環境が悪かったということである。それも、ピロリ菌に感染するにはかなり汚い環境にいないと感染しないらしい。昔の日本は(特に団塊世代までは)、今と比較できないくらいに汚かったし衛生環境も悪かったということだ。衛生環境の発達した現在では、子供や若者でピロリ菌感染している割合は低く、かなりの少数派だ(その場合でも、衛生環境の悪さというよりは田舎で泥だらけで遊んだなどの理由が多いのではと推測する)。
ネットなどを見ると、ピロリ菌感染者は年代によってきれいな右肩下がりとなる。高齢者や団塊の世代はピロリ菌感染者の方が多数派で、自分の年代では約半分くらいが感染者であり、その後は急速に減っていく。つまり、衛生環境の発達とピロリ菌感染はきれいに反比例しているという訳だ。自分の世代は、まだまだ衛生環境が良くなかったということである(それでも半分は未感染ということだから、家庭ごとの環境や意識の差が大きかった面もあろう)。自分の世代にピロリ菌感染が多いのは、親の世代に感染者が多いことも影響していると思われる。親がピロリ菌感染だと、子供に感染する機会も増えるからだ。例えば、今では信じられないだろうが、自分の頃までは、親が口で咀嚼したものを赤ん坊に与えるという食べさせ方がまだあった。こういう行為がまだ残っていたこともあり、自分の世代にはまだピロリ菌感染が多いのかと思っている(推測だが)。
ほんの数十年前まで、日本は結構「汚かった」し、衛生意識も低かった。コロナの時期は盛んに手洗いとうがいと言われたが、手洗いやうがいが習慣のようになってきたのも、そこまで大昔ではない。今でも高齢者や団塊世代くらいまでは、あまり手洗いの習慣がついていないような人も少なくない(個人差はあるが)。子供の頃の衛生環境というのは、大人や高齢になってからも影響するのだ。
日本人の「お風呂好き」は有名だし、今では多くの日本人が毎日入浴するのが当然のようになっている。しかし、毎日入浴するというのが当たり前になったも、ここ数十年くらいのことだと思う。自分も覚えているが、昭和の時代までは、日本人は毎日風呂に入っていなかった。数日おきというのが一般的だったように思う。昭和から平成初期までは、家に風呂がない家もそこそこあったこともある。(でも、毎日入浴が当たり前のようになった今では、昔のことは隠して、みな昔から毎日入浴していたような顔をしている笑)
しかし、平成に入ったころ、覚えている人も多いだろうが、「朝シャンブーム(朝に洗髪すること)」というのが起きた。「朝シャン」するための洗髪台というのまで売り出されて流行したのを覚えている。この不思議な「朝シャンブーム」は、どこかのシャンプー会社が仕掛けたのかものなのか、どうして発生したのかは知らない。ただ、この「朝シャンブーム」で、特に女性の間に、毎日洗髪しないと恥ずかしいという意識が一気に広がったのは間違いない。
全身シャワーでなくてなぜ髪だけ洗うのかという疑問はあったものの、「朝シャンブーム」は、バブル経済の軽薄なイメージも後押しして、女性の中に広まった。当時の女子中学生でも、「朝と夜と2回髪を洗う」という人もいた。それを聞いて、「毎日2回も髪を洗うなんてそれだけで1日が過ぎてしまうではないか」などと思ったものだが、当時は「流行に乗らないとバカにされたりつまはじきされる」という集団的ムードが強かったので(人は個人それぞれという意識がまだ弱かった)、人気者や目立つタイプの女子ほど流行を追っかけて朝シャンし、それがますます一般化するということになった。
この頃から、朝シャンと同時に、おしゃれなイメージで売り出すシャンプーがたくさん出てきて、それらのCMが盛んにテレビで流された。「髪サラサラ」が良いことだという風潮が出てきたのもこの頃ではないか。バブルのこの頃は、「ソバージュ(ウェーブ状のパーマ)」や「前髪カール(トサカ頭とも言われる)」など、女性の不思議な髪形がたくさん流行ったが、こういう女性の髪形ブームも朝シャンブームと同じ流れの中にあったといえる。朝シャンもこれらの髪形も、バブル崩壊とともにあっという間に廃れたが(今ではバブル時代を象徴する髪形として歴史に残っている笑)。
ともかく、この「朝シャンブーム」の頃から、「毎日風呂に入らないといけない」という意識が日本人の中に広まっていったのではないかと推測する。朝シャンがブームになれば、「毎朝洗髪しないのは恥ずかしい」という意識が芽生えるのは当然だ。これが「毎日風呂に入らないと恥ずかしい」という意識につながったのだろうと考えている。ただでさえ朝は忙しいのに「毎朝洗髪する」なんて大変なことだから、しばらくすると「朝シャンブーム」はいつの間にか消えていった。その代わり、「(朝でなくとも)毎日入浴する」ということが一般的になってきたのだと思う。毎日入浴するというのが普通の感覚だという意識がだんだん社会に浸透してきたのがこの頃からではないか。一度毎日の入浴が習慣化すれば、もう元には戻れない。
今の人が当たり前に思っている「毎日入浴」だって、まだ数十年くらいのことなのだ。ただのきれい好きを通り越した、行き過ぎともいえるような「潔癖症」の人を見る度に(汚部屋よりは全然良いのだが)、彼らは生まれながらに潔癖症なのではなくて、彼らも時代の産物なのだ、清潔が当たり前になった今で良かったねと皮肉を言いたくなってしまうのだ。
