見出し画像

『ゴールド ―境界の国―』第9話 「光の国(10個の月雫石)」


『ゴールド ―境界の国―』

第9話 「光の国(10個の月雫石)


光の国は、高い場所にあった。

光の国

白金色の建物が幾重にも重なり、空へ向かうように伸びている。

朝になると、壁に埋め込まれた結晶が光を反射し、街全体が静かに輝いた。

夜になっても、完全な暗闇は訪れない。

空には小さな光石が浮かんでいる。

それは風でも雲でもない。

ただ、世界の記録のように漂っていた。

この国は「世界の頭脳」と呼ばれている。

炎が拓けば地図を作り、

水が流れを整えれば管理し、

森が薬を作れば記録する。

月の国の観測も、すべてここへ集まる。

誰が生まれ、

誰が消え、

何が残ったのか。

そのすべてを抱えている国だった。

その中心に、カフカがいた。

月雫のペンダントが静かに揺れている。

銀色の雫石は、淡い光を内側に抱えていた。

彼はいつも通り書類を見ていた。

「三日、寝てないですね」

そう言った職員に、カフカは視線も上げない。

「……そう見える?」

カフカは少し笑った。

それだけで、空気が少しだけ緩む。

カフカはそういう人間だった。

強さではない。

揺れないことでもない。

壊れそうなものを、壊れないふりで支えている人間だった。

「目で分かります」

「気にすることではないさ」

淡々としたやり取り。

カフカは光の国で知らぬ者はいなかった。

理由は月雫一族だからではない。

責任者候補だからでもない。

ただ、目を引く人だった。

背は高く、黒髪は整えられている。

歩く姿にも無駄がない。

話す時も大きく笑わない。

必要以上の言葉を使わない。

それなのに、不思議と人が集まる。

揺れることがまるでない。

その時だった。

警告音。

光の国全体に、低い音が響く。

空気が一瞬で変わった。

職員が走る。

記録板が赤く点滅する。

「制御装置に異常発生」

「光石反応低下」

「再起動不能」

ざわめきが広がる。

カフカは顔を上げた。

「状況は?」

「不明です。光供給が落ちています」

「原因は」

「月雫石の反応不足です」

その言葉で、空気が止まる。

月雫石は、この国の光の循環の中心だった。

それが足りないということは……。

「全部、止まる可能性があります」

記録板が赤く染まる。

カフカは立ち上がった。

その瞬間、さらに報告が入る。

「月雫石、必要数10」

「現在保有7」

「光の国、保持者7名確認」

足りない。

3つ分足りない。

沈黙。

カフカは言った。

「どこにある」

「未回収です」

「月の国は」

「候補は」

「森の国、水の国、月の国」

その名前を聞いた瞬間、カフカは言った。

「ブレスレット一族か」

「森の国のミレアは?」

職員がすぐに答える。

「現在、薬草調査で滞在中です」

「至急、高玉堂へ呼べ」

「ミレアを呼ぶんだ」

短く、それだけだった。

さらに報告が入る。

「ユリア、森の国より到着可能」

「呼べ、早く」

空気がさらに重くなる。

「あと一つ足りません」

誰かが言った。

「時間がない。月雫一族を集めろ」

「月の国から探しだせ」

高玉堂。

光の国中心部に存在する巨大な制御施設。

上層には、国全体を見渡せる展望館『てんぼうかん』があった。

そこで、月雫石の力を一つへ繋ぐ。

銀色の土台に埋め込まれた透明な雫石。

夜空のような淡い光が、その中で静かに流れていた。

月雫一族。代々、特別な役割を担ってきた者たち。

ブレスレットを受け継ぐ者は、生命や治癒に近い力を持つ。

ペンダントを受け継ぐ者は、記録や観察に優れていると言われていた。



高玉堂。

光の国の制御の心臓。

そこに、月雫一族が集められていく。

次々と人が集まっていく。

月雫石。

それぞれが僅かに違う色で、違う温度で光っていた。

記録ではなく、命そのもののように。

カフカは静かにペンダントへ手を伸ばした。

月雫石を掲げた瞬間、空気がわずかに揺れた。

それだけで、誰もが黙った。

銀色の雫石が、淡く揺れる。

ミレアも一歩前に出る。

