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海をしらないカメの本当の旅


​昔々、それは「むかしむかし」という名のお堂がぽつんと建つ、山に囲まれた静かな里のことでした。この里の小さな池に、一匹の陸ガメが住んでいました。彼の名はカメ吉。生まれた時から、この池と里の景色しか知りません。

​ある日、カメ吉は里はずれの大きなクヌギの木のそばで、一枚の古びた看板を見つけました。

「海をしらないカメ」

そこに書かれた文字を見て、カメ吉は不思議に思いました。

「『海』? それはいったい何だろう?」

​カメ吉は、クヌギの木の下で、はるか遠くの山の向こうを眺めました。すると、彼の頭の中には、見たこともない、しかしとても広大で、深く、そして美しい場所の景色が浮かんでくるのでした。


​青い空、浮かぶ白い雲、そして寄せては返す白い波。その波の音は、里を流れる小川の音よりもずっとずっと大きく、そして心臓の鼓動のようにカメ吉の心に響きました。カメ吉は、空想の中の海を眺めながら、自分の中の何かが疼くのを感じました。それは、この小さな里では決して満たされない、何かへの渇望でした。

​「ぼくは、この『海』というものを、見てみたい」

カメ吉は決心しました。

​池の仲間たちは、彼の突然の決心に驚きました。

「海なんて、おとぎ話だよ。この里が一番安全さ」

と、老いたコイは言いました。

「山の向こうには、恐ろしい怪物が住んでいるっていう話だよ」

と、臆病なトノサマガエルは忠告しました。

​しかし、カメ吉の心は揺らぎませんでした。彼は、自分の小さな甲羅の中に、海への夢をしっかりと詰め込み、旅に出ることにしたのです。

​旅は、カメ吉にとって決して楽なものではありませんでした。

石ころだらけの道、険しい山道、そして見たこともない動物たち。カメ吉は何度もくじけそうになりましたが、その度に、クヌギの木の下で見た、あの青い海の空想が彼を励ましてくれました。

​「もっと、もっと先だ」

カメ吉は自分に言い聞かせ、一歩一歩、歩みを進めました。

​何日も、何週間も経ったある日、カメ吉はついに、空想の中で見た景色が、目の前に広がっていることに気づきました。

​それは、クヌギの木の下で彼が想像していたものよりも、ずっとずっと壮大で、美しいものでした。


​「これが…海…」

​カメ吉は、その場に立ち尽くし、ただただ涙を流しました。それは、悲しみの涙ではなく、この世の何ものにも代えがたい美しさへの、そして自分の旅がようやく報われたことへの、喜びの涙でした。

​彼は、里の仲間たちの言った通り、海はただの空想ではなかったことを知りました。そして、自分が本当に見たかったのは、この本物の海だったのだと、深く実感しました。

​カメ吉は、海辺に腰を下ろし、海を眺め続けました。彼は、もはや「海をしらないカメ」ではありません。彼は、「海を知るカメ」となり、そしてその海を、一生かけて愛し続けるカメとなったのです。

​彼の甲羅は、海を知ったことで、以前よりも少しだけ、青く、そして強く輝いているように見えました。


#3つのお題に空想のひらめきを
#片桐みかんさん企画

みかんさん、マガジン収録して下さりありがとうございます(^人^)💞

西野光照さん、マガジン収録して下さりありがとうございます(^人^)💞

山中サトシさん、マガジン収録して下さりありがとうございますm(_ _)m

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