23歳、Phase Oneを買う。#4 23歳、2度目のPhase Oneを買う。
前回の記事はこちら
気づいたら前回の更新から半年が過ぎてしまい…。
24歳、フリーランス3年目になってました。
人間、半年も経つといろんな物事の考え方やスキル、経験値もガラッと変化してしまうもののようで…。
今回の記事は半年前に書いた下書きを大幅アップデートしてお送りします!
23歳、2度目のPhase Oneを買う。
2025年の7月。
念願のIQ180を購入。
この記事の執筆時点で発売から15年も経つモデルだが、最新のIQ4と共通するボディデザインは、今でも古臭さを感じさせない。(とはいえ、最新のIQ4も2019年発売なので、もう7年も経つらしいのだが。)
カメラや自動車の内装など、ガジェットにおける最も”古臭さ”を感じる部分は、「液晶部分」だと思う。
その点、IQシリーズは全てRetinaディスプレイを採用しており、タッチ操作も可能。多少のもっさり感は否めないが、液晶サイズも3.2型と一般的な現行ミラーレス機と同等の大きさを誇るため、実際に触っても型落ち感や古臭いといった感覚にはならなかった。

IQ180は当時としては異例の8000万画素を誇るスーパーセンサーだ。
発売当時35mm市場ではEOS 5D Mark IIといったカメラが主流で、せいぜい1000~2000万画素が限界だった。中判デジタルの世界では、既に現代でも通用するレベルの超高画素・超高画質化を実現していたのだ。
ちなみに発売当時希望小売価格は、デジタルバックのみで¥5,250,000- いやはや恐ろしい…。
IQ180の実力
購入してからこの記事を執筆するまで、約1年が経過した。
その間、スタジオから旅先まで、IQ180を使用してさまざまなシーンで撮影してきた。
IQ180にはCCD特有の写りやデメリット、そしてその対処法としての「お作法」が存在する。人生初のCCD機ということもあり、1年間じっくり向き合ってようやくその特徴を掴むことができた。
ここからは作例とともに、IQ180の実力や機能、デメリットなどを紹介していく。
スタジオでの作例
まずはPhaseOneお得意の、スタジオで撮影した写真から。

Schneider-Kreuznach PC-TS APO Digitar 120mm f/5.6
SS 1/125 ISO 50 F11 ティルト1° (シフトも少々した気がする。)

8000万画素という高画素機
センサーサイズが大きいことの利点として分かりやすく挙げられるのが、容易な高画素化だ。 今でこそ135判のフルサイズセンサーで4000〜6000万画素程度のカメラが普及しているが、画素ピッチの制約がある以上、大型センサーの恩恵は大きいと言える。
また、圧倒的な階調による立体感。 特に今回の画像だと、ボディに当たった緻密な光のグラデーションを逃さず描き切っている感覚がある。線の細さについても同様で、Canon EOS R5IIで撮影した写真と見比べてみたが、等倍でじっくり見たときに、R5IIの方がデジタル上でシャープネスを掛けているような感覚を覚えた。
中判の懐の深さは、こういった細かな描写一つ一つに宿っているように感じる。
ちなみに色味に関してだが、CCDはこってりした色味が特徴と聞く。
しかし、IQ180とR5IIを比較したときに、IQ180の方が彩度やコントラストが淡く、R5IIの方が色乗りが良いと感じた。
もちろん、IQ180のデータの方が現像で追い込めるので、R5IIの色味に近づけるのは簡単だった。
同じCCD機でもセンサー製造メーカーや世代、エンジン、カメラメーカーの設計思想で写り方は全然違うんだと思う。
RAWデータ1枚あたりのサイズは約90MBほど。 高画素機特有の「ファイルデータが大きい弊害」として、Photoshopでレタッチなど諸々やっているとすぐに「.psb」ファイルになる。そして作業中はMacのストレージがキャッシュで100GBくらい消える。 PCのストレージ容量には本当に気をつけたほうがいいかもしれない。(最近SSDも高いし…)
CCDのISO性能
年明け、スケジュールに余裕があった為、練習がてら作品撮りに時間を当てることができた。友人から香水をお借りしたので、そのイメージに合わせて複数パターンを撮影した。

