コバルトの静寂に寄せて
そこは、何千年も前に「音」という概念が氷りついてしまった世界でした。
空からは雪の代わりに砕けた旋律の欠片が降り注ぎ、街も人々も、ただ透き通るような青い結晶の中に閉じ込められています。風の音さえも、ここでは目に見える「形」となって足元に転がっていました。
唯一の「声」を持つ少女
その中心、かつて大聖堂と呼ばれたクリスタルの宮殿に、一人の少女が座っています。彼女の名はセレナ。この世界でたった一人、喉の奥に「震え」を宿して生まれた、最後の歌姫です。
彼女が手に持っているのは、マイクではありません。それは、世界に散らばった音の粒子をかき集めるための、白銀の杖。セレナがそっと瞳を閉じ、祈るように唇を戦わせると、不思議なことが起こります。
結晶の羽ばたき: 彼女の周囲を舞う蝶たちは、かつて誰かが囁いた「愛している」という言葉の化身。
旋律の滴: 天井から吊るされた巨大なダイヤモンドは、降り積もる静寂を濾過して、一滴の清らかな音色へと変える装置。
歌わぬ歌姫の役目
皮肉なことに、セレナの歌声は誰の耳にも届きません。なぜなら、この世界には音を運ぶ「空気の震え」が存在しないからです。彼女が歌うとき、口から溢れるのは音波ではなく、眩いばかりの光の帯でした。
彼女の歌声(ひかり)が宮殿を通り抜け、凍りついた街へと広がっていくとき、人々の心には「かつてそこにあった温もり」の記憶がかすかに蘇ります。
「ああ、これはきっと、雨が屋根を叩く音だ」
「これは、幼い頃に聞いた母親の子守唄だ」
人々は耳で聴く代わりに、その光を肌で感じることで、失われた音の世界を追体験するのでした。
セレナは知っています。いつか自分の魂がすべて光となって溶け出したとき、この世界を覆う氷が溶け、本当の「音」が戻ってくることを。
彼女は今日も、誰もいない、けれど全てが満たされた蒼い静寂の中で、優しく微笑みながら歌い続けます。いつか誰かが、その歌を「聴く」ことができる未来を信じて。
「聴こえますか? この光が、私の最高のアリアです」

#3つのお題に空想のひらめきを
#片桐みかんさん企画
#音のない世界の歌姫
みかんさん、マガジン収録ありがとうございますm(_ _)m🙏
西野光照さん、マガジン収録ありがとうございますm(_ _)m
Yasuhitoさん、マガジン収録ありがとうございますm(_ _)m
山中サトシさん、マガジン収録して下さりありがとうございますm(_ _)m🙏

たおたおさん、記事紹介ありがとうございます(^人^)💞
12340さん、マガジン収録して下さりありがとうございます(^人^)💞
