峠の「午前二時」の賑わい
村外れの看板には、古びた文字でこう書かれています。
「夜になると動き出す地蔵さま。驚くべからず、邪魔するべからず」
村の子供たちは、それを「夜更かしを戒めるための作り話」だと思っていました。
しかし、月が南の山にさしかかる午前二時_
石の肌が月光を吸い込んで、ほんのりと体温を持ち始める時間を、大人たちは誰も知りません。
「やれやれ、今日も一日、立ちっぱなしで腰が固まったわい」
一番大きな「親分地蔵」が、ボリボリと頭をかきながら台座から飛び降りました。それを合図に、後ろに並んでいた地蔵たちも、一斉に背伸びをしたり、足首を回したりして動き出します。
彼らが夜な夜な動き出す理由。それは「見守り」だけではありません。実は、村中の「落とし物」や「忘れ物」を回収し、持ち主の元へこっそり戻すための、深夜のパトロールなのです。
今夜のミッション
この日の獲物は、昼間にうっかり子供が忘れていった「赤い手袋」と、おじいさんが落とした「大事な入れ歯」でした。
先頭の親分: 行燈を高く掲げ、道なき道を進みます。
二番目の地蔵: 拾った手袋を大事そうに抱え、落とし主の家の軒先を狙います。
三番目以降: 軽快な足取りで続き、道端に咲く花たちと「今夜の月は綺麗だね」と世間話を交わします。
彼らが通る道には、キラキラとした光の粉が舞い、眠っている犬たちは小さく尻尾を振ります。地蔵たちは、村の掲示板の裏や、縁の下など、人間が気づかないような場所に「落とし物」をそっと置き、最後に行燈をひと振りして魔法をかけます。
「これで明日、あの子は笑顔になるな」
「おやおや、この入れ歯がないと、あのお爺さんは明日のお粥も食べられんからな」 親分地蔵は、道端に落ちていた入れ歯を丁寧に布で拭き、お爺さんの家の枕元へと運びました。
秘密の終わり
一番鶏が鳴く直前、彼らは大急ぎで元の場所へ戻ります。
「おい、お前の帽子が曲がっているぞ」
「おっと、君こそ行燈を隠し忘れている」
互いに身なりを整え、再び石の姿に戻る頃には、東の空が白み始めます。
朝、目覚めた子供が庭の隅で失くしたはずの手袋を見つけ、「不思議だなぁ」と首をかしげるのを見て、石像に戻った地蔵様たちは、心の中でニヤリと笑うのです。
今日も村が平和なのは、夜の間に彼らがせっせと「小さな幸せ」を配り歩いているからなのでした

#3つのお題に空想のひらめきを
#夜になると動き出すお地蔵さま
#片桐みかんさん企画
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