「動画作れます!」と言った瞬間、営業はだいたい迷子になる
「動画作りませんか?」だけでは、たぶん誰も振り向かない
いま、映像制作会社向けの営業補助ツールを作っています。
名前はまだ仮です。
今のところ、わかりやすさ優先で 「えいぎょう設計くん」 みたいな名前がいいのでは、と思っています。
ちょっとダサい。
でも、妙にわかりやすい。
そして、こういう名前のほうが意外と現場で呼びやすかったりします。
「えいぎょう設計くん、開いといて」
「この案件、設計くんに入れてみよう」
うん。悪くない気がします。
これはAI動画生成ツールではありません
最初に言っておくと、これはAIで動画を自動生成するツールではありません。
「商品名を入れたら、いい感じのプロモーション動画が完成!」
みたいな夢のツールではないです。
そんな魔法のボタンがあったら、私も押したいです。
できれば毎朝押したいです。
ただ、現実はそこまで甘くありません。
映像制作で本当に面倒なのは、動画を作る前だったりします。
何を伝えるのか。
誰に見せるのか。
どこで使うのか。
何秒にするのか。
そもそも映像化する意味があるのか。
営業先にどう説明するのか。
相手が社内でどう説明するのか。
このへんが曖昧なまま走り出すと、だいたい後でしんどくなります。
なので今作っているのは、映像そのものを作るツールというより、映像を作る前のぐちゃぐちゃを整理するツールです。
なぜこんなものが必要なのか
映像制作の営業って、意外と難しいです。
つい言いたくなります。
動画作れます
3DCGできます
モーショングラフィックスできます
AIも使えます
編集もできます
言っていることは間違っていません。
でも、聞いている側からすると、たぶんこうです。
「で、うちの場合は何を頼めばいいんですか?」
ここなんですよね。
制作側は「できます」を並べがちです。
でも相手が知りたいのは、できること一覧ではありません。
知りたいのは、たぶんこのあたりです。
自社の場合、何を頼めばいいのか
どのくらいお金がかかるのか
何が納品されるのか
どんな流れで進むのか
既存の写真や資料だけでも始められるのか
上司にどう説明すればいいのか
そもそも動画にする意味があるのか
ここが見えていないと、相手は動けません。
いくらこちらが「作れます!」と言っても、相手の頭の中では、
「うーん、よくわからないから、また今度で」
となります。
そして、その「また今度」は、だいたい二度と来ません。
映像制作営業あるあるです。悲しい。
まず、自分たちが選ばれない理由を潰したい
このツールを作ろうと思った理由は、かなりシンプルです。
クライアントの商品やサービスを「選ばれやすくする映像」を提案する前に、まず自分たちが選ばれやすくならないといけない。
当たり前のようで、けっこう抜けがちです。
「御社の価値をわかりやすく伝えます」
と言っているこちら側が、そもそも何を頼める会社なのか伝わっていない。
これは、なかなかのブーメランです。
なので、営業前に最低限これを整理したい。
何を頼めるのか
価格の目安はどれくらいか
小さく試せる入口はあるのか
制作工程はどうなっているのか
納品物は何なのか
他社との違いは何なのか
これを毎回ゼロから考えるのは、けっこう大変です。
営業担当が毎回頭の中で組み立てるのも大変です。
たぶん脳内に付箋が100枚くらい貼られることになります。
それを少しでも整理するために、ツール化しようとしています。
「動画を売る」のではなく、相手の困りごとを見つける
このツールでやりたいのは、動画を売り込むことではありません。
営業先の商品やサービスを見て、
何が伝わりにくいのか
どこで見込み客が迷いそうなのか
競合との違いが見えているのか
導入後の変化が想像できるのか
展示会やWebで一瞬で伝わるのか
次に何をすればいいか分かるのか
を整理することです。
たとえば、あるメーカーのWebサイトを見たとします。
写真はある。
説明文もある。
スペック表もある。
でも、初見だと「結局なにがすごいのか」が少し分かりにくい。
こういうこと、わりとあります。
そのときに、
「動画どうですか?」
ではなく、
「この商品の強みは、文章よりも構造や使い方を見せた方が伝わりやすそうですね」
と言える方が、ずっと自然です。
さらに、
まずは既存資料を使った30秒映像化から始めるのがよさそうです
展示会用途なら15秒の無音ループ映像が合いそうです
内部構造が強みなら、3DCG構造説明ラフから試すのがよさそうです
というように、提案の入口まで整理できると強い。
営業というより、半分は診断です。
