【掌編小説】コカ・コーラ ライトで
紺色プリーツが翻るのを気にしながら、芽衣はトンボハンドルの自転車からよいしょ、と降りた。上着もいらない春休み、顔はうっすら上気している。
バドミントン部の女子達はラケットを背負ったまま、公園のベンチで休憩していた。
「まだ鍵あいてた〜? どこにあった? やっぱ体育館か」
「うん。ギリギリセーフ。由実のもあったよ、ほら」
「えーマジ? ごめん、お弁当? ありがとっ」
由実に空の弁当箱を渡しながら、芽衣も座りこむ。
「ねえ、芽衣。体育館、誰が残ってた?」
芽衣をじっと見ていた菜々子が声をかけた。
「だ、だれって……な、中野先輩っ」
「おー、いいじゃん。顔赤いぞ、さては何かあったか」
「何もないよっ」
「何もない顔では、な〜い。グフッ」
「菜々子、えっちぃんですけど〜っ」
「私はいいから。ほら、白状してみ?」
「これは今、チャリ漕いでたから」
「またまた〜。だまされないぞ」
「私も聞く!教えて!」
芽衣は周りの他の子たちをチラッと見てから、ふたりに小声で報告した。
「実はね、その、中野先輩が」
「なに、コクられた?」
「菜々子、落ち着け。そんなわけない」
ふっと息を吐き、芽衣は話し始めた。
「実はね……」
芽衣が忘れ物をとりに中学校の体育館へ戻ると、3年の中野が自主練を終え、片づけをしていた。
「先輩、まだ練習してたんですか」
「お、芽衣、シューズそこに残ってるぞ」
芽衣が中野の指先を辿ると、隅にシューズケースがぽつんと残っていた。
「うわ、こんなところに。ありがとうございます。ところで先輩」
中野が芽衣の横に立つ。
「俺、県の選抜メンバーに選ばれた」
中野の満面の笑顔に、芽衣の鼓動が速くなる。
「それで今日も残って練習してた。……芽衣、ちょっとだけ付き合え」
「はい」
中野の手には赤白2本の缶コーラがあった。白の缶を芽衣に手渡す。
「吹くから振るなよ?」
「室内ではやりませんよ〜」
プシュッと缶を開け、芽衣が目線を上げると、中野が缶を差し出してきた。
「乾杯しようぜ」
乾杯、と缶を軽くあてる。
「中野先輩、おめでとうございます」
芽衣の声が少し上擦る。
「先輩、私がコカコーラライト好きなの、知ってたんですか」
「それ以外のジュース飲むところ、誰も見たことないって」
中野はケラケラと笑いながら、あっという間にコーラを飲み干した。
芽衣も負けじと一気飲みをする。
「お〜、これぞ『乾杯』。よし、あまりいると怒られるから、帰るぞ」
そして芽衣の頭の上で手をポンポン、と軽く弾ませた。
「芽衣、サンキューな」
「えー、何それ〜!!やだ、ソウシソウア……◯▲☆」
菜々子が思わず叫んだので、芽衣は慌てて菜々子の口を手で覆った。
「しーっ。みんなにバレる」
周りを確認してから由実が続ける。
「え、やっぱりコクられた?」
「……残念ながら、先輩それどころじゃなさそうで」
「そうだね、念願の選抜メンバーだもんね」
「でも、すごいうれしそうだったし、まあ、いいかな、って」
「あれ、芽衣、泣いてる?」
由実の小さな声とともに、芽衣の目から涙があふれだした。
「あ、ごめんごめん。私のせいかな」
「せんぱい、わたしなんて、みてない……っ。ぶかつしか、かんがえてなくって」
そこへ菜々子が、コカコーラライトを3本抱えて戻ってきた。
「あーもう、泣かないで。美人がだいなし。別に振られたわけじゃなし、これで乾杯しよう」
「よし、飲もう。先輩のお祝いだもんね」
はいっ、と今日2本目のコカコーラライトを渡されて、芽衣の涙は引っ込んだ。
「ちょっと〜、私それ今日2本目」
「でも飲むでしょ」
「うん」
3人は仲良く同時にプシュッと缶を開けた。
同時に勢いよく茶色の泡が飛び出した。
「乾杯〜!」
(1.481文字)
音羽しーなさんに当作品を朗読していただきました!
芽衣と中野先輩の青春の1ページ、しーなさんの声でお楽しみください
テーマ【乾杯】で書かせていただきました
書く部限定企画・ミニカキングダム参加作品です
ことばとさん、よろしくお願いします✨️
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