Schneider-Kreuznach PC-TS APO Digitar 120mm f/5.6
SS 1/125 ISO 35 F11

IQ150や既存の民生機とのまず大きな違いは、基準感度が違うことだ。
CCDのIQ180は、下限ISOが「35」からとなる。
中判センサーの圧倒的な階調表現の秘密は、1画素あたりの「光を貯めるバケツ」が巨大なことにある。専門用語でフルウェルキャパシティ(飽和電荷容量)と呼ぶ。
バケツが大きいということは、白飛びするまでにそれだけ多くの光をピュアに蓄えられるということだ。これによって、ハイライトの滑らかなグラデーションをギリギリまで残すことができる。
IQ180の「ISO 35」という超低感度は、この巨大なバケツを純粋な光だけで限界まで満たすことで、圧倒的なS/N比(シグナル・ノイズ比)とクリアな立体感を生み出している。逆に、光量が足りずにISOを高める(=バケツが半分も満たされないままデジタル的に信号を増幅する)と、CCD特有のノイズが一気に出現してしまうのだ。
常用可能なISOは35~100まで。ISO200の時点では既にノイズが顕著に出現しており、ダイナミックレンジもかなり狭くなっていることを実感した。

緑:通常時。黄色:Sensor+使用時(後述参照)

上記のことから、撮影時にはより多くの光を必要とする。
中判フォーマットという特性上、絞り開放での使用は被写界深度がかなり浅くなりやすい為、基本的にある程度絞り込んで撮影することになる。特にスタジオでの使用は、より強力なストロボが必要になるだろう。(ISO35で常用する場合、1200w以上の出力は欲しいと感じた)
ライブビュー撮影

Schneider-Kreuznach PC-TS APO Digitar 120mm f/5.6
SS 1/125 ISO 35 F8
CCD機はその構造上、ライブビュー撮影を苦手とする。
一応機能としては存在するものの、ライブビュー中の色がひどく、フレームレートもかなり低いため、実用的ではない。(決して壊れているわけではない。マジで。)
それでも、ライブビューは「無いよりはあったほうがいい」場面は多かった。

もしライブビューを多用したい場合はCMOS機のデジタルバックを使用することをお勧めする。本当に…。
色被りとLCC (レンズキャストキャリブレーション)

Schneider-Kreuznach PC-TS APO Digitar 120mm f/5.6
SS 1/125 ISO 35 F5.6
撮影していて、ストロボ・カメラともにWBを適切に合わせていても、特に白いものを撮影した場合に「分かりやすく色が被るな」と疑問に思っていた。 上記の写真はGODOX QT1200IIIをベアバルブ1灯で撮影しているが、全体的に紫に被っている(ある程度補正しているが)。
色被りの理由は後述するが、Geminiと相談してみると、デジタルバックには新品購入時に「LCCプレート」という乳半のアクリルボードが付属しているそうだ。撮影時にそのプレートを撮影し、Capture OneでLCCキャリブレーションを実行すると色被りを取り除くことができるらしい。

Capture OneでLCC用の写真を取り込み、右クリック→「LCCを作成」を押した後、適用したい写真とLCCの写真を2枚選択→「LCCを適用」で色被りが補正される。

