虹を映す水鏡
数日間にわたって降り続いた激しい雨が、ようやく止んだ。
城下町の外れ、古びた洋灯(ランプ)が灯るアジサイの庭園に、そのドラゴンはいた。名をアルティスという。激しい嵐を呼ぶと恐れられる龍の眷属でありながら、彼はただ、雨上がりの静寂を愛する風変わりな古龍だった。
雨粒をたっぷりと吸い込んだ紫や青の花々が、重たげに首をもたげている。その中に身を潜めるアルティスの鱗は、まるでアジサイの色が移ったかのように、鮮やかな青と紫のグラデーションに染まっていた。
雲の隙間から、黄金色の柔らかな陽光が差し込み始める。
温かな光が濡れた石畳を照らすと、そこに広がる大きな水たまりは、たちまち一枚の美しい鏡へと姿を変えた。
アルティスが静かに足元を覗き込む。
そこには、青空へと架かった大きな虹の橋と、真珠のような白い角を持つ自分自身の姿が、信じられないほど鮮明に映し出されていた。
「……見事なものだ」
アルティスが小さく息を吐くと、その熱で水面がわずかに揺れ、映り込んだ虹が生き物のようにきらめいた。
ドラゴンという生き物は、世界の「美しさ」を糧にして生きる。あるものは燃え盛る宝石を奪い、あるものは黄金を巣に溜め込むが、アルティスが求めるのは、この「雨が上がった瞬間にだけ現れる、世界で最も清らかな光」だった。
遠くの古城から、雨上がりを告げる鐘の音が響いてくる。
街の人々が窓を開け、この美しい空を見上げる時間だ。
アルティスは満足そうに目を細めると、濡れた大きな翼をゆっくりと広げた。鱗に溜まった雨粒が、太陽の光を浴びてダイヤモンドの粉のようにきらきらと舞い落ち、アジサイの葉を優しく叩く。
彼がこの庭園に留まる限り、この街の雨上がりはいつも、世界で一番美しい奇跡に包まれるのだった。

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