月下誓約/薔薇の輪舞曲
その夜、世界は甘い薔薇の香りと、静寂に満ちていました。
遥か彼方の街の灯りは、まるで誰かがこぼした宝石のよう。湖の水面は、そのきらめきを優しく反射しています。
何より目を引くのは、夜空に浮かぶ、不自然なほどに大きな、けれど温かい黄金色の三日月。そして、その周りでダンスを踊る無数の星々。
その巨大な花のアーチの下に、二人の恋人が立っていました。
月の誓い、薔薇の願い
「ねえ、知ってる? この月の下で交わした約束は、永遠に解けない魔法になるんだって」
薄紫のドレスを纏った、花の髪飾りの少女は、潤んだ瞳で恋人を見上げました。彼女の声は、夜風よりも柔らかく、心に深く染み渡ります。
「ああ、知っているよ。だからこそ、僕は今日、ここへ君を連れてきたんだ」
青いシャツの青年は、愛おしげに彼女の頬を両手で包み込みました。
彼の手の温もりが、彼女の緊張を少しずつ解いていきます。
彼らが立っているのは、街から遠く離れた、知る人ぞ知る「月光の薔薇園」。
ここに咲く薔薇は、ただの薔薇ではありませんでした。月の光を浴びて育ち、恋人たちの思いを吸い込んで、真夜中にだけ淡い光を放つのです。
光の糸が、二人を繋ぐ
青年が彼女の瞳を真っ直ぐに見つめると、周囲の空気が変わった気がしました。
二人の足元に咲き誇る薔薇の花びらが、ひらひらと宙に舞い始めます。まるで、祝福のダンスのように。
「どんなに離れていても、どんなに時間が経っても、僕はこの夜を忘れない。君を、忘れない」
彼の言葉と同時に、空の三日月が一際強く輝きました。
その瞬間、二人の周りに漂う小さな光の粒たちが、見えない「心の糸」を編み上げ、二人を固く結びつけていくのを、彼女は確かに感じたのです。
「わたしも……。あなたへの思いは、どんな夜を超えても、必ずあなたのもとへ届くわ」
彼女の手が、彼の腰をそっと抱きしめました。
終わらない夜
月の光は二人を優しく包み込み、まるでこの時間が永遠に続くかのような、奇跡のような瞬間でした。
街の明かりがどんなに遠くても、夜がどんなに深くても、二人には関係ありませんでした。
なぜなら、彼らの足元には月の光で輝く薔薇があり、頭上には誓いの月があり、そして何より、彼らの心には、消えることのない愛の光が、この「星降る夜」に、確かに生まれたのですから。
物語は、ここで終わりではありません。
二人の物語は、この「終わらない夜」から、今、始まったばかりなのです。

幻夜のロンド
弥生の夜に 隠された
二人の時間は 砂時計
こぼれ落ちる 星の塵は
刹那の命の 灯火
あなたに触れた その指が
温かさを 知る前に
夜風はバラを 散らしてく
残酷なほど 美しく
見つめ合う瞳に 映るのは
永遠(とわ)の誓いか 幻か
崩れゆく 世界の中で
確かなのは この鼓動だけ
「さよなら」は 言わないで
時の海が 二人を裂いても
私はあなたを 忘れない
この星空が 覚えているから
またいつか どこかの夜で
バラの香りに 導かれ
二つの影が 重なるまで
幻夜のロンドは 鳴り止まない