これはCCDだけに限らずCMOS機にも使える技のようで、レンズを大きくシフトした時の色被りを取り除く場合にも使うことがあるそうだ。
マジでもっと早く知りたかったし、今でもたまに撮り忘れる。(おい)
仕事でPhaseOneを使用してみる
【お仕事公開】
— モチヅキ (@Huetone_1) April 23, 2026
オーバーサイズ MyGO!!!!!
プロモーション撮影を担当させていただきました。
また、アミューズメント エキスポ 2025 では、写真、映像を展示させていただきました。
映像は各種バンドリ!のイベントやライブでも放映中です。
4月発売予定です!#バンドリ #MyGO https://t.co/DaCbjps7ko pic.twitter.com/N6VJ1Iwlt0
お仕事でも、実際にPhase Oneを使用してみた。 選択した理由としては以下の通り。
キービジュアル用のカットはイベント用に大きく印刷すること
お客さんが近くで鑑賞される可能性があること
以上の事から、印刷用の解像度(dpi)を稼ぐべく、高画素なカメラとしてPhase Oneを選択した。
実際にPhaseOneで撮影した写真は、1枚目の屋上で撮影したKV。
2枚目はCanon EOS R5II、3,4枚目はCanon EOS 5Dsで撮影している。
元画像や印刷物で見るとカメラごとの質感の差は感じるが、SNSレベルのぱっと見だとぶっちゃけその差はわかりにくいかもしれない。
人物撮影におけるPhaseOneのメリット・デメリット
【メリット】
屋上での撮影だったので、日中シンクロの環境だった。
XFボディ+55mmLSで撮影していた為、レンズシャッターが使用できるというのが最大のメリットだろう。曇り空だったので、SSは1/500〜1/1200ほどで背景を調整。
ストロボの同調速度を気にしないで済むのは本当に便利だ。(XFボディ+LSレンズの場合、ストロボは最大1/1600まで同調することができる)
また、撮影のテンポもゆっくりめなので、AF速度や精度に関してはそこまで不満に感じることは無い。(ウィーン、ウィーンって感じだけど)
画質面においては、IQ180はローパスフィルターレスのカメラでありながら、画素ピッチが5.2 µmとバランスがよく、モアレが発生しにくい(完全にゼロではないが)。
低画素機のデジタルバックはモアレが発生しやすいので、IQ160ではなくIQ180を選ぶ理由の一つとして十分になり得ると思う。
【デメリット】
まず、被写界深度がめちゃめちゃ浅い。浅すぎる。
55mm(換算35mm)で撮影しているが、2人(商品手持ち)のカットを撮影する場合、かなりシビアになってくる。F8で少し引いてギリギリ。 本来であればF11まで絞りたいところだったのだが、ISO50・F8の時点でGODOX AD600IIのストロボ光量がほぼフル発光になってしまった為、F8でギリギリお二人と商品にピントが合うように調整した。被写界深度が浅く、ISOも35〜50が常用ラインということで、かなりのストロボパワーが必要になる。その後QT1200IIIも導入したが、やっぱ1200wともなるとかなり重いしデカい。
また、先ほど「AF速度や精度は問題ない」と言ったが、中央一点AFはやっぱしんどい。その後5Dsのファインダーを覗いた時感動したもんね。めっちゃAFポイントあるやんけって(笑)。
基本的には「AF-Sでピントを固定してから構図を決める」といったフローになる。XFボディの場合、「AFr」というコサイン誤差を修正してくれるAFモードである程度カバーできるようだ。ちゃんと使った事ないので今後使ってみようと思う。幸いレンズのレバーですぐにMFに切り替えることができるので、微調整はMFで行うこともあった。
他にデメリットとしては、IQ180は0.7コマ/秒なので、撮影テンポがめちゃくちゃ遅くなる。分かりやすくいうと、1秒間に1枚も撮れないってコト。マジかよ。
代わりに副次的な効果として、ストロボのリチャージ待ちをしないで済む。
大光量を必要とするカメラだからこそ、フル発光付近で使いやすいのはとてもありがたい。
あとは、テザーケーブルが短いのしか無いとか、単純に重いとかあるけど、まあそこはなんとかなるというか。なんとかするんですよ。してください。 このカメラの性能を最大限に引き出すには、周辺の備品もどんどんデカくて重くて高価になっていく。まるでスーパーカーだね。
ちなみにこちらのポスト、声優さんの効果がもの凄く、1000いいね以上も頂きました。本当にありがとうございます。
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プライベートでの作例
IQ180を手に入れてから、ほとんどの旅行に持って行っており、実際めちゃくちゃ使っている。作例めちゃくちゃあります。
デカいとか重いとか、そういうコトでは無いんだよナ────。
(ちなみに今めっちゃM型ライカが欲しいんですわ。軽いから。)