お医者さんがいきなり薬を出さずに、まず症状を聞く感じです。
こちらもいきなり「動画ですね!」とは言わない。
まず「どこが伝わっていないんでしょうね」を見る。
たぶん、その方が誠実です。
実装してみると、地味に難しい
ここからが本題です。
作り始めてみると、思ったより難しいです。
最初は正直、
「入力フォームを作って、提案書っぽいものをMarkdownで出せばいけるのでは?」
くらいに考えていました。
甘かったです。
だいぶ甘かった。
コンビニのプリンくらい甘かった。
単なる入力フォームなら簡単です。
商品名。
業種。
ターゲット。
参考動画URL。
希望尺。
予算感。
これを入れて、文章を出すだけなら、形にはなります。
でも、それだとただの「提案書生成フォーム」です。
使えなくはないけど、あまり賢くない。
本当にやりたいのは、情報がちゃんと次につながることです。
営業先診断で整理した「選ばれにくい理由」が、初回相談の質問につながる。
初回相談で聞いた内容が、入口商品の提案につながる。
入口商品が決まると、構成案やカット割りにつながる。
構成案が決まると、必要素材や素材サイトで探す検索ワードにつながる。
最後に、それらが提案書や社内説明用の1枚資料につながる。
この流れを作りたい。
でも、これがなかなか厄介です。
それぞれの画面をバラバラに作るだけなら簡単です。
ただ、それだと実務では使いにくい。
営業前に入力した仮説と、相談後に作る提案書がつながっていないと意味がありません。
つまり、画面を作っているというより、営業の思考の流れをアプリに落とし込んでいるという感じです。
これが難しい。
人間の「まあ、この場合はこっちかな」をどう扱うか
映像提案って、単純な条件分岐だけでは決まりません。
たとえば、
「展示会で使う」と入力されたら、
「展示会15秒ループ映像」をおすすめする。
これは分かりやすいです。
でも実際には、そんなに単純ではありません。
展示会で使うけれど、商談後に送る30秒動画も必要かもしれない。
既存資料がしっかりあるなら、まず30秒映像化の方が早いかもしれない。
内部構造が強みなら、3DCG構造説明ラフを先に見せた方がいいかもしれない。
予算が小さければ、入口商品をもっと小さくする必要があるかもしれない。
人間なら、なんとなく考えます。
「この案件は、いきなり本制作じゃなくてラフからだな」
「これは展示会より営業資料寄りだな」
「これは3DCGを前面に出すと重く見えるな」
この「なんとなく」を、どうアプリに持たせるか。
ここがかなり難しいです。
あまり自動化しすぎると、押しつけがましいツールになります。
かといって全部手入力だと、ただのメモ帳になります。
この中間を狙っています。
賢すぎず、バカすぎず。
営業担当の横で、ちょっと気の利く後輩くらいの立ち位置が理想です。
参考動画の扱いも、けっこう繊細
クライアントから、
「この動画みたいにしたいです」
と言われることはよくあります。
この言葉、ありがたい反面、少し怖いです。
「この動画みたいに」の中には、いろいろ入っています。
テンポなのか。
色味なのか。
高級感なのか。
カメラワークなのか。
構成なのか。
それとも、ほぼそのまま寄せたいのか。
最後のやつは危ないです。
さすがに、構図もコピーも音楽もタイミングも寄せすぎると、よろしくありません。
なので、このツールでは参考動画を「真似る対象」ではなく、構造を読む対象として扱いたいと思っています。
たとえば、
冒頭で何を見せているか
商品は何秒目に出てくるか
テキスト量はどれくらいか
カットのテンポは速いか
どのタイミングでベネフィットを出しているか
最後にどう行動を促しているか
こういう部分だけを拾います。
そして、
活かせる要素
そのまま真似ると危ない要素
別演出に置き換える部分
を分ける。
これは機能として地味ですが、けっこう大事です。
「参考にする」と「パクる」の間には、けっこう深い谷があります。
落ちたら痛い谷です。
素材サイトも、便利だからこそ整理が必要
動画素材やモーショングラフィックス素材を集められる素材サイトは、本当に便利です。
ただ、便利な反面、素材が多すぎる問題があります。
検索しているうちに、気づいたら1時間経っている。
そして最初に何を探していたか忘れる。
これも、素材サイトあるあるだと思います。
なので、ツール側では素材そのものを自動取得するのではなく、
「このカットにはこういう素材が必要」
「素材サイトではこういうキーワードで探すとよさそう」
という素材スロットを出したいと考えています。
