【小説】ある技官、その妻とトキのぬいぐるみ 第24話
第24話 メルヘンチック
こんにちは。筑後川敦です。
突然ですが、皆さんはメルヘンチックといえば、どんなものを思い浮かべますか? 童話や絵本でしょうか。アニメにもそのような作品がありそうです。いずれも、子供や女性が好むかわいいものでしょうか。
長い間、メルヘンチックに縁のなかった私ですが、縁が出来たのはやはり結婚してからになりますか。思うに、筑後川家には2つのメルヘンチックがあります。
1つ目は、レースのカーテンです。私はメルヘンチックだと思いますが、皆さんはどうでしょうか?
私は必要性をまったく感じないレースのカーテンを、妻が必要だと強く主張したため初めて購入し、カーテンレールに掛けました。このことは、以前お話したことがあると思います。
2つ目は、トキのぬいぐるみです。こちらは100%メルヘンチックでしょう。
結婚しなければ、ぬいぐるみをアミゾンで購入することもなかった。ということは、きいちゃんにも会えなかったということになります。最近はきいちゃんが、トキのぬいぐるみだということを忘れ、いるのが当たり前になっています。まったく人生というものは、わからないものですね。
さて、なぜ私がメルヘンチックの話を始めたかと言いますと、職場である出来事があったからなのです。
ここで皆さんは、「おや?」と思うことでしょう。私の職業を知る皆さんにしてみれば、私の職場はメルヘンチックとは一番遠い分野に属すると想像されるでしょう。はい。実際、ご想像通りです。
「メルヘンチックだから、刈っちまおうか」
少し前のことなのですが、私の上司がこう言ったのです。
上司は私とは違い、迷彩服と制服を着ます。つまり職場ではそのどちらかを着ているわけです。その上司がこのように言ったのです。
これはどういうことかと言いますとーー
駐屯地の、ある場所が原っぱになっており、そこの雑草を刈れと命令したということです。
そこは、年に一度の開放日には、地域の皆さんが来てレジャーシートを広げる場所なのです。地元の飲食店が屋台を出し、楽しいひと時を過ごしてもらえるようにしています。(※各駐屯地により催しは異なります。コロナの自粛があります)
その場所には雑草がたくさん生えています。それらを刈ることも私達の膨大な仕事の中の一つですので、私は部下に指示を出します。雑草は刈っても刈っても出てくる厄介なもの。以前の私はそう思っていました。しかし、今は感じ方が違います。一面の緑のなかに、点々と、小さな黄色いものが見えます。そうか、タンポポってこんなに咲いていたのか。美花ちゃんが見たら、きっと喜ぶばい。
「わあ、すっごーい! たんぽぽいっぱい咲いてるじゃん♡」
などと言うことでしょう。ぬいぐるみのふりをするきいちゃんも、一緒に来れれば、大興奮間違いなしでしょう。
私の上司も、たんぽぽに気づいていたのですね。
「メルヘンチックだから、刈っちまおうか」
私は上司の部屋を出て廊下を歩きながら、帰宅したら美花ちゃんにこのことを話そうと思いました。きっとウケるに違いありません。
帰宅して話しますと、妻はメルヘンチック、メルヘンチックと繰り返し、「迷彩服の上司さん、いい台詞、メモメモ」などと言い大喜びです。それから大げさにこう言いました。
「ほんとに刈っちゃうの?! ねえ、きいちゃん、たんぽぽ、かわいそだねぇ」
「たんぽぽ、かわいそかわいそ」
きいちゃんも賛同します。
しかし、どうにもならないのです。仕事ですから。
それにしても、黄色い花を咲かせるたんぽぽはかわいそうで、他の雑草は刈られてもかわいそうでないのか? という疑問は、妻には言わないでおきました。まるで、弥生人が残念がるような顔になる妻。それが予想通りだったので、なんとなく安堵する私、筑後川敦なのでした。