Mamiya Sekor Z 110mm F2.8 W
SS 1/125 ISO 140S+ F/--

Mamiya Sekor Z 50mm F4.5 W
SS 1/250 ISO 140S+ F/--

Mamiya Sekor Macro Z 140mm F4.5 W
SS 1/350 ISO 140S+ F/--

Schneider AF 55mm F2.8 LS
SS 1/50 ISO 800S+ F2.8
Sensor+モード
「CCDは高感度に弱い」という弱点を補うのが、Phase One独自のピクセルビニング技術「Sensor+」だ。
これは、隣り合う4つの画素を合体させて「1つの超巨大な画素」として扱うハードウェア処理のこと。解像度は8000万画素から2000万画素へ落ちてしまうが、高感度耐性が劇的に向上する。
これにより基準感度はISO140へ引き上がり、最大ISOは3200まで拡張。

Sensor+を使用した場合、ISOは400程度まで常用することが可能になる。
大した差はないと思うかもしれないが、常用感度100→400という「2段分」の恩恵は意外にも大きい。
また、記録されるデータサイズが大幅に削減されるため、SNSに載せる前提でのスナップなど、8000万画素という膨大な画素数を求めていない環境で非常に使いやすい。
IQ180に関しては、Sensor+使用時に「2000万画素」というちょうどいい画素数になるのもかなり扱いやすいポイントだ。

PhaseOneのデジタルバックは基本的に”JPEG撮って出し”というものが存在せず、RAW(.IIQ)でしか記録できない。
(そのため、度々勃発する「RAW vs JPEG論争」にはそもそも参加できない)
8000万画素のフルのデータサイズは90MB前後と大きいが、高画素が必要ない場面においてはSensor+で撮影するとRAWのまま1/4程度にファイルサイズが縮小される為、とても扱いやすいデータになるという利点がある。
逆に、RZ67など高速シャッターを利用できないボディを使用している場合は、通常時でISOを35まで下げることが可能なため、NDフィルターを使用しないで済むなど、意外にも活用法は多い。

Schneider AF 55mm F2.8 LS
SS 1/200 ISO 50 F5.6

長秒ノイズの発生

Schneider AF 55mm F2.8 LS
SS 15 ISO 35 F11

Schneider AF 55mm F2.8 LS
SS 1 ISO 35 F11

Mamiya Sekor Z 110mm F2.8 W
SS 1/2 ISO 35 F16

Schneider AF 55mm F2.8 LS
SS 30 ISO 35 F8

Schneider AF 55mm F2.8 LS
SS 6 ISO 35 F8

Schneider AF 55mm F2.8 LS
SS 50 ISO 35 F8

Schneider AF 55mm F2.8 LS
SS 20 ISO 35 F5.6
使用していて、IQ180は長秒ノイズが出やすい傾向があることがわかった。 聞くところによると、これはPhaseOne Pシリーズなどに採用されていたコダック製CCDセンサーより、ダルサ製CCDセンサーの方が弱いらしい。
長秒ノイズ(ダークノイズ)はCCD、CMOS共に発生するノイズの一種で、シャッタースピードを長くすればするほど多くのノイズが発生する。 対策として、多くのカメラには「長秒ノイズ除去」という設定があり、通常ほとんどのノイズを綺麗に消すことができる。IQ180にも当然その機能は搭載されているが、昼間では30秒以上、夜間では15秒以上のSSに設定すると、長秒ノイズ除去をかけていても等倍で見るとカラーノイズが目立ち始めるイメージだ。(要検証したい)

白飛びには強いが、黒つぶれに弱い
35mmフルサイズのカメラと比較して、IQ180も優れた白飛び耐性を誇る。

左から適正露出、+1、+2、+3

おおよそ2段程度までは自然に戻せる範囲だろう。 また、アンダーで撮って持ち上げた時と、オーバーで撮って持ち上げた時で色の被り方が変化する。
オーバーで撮影した場合:紫寄りに
アンダーで撮影した場合:緑寄りに


オーバーで撮影している為、適正露出に戻すと紫に被る。

1段程度であればアンダーを持ち上げてもノイズが目立つ事はないが、今度は緑に被っている。
少しオーバーで撮ったほうが、戻した時に紫被りするのでいわゆる「フィルムっぽい」テイストになると思う。これもCCDの特徴なのだろうか? (※スタジオパートで出した作例の、紫の色被りの正体もこの現象によるものだと考えている。)
黒潰れに関しては、極端に持ち上げるとかなりノイズが目立ち、データも残っていないためCMOS機より明らかにピーキーだ。
現代のデジタルカメラのように、アンダーで撮影しておいて、現像時に持ち上げるような撮り方はあまり適切ではない。同じく、シャドウを持ち上げてコントラストをフラットにするような現像にもあまり向いていない。
露出の考え方はフィルムの特性に近いと言えるだろう。

