記憶と風の通り道
世界が微睡みに落ちる刻
地上と天の狭間には
誰も知らない「記憶と風の通り道」が
姿を現す。
そこは、現世(うつしよ)で零れ落ちた無数の想いが光の粒子へと昇華し、永遠の星座へと還るための、静謐なる回廊だ。
少女は、この回廊を歩く「看取り人」であった。
彼女が歩を進めるたび、足元の星屑は憐光を放ち、風は銀の鈴を転がしたような音を立てて吹き抜ける。その風は、単なる大気の移動ではない。
かつて誰かの胸を焦がした情熱
幼い日に分かち合った林檎の甘み
そして、今はもう会えない人の穏やかな横顔
――それら実体を持たない幸福の残滓を吸い上げた、重みを伴う大風である。
「ああ、また新しい物語が流れてきた」
少女は麦わら帽子の縁を押さえ、宙を舞う黄金の額縁を見つめる。
それらは、現世で失われた記憶の断片だ。
あるものは幼い兄弟の無邪気な笑い声を閉じ込め、あるものは夕暮れ時の恋人たちの沈黙を映し出している。
「記憶は、持ち主を失うと透明になる。だから、こうして星の光を浴びせて、色を戻してあげなければならないの」
彼女の仕事は、それらの記憶が虚無に消えてしまわぬよう、天の川の奔流へと優しく送り出すこと。**「記憶と風の通り道」**に浮かぶ写真は、どれもセピア色の温もりを帯び、今まさに永遠という名の夜空へと組み込まれようとしていた。
ふと、一枚の小さな写真が少女の肩をかすめた。そこには、彼女によく似た面影を持つ女性が、幼い子供を抱いて微笑んでいる姿があった。少女は手を伸ばしかけ、そして、静かにその指をひっこめた。
執着は、光を濁らせる。
彼女はこの道で、数え切れないほどの人生を「光」として見送ってきた。たとえそれが自分自身の欠落した記憶の一部であったとしても、この回廊においては、すべては等しく尊い星の種子に過ぎない。
少女は再び前を向いた。
銀河の渦は、さらに高く、さらに眩く巻き上がっていく。
彼女の白いドレスの裾が風に翻り、その背中は、孤独でありながらも、宇宙の調和を守る聖者のような神々しさを湛えていた。

