第1話:はじまりの悲鳴
「ねえ、これ……消していいの?」
震える声で妹が指さしたのは、画面いっぱいに広がる真っ赤な警告画面。 私にとっては「ああ、怪しい広告ね」の0.3秒案件。 でも妹・カピ子にとっては、『ジョーズ』のサメが目の前に現れたような、魂ごと持っていかれる絶望だったらしい。
わが家のカピ子は現在、私の鬼教官スパルタPC教室に通っている。 そして教えながら、私は思い知った。
私にとっての「当たり前」は、カピ子にとっての「異世界の呪文」だった。
😱 事件簿1:PCは毎日、気絶させられていた
最初の衝撃は、開講初日に訪れた。
操作を終えたカピ子は、おもむろに電源ボタンを長押しした。 私:「ちょっと待って!!何してるの!?」 カピ子:「え? 使い終わったから電源切るんでしょ。つけた時に押したんだから、また押せばいいじゃん」
……完璧なロジックだった。 反論できなかった。
でも現実はこうだ。PCは今日書いたもの、今日開いたもの、今日やりかけたすべてを「ちゃんと片付ける時間」を必要としている。それを奪われたPCは、毎日いきなり意識を刈り取られていたのだ。
よくぞ壊れなかった、わが家のPC。 お前は偉い。
🖱️ 事件簿2:「つかむ」という物理の壁
「そこ、マウスでつかんで動かして」
私がそう言った瞬間、カピ子はフリーズした。
カピ子:「……何を? どうやって?」
左ボタンを押し続けながら、そのまま横にスライド。 たったそれだけのことが、カピ子には「右手で卵を握りつぶさないように持ちながら、左手で皿回しをする」くらい高度な同時並行タスクだった。
指が止まる。マウスが浮く。クリックが外れる。 そしてカピ子は言った。
「……手、足りなくない?」
違う。でも、ちょっとわかる。
🪙 魔法の解決策:ありがとうコイン
私たちは作戦を立て直した。
専門用語は全部捨てる。 この世界を、魔法に例え直す。 そして、一つできるたびに自分へ「ありがとうコイン」という架空のチップをあげることにした。
マウスを「握手」するように持てたら、+1枚。 ジェイソン(赤い警告画面)に負けずお姉ちゃんを呼べたら、+10枚。 シャットダウンを自分でできたら、+50枚。
コインに交換できるものは何もない。 でも、カピ子は毎回、本気で喜んだ。
🧙♀️ 鬼教官の魔法指令書 其の一:「PCを正しく眠らせる呪文」
カピ子よ、聞け。
PCとは、毎日ちゃんとお布団に入れてあげなければならない生き物だ。 電源ボタンの長押しは、PCを「眠らせる」のではない。 いきなり気絶させているのだ。 毎日そんなことをされたら、人間だって壊れる。
正しい「おやすみの儀式」を、今ここに授けよう。
🪟 Windowsの儀式
① 画面左下の「スタートボタン(旗のマーク)」を押す → これが「魔法陣を開く呪文」だ。
② 電源マークを押す → ほうき型の魔法杖だと思え。
③「シャットダウン」を押す → これがPCへの「おやすみ、また明日」の言葉だ。
PCが自分で考えて、全部片付けて、静かに眠りにつく。 それまで絶対に電源ボタンに触るな。
🍎 Macの儀式
① 画面左上の「🍎マーク」を押す → りんごが「聞いてますよ」と言っている。
②「システム終了…」を押す →「…」は「本当にいいですか?」というMacの確認だ。ビビるな。
③「システム終了」を押す → PCが静かに旅立つのを、そっと見守れ。
それまで画面から手を離すな。
⚔️ 鬼教官からの最終通告
「使い終わったら、また押せばいいじゃん」
その発想、悪くない。でも違う。 PCはお前より賢い。 だから、ちゃんと「終わる時間」を与えてやれ。
📜 本日の魔法呪文:「シャットダウン」 これを唱えた者だけが、明日もPCと戦える。
+100コイン獲得🪙
これは、PC音痴の妹カピ子が、恐怖のパニック映画から脱出し、少しずつ自分を好きになっていく冒険の記録である。
そして鬼教官である私が、教えながら何度も泣きそうになった、愛の記録でもある。
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