おばあちゃんの薬箱
西日がやさしく差し込む部屋で、おばあちゃんは年季の入った大きな木箱をテーブルの上に広げました。
パタン、と心地よい音を立てて蓋が開くと、部屋中に甘くて香ばしい草木の香りが広がります。
「おばあちゃん、その箱には何が入っているの?」
わたしが身を乗り出して尋ねると、おばあちゃんはメガネの奥の目を細めて微笑みました。
「ここにあるのはね、病気を治す草っぱや花だけじゃないんだよ」
第一章:草木のちえ
木箱の中はいくつもの小さな部屋に仕切られており、乾いた薬草が綺麗に並べられていました。蓋の裏には、おばあちゃんのやわらかい字で『くすりの ちえ』が書かれています。
どくだみ ・・・ 熱をさまし、からだを清める
おおばこ ・・・ のどの痛みをやわらげる
よもぎ ・・・ おなかをぽかぽかと温める
すぎな ・・・ すりむいた傷をなおす
「わぁ、草っぱってすごいんだね!」
わたしが感心して瓶をのぞき込むと、おばあちゃんは机の上の古いノートを開いて見せました。
第二章:こころの処方箋
そのノートには、ふしぎな見出しが並んでいました。
【おくすりになる草の本:おぼえがき】
いたいとき かなしいとき がんばりたいとき
「おばあちゃん、『かなしいとき』のお薬もあるの?」
「もちろんさ」
おばあちゃんは小さな紫色の小袋をひとつ手にとり、わたしの手のひらにそっと乗せました。
「転んで足がいたいときは『すぎな』が効くけれど、お友達と喧嘩して心がいたいときはね、相手を想う気持ちと、あたたかいお茶が一番のお薬になるのさ」
おばあちゃんは薬研(やげん)で薬草をごりごりと擂りながら、優しく言葉を続けます。
「この箱に入っている本当のお薬はね、『大切な人を元気にしたい』という優しい心なんだよ」
第三章:受け継がれる魔法
わたしは自分の胸のあたりが、ぽかぽかと温かくなるのを感じました。
「じゃあね、おばあちゃん。わたしが風邪をひいたときに淹れてくれたお茶には、おばあちゃんの優しさがたくさん入っていたんだね」
「そうだよ。だから、あっという間に治ったでしょう?」
ふたりは顔を見合わせて、くすくすと笑い合いました。
窓の外では夕暮れの風が静かに吹き、小さなランタンの光が薬箱の瓶たちをキラキラと照らしています。わたしはノートの余白に、自分だけの小さなおぼえがきをそっと書き加えました。
だいすきな おばあちゃんが つかれたとき ・・・ あまい野イチゴと、ぎゅっと抱きしめること
おばあちゃんの薬箱は、大切な人を守る小さな魔法で満ちていました。

_亡き祖母へ
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