星屑の約束
その夜、庭の薔薇たちは月光を吸い込んで、まるでもう一度命を吹き込まれたかのように輝いていました。窓辺の椅子に深く腰掛けたその人は、鮮やかな記憶の海を漂っていました。
黄金の月と約束
遠い昔、まだ世界が若く、恋が魔法だった頃。彼女は湖のほとりで彼と向かい合っていました。
空には、今夜と同じような大きな三日月。彼は優しく彼女の頬に手を添え、囁きました。
「もし、僕たちの時間が終わる時が来ても、僕は星屑になって君を迎えに行く。だから、怖がらないで。最後は笑っていてほしいんだ」
その時の彼の瞳には、満天の星空が映っていました。二人は若く、愛は永遠に続くと信じて疑わなかった。けれど、人生という河は容赦なく流れ、彼は一足先にその星空の一部となってしまいました。

穏やかな冬の夜
それから数十年。彼女は多くの冬を越え、多くの花を育て、いつしか髪は銀色に染まりました。寂しさがなかったわけではありません。けれど、不思議と心は満たされていました。
今、彼女の視線の先には、庭を横切る柔らかな風が見えました。
「あら……お迎えかしら」
彼女は小さく呟きました。視界がゆっくりと白く、輝かしい光に包まれていきます。
すると、まぶたの裏に、あの頃のままの彼が現れました。青いシャツの裾を揺らし、悪戯っぽく微笑みながら手を差し伸べています。
最後の微笑み
彼女の胸に、止まっていたはずの若々しい鼓動が、トクン、と一度だけ力強く響きました。
重かった体は羽のように軽くなり、しわの寄った指先は、一瞬にしてあの日湖畔で彼に触れられた時の滑らかな肌へと戻っていくようでした。
「お待たせ。ずっと、いい子で笑っていたわよ」
彼女は誰にも聞こえない声で答えました。
その唇の両端が、ふわりと上を向きます。それは、恋を知ったばかりの少女のような、最高に幸福で無邪気な微笑みでした。
月が雲に隠れ、庭の薔薇が一際強く香った瞬間。
椅子に座ったままの彼女は、満足そうに、穏やかに、その生涯の最後の一行を書き終えたのでした。
#3つのお題に空想のひらめきを
#お題 ④イラストから空想した世界
#片桐みかんさん企画