小さく息を吸う。

そして……。

月雫石を掲げた。

同時にユリアの腕には、ミレアと同じブレスレットが輝いていた。

ミレアは、そこで初めてそれを見た。

同じブレスレットは、一族の印。

同じ一族。

その腕にある銀の輪が、静かに光を返している。

視線が交わる。

言葉はない。

ただ、どこかで確かに同じものを持っていると理解する。

それは、受け継いだ絆でもあった。


「……それは」

ミレアは小さく息を呑む。

ユリアは何も言わない。

ただ微笑んだ。

ミレアはカフカを見た。

言葉は出ない。

ただ、息が少し止まった。

ユリアさんが……。

お姉様かもしれない……。

世界はまだ、揺れている。

次々と9つの月雫石が掲げられていく。

光が細く繋がる。

途切れそうで、途切れない。

まるで誰かの意思そのもののように。

僅かに、光が戻り始める。

最初は小さく。

次に街全体へ。

「もう一人、見つかったか?」

「月雫石保持者は……」

ミレアは、ひとつの包み紙を解いた。

古いものだった。

大切に何度も包み直された跡がある。

中には、小さく光を失いかけた月雫石。

「それは……」

誰かが声を漏らした。

「父の形見です」

ミレアの声だった。

一瞬、空気が止まる。

カフカはそれを見た。

「使えるか?」

管理者が答える。

「……理論上は可能です」

「やってみましょう」

即答だった。

最後のひとつ。

ミレアは反対の手で、月雫石を掲げる。

「お父様……この月雫石に、願いを」

月雫の力

その瞬間だった。

失いかけていた月雫石が、小さく光った。

光が繋がる。

点ではない。

線でもない。

一つ。

また一つ。

光が繋がる。

街の壁。

空の結晶。

漂う光石。

そして国全体へ。

「光、回復」

「制御装置、正常化」

「循環再接続完了」

警告音が止まった。

静寂。


誰もすぐには動かなかった。

「天衡舘は」

「天衡舘、安定しております」

その言葉で、ようやく空気がほどける。

カフカはただ一言だけ言った。

「助かった」

「カフカに呼ばれたら、いつでもすぐに来るよ。」

ミレアは小さく言った。

カフカは顔色も変えず、ただ静かに微笑んだ。

ミレアは少しだけ頷いた。


だが一瞬だけ、全員の胸の奥に同じ鼓動が走った。

誰かの痛みが、誰かの安心に変わったような感覚。

それが何かは、まだ誰も言葉にできなかった。


周囲には歓声が起きる。

光の国は、再び輝きを取り戻した。


光の国

「安心するな、一時的に戻っただけだ」

カフカの声が響く。


上空では、無数の灯りが静かに浮かんでいる。

白金色の光石が静かに揺れていた。

この国は……世界の頭脳。

カフカは笑った。

ミレアも笑った。

二人を見て、ユリアも優しく笑った。

ミレアは、自分の手を見つめていた。

ユリアもまた、同じように。

二人の間に、言葉にならない何かが残った。


アトラスとノアは、そのすべてを天衡舘から見ていた。

「記録は完了」

ノアはそう言う。

アトラスは答えない。

ただ、少しだけ目を細めた。


光は戻った。

光の国は再び輝いている。

だが、その光はもう以前と同じではなかった。

その光の中に、ほんの一瞬だけ──誰かの呼吸が混じっている気がした。

それは維持された光ではなく、選ばれた光だった。

光の国は、以前よりも静かに輝いていた。

引き合わせられた力は、ただ静かに国を支えている。


沢山の命を守る国。

守りたいものを守る国。

天衡舘が心臓ならば。
ここは頭脳。

光の国……。



(第9話 終)


境界の国



#創作大賞2026
#ファンタジー小説部門

ゴールドマガジンはこちら
noterゆらり(ゴールド|境界の国)


いいなと思ったら応援しよう!

ゆらり🌸🫧 🫶✨ よろしければ応援お願いします❣️運営費にします🌸iPad代金どうも有難うございます。チップってあんまりピン📍とこないのは🫢私だけ❓(いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます! )

この記事が参加している募集