たとえばシャンプーなら、
water splash slow motion
clean beauty background
cosmetic water drops
hair care commercial
ガジェットなら、
tech product reveal
futuristic interface
minimal product background
dark cinematic particles
みたいな感じです。
素材を探す前に、何を探すべきかを決める。
地味ですが、ここをやらないと素材探しは沼になります。
素材サイト沼です。深いです。
UIも地味に悩む
もうひとつ悩んでいるのがUIです。
開発者向けの管理画面みたいにすると、営業担当が使いにくい。
かといって、簡単にしすぎると制作に必要な情報が足りない。
営業担当が見ても分かりやすく、制作側が見ても使える。
このあたりを狙っています。
画面としては、
営業先診断
初回相談ヒアリング
入口商品提案
構成案
素材設計
提案書出力
営業反応記録
という流れにしています。
画面は増えます。
作る側としては、正直ちょっと大変です。
でも、実務で使うなら、たぶんこの分け方が必要です。
全部を1画面に詰め込むと、入力フォームの圧がすごい。
もはや営業補助ツールではなく、業務用の壁になります。
壁は越えたくないので、ステップに分けています。
いま考えている機能
今のところ、主な機能はこんな感じです。
営業先診断
営業先の商品やサービスが、なぜ選ばれにくいのかを整理します。
分類は、
分からない
違いが分からない
信じられない
自分ごとにならない
面倒に見える
導入後が想像できない
次の行動が分からない
などです。
この分類があると、営業文がただのテンプレートになりにくいです。
初回相談ヒアリング
初回相談で聞くべきことを整理します。
誰に見せるのか。
どこで使うのか。
見た後にどう動いてほしいのか。
今、何が伝わっていないのか。
競合との違いは何か。
既存資料はあるのか。
こういうことを、抜け漏れなく聞けるようにしたいです。
入口商品の提案
いきなり大きな映像制作を提案するのではなく、小さく始められる入口を整理します。
既存資料の30秒映像化
展示会15秒ループ映像
商品・サービス説明30〜60秒映像
3DCG構造説明ラフ
などです。
「まずはこのへんから試すのが良さそうです」と言えるようにしたい。
構成案とカット割り
15秒、30秒、60秒などの尺に応じて、構成案を作ります。
短い映像でも、ただ商品を映せばいいわけではありません。
何に困っているのか。
商品は何を解決するのか。
見た後に何をすればいいのか。
その順番を整理します。
提案書と社内説明資料
最終的には、提案書や社内説明用の1枚資料として出力できるようにしたいです。
映像制作は、担当者がその場で即決できるとは限りません。
上司に説明する。
社内で予算を取る。
他部署と共有する。
そのときに、説明しやすい資料があると検討しやすくなります。
これは、便利ツールというより「迷子防止アプリ」
作っているものを一言で言うなら、営業と制作の迷子防止アプリかもしれません。
営業先を見て、何を提案すればいいか迷う。
初回相談で、何を聞けばいいか迷う。
提案書を書くとき、どこから説明すればいいか迷う。
素材を探すとき、何を検索すればいいか迷う。
営業後に、何が良くて何が悪かったのか分からない。
この迷子状態を減らしたい。
映像制作は、作る前に迷うことが多いです。
迷ったまま作ると、だいたい後で迷子センター行きです。
なので、その前に地図を作りたい。
それが、このツールの役割です。
最後に
映像制作の営業は、「動画作れます」だけでは届きにくいと感じています。
クライアントが求めているのは、たぶん単なる動画ではありません。
自社の価値が伝わること。
営業で説明しやすくなること。
展示会やWebで選ばれやすくなること。
社内で検討しやすくなること。
そのためには、制作会社側も営業の段階から、もう少し整理された提案が必要です。
いま作っている「えいぎょう設計くん」は、そのための小さな実験です。
営業と制作のあいだにある、目に見えにくい判断を、少しずつ道具にしていく。
まだまだ実装で詰まるところは多いです。
というか、詰まってばかりです。
でも、詰まるということは、そこにちゃんと問題があるということでもあります。
「動画作りませんか?」ではなく、
「伝わりにくい価値を、選ばれやすい映像に整理しませんか」
そう言える営業のためのツールにしていきたいです。