Mamiya Sekor Z 110mm F2.8 W
SS 1/180 ISO 140S+ F--

上記のことから、IQ180で撮影する場合は基本的に"ETTR"(Expose To The Right:白飛びギリギリの右側露光)という撮影方法で撮影することをおすすめする。
スミア・ブルーミング
CCDの特徴として、スミアやブルーミングといった現象が起こることをご存じだろうか。(恥ずかしながら僕はIQ180使うまで知らなかった。)
ざっくり説明すると、太陽光などの強い光源を撮影した場合、不自然な縦線が入ったり、光が滲んだりする現象だ。
IQ180もCCD機であるため、上記の現象が発生することがある。

Schneider AF 55mm F2.8 LS
SS 1/80 ISO 35 F11
太陽をフレームに収める場合などは、露出を特に注意して撮影する必要がある。
作例いろいろ

Schneider AF 55mm F2.8 LS
SS 1/200 ISO 35 F5.6

Mamiya Sekor Z 50mm F4.5 W
SS 1/60 ISO 35 F--

Schneider AF 55mm F2.8 LS
SS 1/125 ISO 35 F8

Schneider AF 55mm F2.8 LS
SS 1/200 ISO 200S+ F4

Schneider AF 55mm F2.8 LS
SS 1/125 ISO 35 F8

Schneider AF 55mm F2.8 LS
SS 1/125 ISO 35 F8
市場の変化と、Phase Oneの現在地
Phase Oneが特に広告の世界で猛威を振るっていたのは、まだ市場でミラーレスが普及する以前(〜2015年くらい)のことだと思う。
当時のことについては、僕が小中学校に通っていた頃の写真業界の話になるのであくまで憶測でしかないのだが、当時せいぜい2000万画素が限界だった35mmフルサイズDSLRの世界に対して、中判デジタルは既に4000万〜8000万画素という大きなアドバンテージがあった。
しかし、2015年にCanon EOS 5Dsが初めて35mmフルフレームで5000万画素を達成して以降、風向きが劇的に変わる。

