おむすび山のたぬき
むかしむかし、山々の連なるふもとに、藁葺きの小さなお家がありました。そこには、料理上手で優しいおばあさんが一人で暮らしていました。
おばあさんが作るごはんの中でも、とりわけ絶品だったのが**「塩むすび」**です。かまどでふっくらと炊き上げた新米を、手のひらでキュッ、キュッと結び、香ばしい海苔を巻く。そのおむすびからは、いつも山じゅうに届きそうなほど良い匂いが漂っていました。
ある日の夕暮れ時。おばあさんが夕食のおむすびを盆に載せて縁側に座っていると、草むらがガサゴソと揺れました。
「おや、だれだい?」
現れたのは、小さな麦わら帽子をかぶり、緑色のちゃんちゃんこを着た、一匹の子だぬきでした。
名前は「ぽん太」。
実はぽん太、いつも山の上からおばあさんのおむすびの匂いを嗅いでは、お腹を鳴らしていたのです。今日はどうしても我慢できなくなって、ついに山から下りてきてしまったのでした。
ぽん太は、おばあさんの前でお行儀よくちょこんと座ると、きらきらした目で、でも少し申し訳なさそうに、おむすびをじっと見つめました。
おばあさんは思わずクスッと笑いました。
「お腹が空いているんだね。お前さんも、おむすびが食べたいかい?」
そう言って、まだ湯気の立つ、できたてのおむすびをひとつ、ぽん太に差し出しました。
「ぽん!」と嬉しそうに声をあげたぽん太は、小さな両手でおむすびをしっかりと受け取りました。そして、はふはふと口を動かしながら、美味しそうに食べ始めました。
「美味しいかい? お米はね、あの向こうに見えるお山が、豊かな水と太陽をくれたから、こんなに美味しく育ったんだよ」
おばあさんが優しく語りかけると、ぽん太はもぐもぐしながら、夕日に照らされる山を見つめました。そして、何かをひらめいたように、おむすびを握ったまま、一回だけ、くるりと宙返りをしたのです。
――ぽんっ!
するとどうでしょう。ぽん太の不思議な魔法(あるいは、おむすびへの感謝の気持ち)によって、遠くの山が、まるで大きな大きなおむすびのように輝き始めたのです。山のてっぺんには白いお米の光が散らばり、真ん中には四角い海苔のような影が浮かび上がりました。
「おやまあ! 綺麗だねぇ。まるで『おむすび山』じゃないか」
おばあさんが目を細めて喜ぶと、ぽん太は自慢げに胸を張って、またおむすびをパクリ。
それからというもの、夕暮れ時になると、ぽん太はおばあさんの家にやってくるようになりました。おばあさんの特製おむすびをふたつ仲良く並んで食べるのが、二人の特別な時間です。
今でも、お天気の良い日の夕暮れどき、あの山が金色に輝いておむすびのように見えるのは、ぽん太がおばあさんへ「美味しいおむすびをありがとう」の魔法をかけているからなのかもしれません。

みかんさん、マガジン収録して下さりありがとうございますm(_ _)m🙏
西野光照さん、マガジン収録して下さりありがとうございます(^人^)💞