2026年現在でもCanon最高の画素数を誇る。
まさにデジタルバック・キラーとでも言うべき存在なのだろうか?
実際にこの5Dsの登場は、それまで中判デジタルバックが独占していた「高画素市場」のシェアを根こそぎ奪っていく決定打になったと言われている。その理由は明確だ。
当時主流だった4000〜6000万画素クラスの中判デジタルバックと完全に並ぶ解像度を、5Dsはフルサイズセンサーで叩き出した。 しかも、中判デジタルシステムが一式400万〜600万円(家が買える…)という価格だったのに対し、5Dsのボディ単体は約50万円。圧倒的なコスト破壊である。
さらに、先ほどデメリットに挙げたように、当時の中判システムは「中央1点のみのAF」「1秒間に1コマも撮れない連写性能」「重くて外に持ち出しにくい」といった弱点だらけ。一方で5Dsは、中身は信頼と実績の5Dシリーズだ。61点AFや秒間5コマの連写、防塵防滴を備え、スタジオから過酷なロケまで1台でこなせる圧倒的な機動力と信頼性があった。(おまけにTS-Eレンズなど優秀なEFレンズ群の資産も使える)
大判プリントやトリミングのために中判を使わざるを得なかったプロの現場が、こぞって5Dsに乗り換えた結果、中判のボトムを支えていた4000〜5000万画素クラスのデジタルバック市場はほぼ崩壊した。Phase Oneは、フルサイズでは物理的に到達不可能な「1億画素以上」や「16bitカラー」という超ハイエンド領域へシフトせざるを得なくなったのだ。
そして現在。センサーの飛躍的な進化と小型ミラーレス化が進み、フルサイズ機でも6000万画素級が当たり前のように普及し始めている。
僕自身の仕事を振り返っても、4000万画素程度あればほとんどの案件をこなすことができる。IQ4のような1億画素以上が「絶対条件」として求められるシーンは、今や限りなく少なくなってしまったのが現実だろう。
スペック競争という観点だけで見れば、画素数のアドバンテージが縮まり、DSLRタイプのXFボディを採用するPhase Oneは、ある種「前時代的なカメラ」と言えるかもしれない。
それでも今、最高峰を手にする理由
では、なぜ今Phase Oneを購入するのか。
ここからは僕の主観になるが、最大の理由は「デジタルカメラの画質における”アッパー(上限)”を知ることができるから」だ。
デジタルカメラの頂点であるPhase Oneは、どれだけの絵を吐き出せるのか。センサーの大きさで何が変わるのか。RAWデータはどこまで耐えうるのか。 その限界を一つの指標として知ることで、他のカメラとの比較基準ができ、「この仕事ならあのカメラで十分だ」という明確な妥協点を見出せるようになる。
そして何より、一度抱いた憧れを無くすには、一度手に入れなければならない。 かつて新品500万円前後という一部の人にしか手が届かなかった憧れのカメラを、中古とはいえ自分の手元に置き、好きなように使える。その喜びは何物にも代えがたい。
さらに、デジタルバックというシステム自体が無限の可能性を秘めている。元々フィルムカメラをデジタル化するために作られた機材であるため、オールドレンズやフィルムボディと組み合わせて本来の使い方を楽しむこともできる。趣味のカメラとして、これほど奥深く、面白い機材は他にないだろう。
おわりに
全4回にわたり、Phase Oneとデジタルバックのシステムについて長々とお話ししてきた。
ピントは合わせにくく、ノイズに気を使い、連写は遅く、デカくて重く、値段は高く……と、デメリットを挙げればキリがない。
しかし、適切な環境で正しく操作すれば、今でも世界最高峰の画質を叩き出すポテンシャルを持っている。これこそが中判フォーマットの魅力であり、最高に贅沢な撮影体験だ。
最後に、僕が最近強く感じている「趣味の深化における三段階プロセス」について話してこの記事を締めくくりたい。
1. 初期の体験(衝動) 人はまず、純粋な興味から「体験」の領域へと入る。この段階では、事前知識やこだわりがなく、ただその行為自体を楽しむことのみが存在する。
2. 盆栽の構築(探求) 趣味に没頭するにつれ、人は必然的に「盆栽」の領域へと足を踏み入れる。より高い次元の結果を求め、道具の選定や環境の微調整に多大な時間と資金を投じるのである。この時期は、本来の目的である体験よりも、理想の土台を作り上げる作業そのものに意識が集中する。
3. 真の体験(没入) 果てしない試行錯誤の末、ついに自分なりの「盆栽」が完成した時、大きな転換が訪れる。道具や環境に対する一切の不満や迷い(ノイズ)が完全に消え去ることで、ようやく真の意味で「体験」の領域に100%集中できるようになるのである。
すなわち、「盆栽」の領域で費やされる莫大なコストは、決して無駄な遠回りではない。それは、一切の雑念がない「純度100%の没入状態」を手に入れるための、不可欠なプロセスなのである。
僕自身、Phase Oneを購入して初めて、本当の意味で写真と真剣に向き合うことができたと感じている。毎年続々と新しいカメラが登場するが、正直なところあまり関心がなくなってしまった。 自分の中の「盆栽」が完成し、ついに次のステップ(没入)へ移行できた証拠だろう。
Phase Oneを購入してから、撮影そのもののモチベーションが向上し、加速度的に自分のスキルや経験値が伸びている実感がある。Phase Oneは、僕にとって「機材沼からの最短の出口」を示してくれたカメラになった。
今後の展望
来年、SONY製CMOSセンサー、IMX811を搭載した"IQ5"の噂がある。
噂が本当なら、約2億5000万画素になるとのこと。
そろそろXFボディも更新だろうか。
Phase Oneの今後の展開が楽しみだ。
中判デジタルの王者が、再びその名を轟かせる瞬間を楽しみにしている。
