短編小説w「あたしのポエム」
あなたの眼差しは柔らかな風のよう
長いまつ毛と白い肌
春の陽だまりのような暖かい空気
さり気なく私を支えてくれるあなた
頼りない私を静かに導いてくれる
どうして?
どうしてあなたはそんなに優しいの?
そんなに優しくされたら私はきっと
この甘い誘惑に勝てなくなる
※
「アオイちゃん!」
夢中でキーボード打っていたら聞き覚えのある声に私は顔を上げた。
「マリちゃん!」
と言って私は、とっさに開いていたパソコンを閉じかけたが、目の前にいる相手を見てその手を止めた。
「レポート?」
マリちゃんは、ニコニコしながら私に聞いた。
う、うんと曖昧にうなづいて私はテーブルの紅茶を一口飲んだ。
「あたしもね、レポート出さないといけないんだけど、めんどくさいよね、19世紀のフランス文学って言われてもよくわかんないしね、まだ日本の文学作品のほうが面白いのが多い気がするんだよね、芥川龍之介とか太宰治とか安部公房とか三島由紀夫とか、小6の頃なんかはメチャクチャ読んだけど、、」
一息で悪気なく喋り続けるマリちゃんに私は、手を差し出して「まあ座ったら」って促した。
マリちゃんは、大学の同級生だ。高校が同じだったこともあって仲良くなった。大学内では、私のあまり多くない友達の一人だ。
マリちゃんは、高校2年のときに海外から帰国してきたいわゆる帰国子女だ。高校の頃はクラスが違ったこともあって付き合いはなかったけど、高校ではマリちゃんはその変わった雰囲気でかなり目立っていた。
でも、マリちゃんは帰国子女ということを鼻にかけることもなく、どちらかというと”天然”のキャラで目立っていた。日本語が少しカタコトだったこともそのキャラクターと面白さに拍車をかけていたみたい。
「マリちゃんはどうしてこんなところに?」
ここは、私が創作活動をするのに時々利用している、昭和の雰囲気を残したレトロな喫茶店で、落ち着いて静かなところが気に入ってる。
大学からもかなり離れているし、実際大学の友達とここで会ったことは今までなかった。
「アフリカ人の友達の友達がね、部屋を探すのに不動産屋に行きたいから助けてほしいって言われて、あ、直接言われたのは友達からだけど、今いってきたところ、狭い世界だから、何かあるとすぐに繋がりが出来ちゃうんだよね、危ないってよく言われるんだけど、基本上流階級の人だから大丈夫なんだけどね、で、のどが渇いちゃってお茶でもと思っていたら「白いバラ」っていう看板が見えて、あ、ここにしようって」
マリちゃんは言った。そして周りを見渡して「いい雰囲気だね」と付け足した。
「レトロな感じで、私も気に入ってるの」と私も言った。
※
「でも偶然だね」
注文したカプチーノを飲みながらマリちゃんは楽しそうに言った。
なんのレポート?ってマリちゃんが聞くので、私は
「実はレポートじゃなくて、趣味の創作、、」
と言った。
「えーすごいね!」マリちゃんは目を輝かせて言うので、私は嬉しい気持ちになった。私はマリちゃんのこういうとこが好き。
マリちゃんには以前、私が小説や詩なんかを創作しているという話をしたことがあった。マリちゃんには、人を素直にさせる不思議な雰囲気があって、なんでも話してしまう。マリちゃん自身も、正直で素直に何でも話してくれるから。作品を見せたこともあるんだけど、マリちゃんは私が書いたものをすごく褒めてくれる。素直な人に褒めてもらえるのはシンプルに嬉しい。
「前に見せてもらったのもすごい良かったよね、アオイちゃん将来は作家?小説家? そっかだから文学部なのか」
作家になる夢は、実は誰にも話したことがない。だからマリちゃんの言葉は嬉しい反面、ちょっとドキッとした。
マリちゃんはすごく褒めてくれるけど、私は自信がない。
小説サイトにも定期的に投稿もしているけど、上手く書けているのか実際にはよくわからない。好きで書いているだけなら、それはただの趣味だし、私が書くものは果たして趣味以上のものなのかいつも葛藤がある。そうこうしているうちに、いつの間にか大学を卒業して当たり障りのない会社に就職して、平凡な会社員として過ごすうちに結婚して仕事をやめて、、。
「あのあとね、あのあとってアオイちゃんに詩を見せてもらったあとね、あたしもアオイちゃんの真似して詩を書いてみたんだよね、でも全然だめで、コッソリ書いてたのに弟に見つかって大爆笑されちゃって、、詩っていうのが何なのかそもそもよくわかってないんだよね、アオイちゃんみたいにカッコいい詩が書きたかったんだけど、弟なんか今でも思い出して爆笑しているくらいだからよっぽどだよね、、」
マリちゃんは、ニコニコしながら話しているけど、私は逆にマリちゃんを羨ましいと思う。だってマリちゃんには邪心がないように見えるから。私は、いつもよく見せようと邪心だらけ。だから書くものもどこか気取っていてピンとこないものになってしまう。だから、書いたものを誰かに見せるのはとても恥ずかしい。こんなに書くことが好きなのに、人に見せるのは恥ずかしいってやっぱり私は自信がないんだと思う。
「でも、そんなに笑えるなら逆に気になるよ、その詩ってもうないの?」
ちょっと気になって私はマリちゃんに聞いてみた。
「あ、どうかな、ノートに書いてたんだけど、弟に大爆笑されたから写真撮って、それからはスマホに書こうと思ってて、、」
マリちゃんはスマートフォンを出して操作し始めた。
あ、これ、写真だからちょっと見づらいけど、とマリちゃんが私にスマホを渡してくれる。
ノートに少し角ばった特徴的な文字が並んでいる。
※
あなたは仏像みたいだよね
あなたは大きな口を開けている
まるでジムのインストラクター
それは仏像
あなたを愛しています
バラの香りが漂う紳士
無表情なあなたの顔
本当に顔は仏像
どちらかというと大仏
奈良の名物
あなたは生き仏
即身成仏したいの?
あたしの気持ちははっきりしてる
ここは払わせて
je t'aime(ジュテーム)
※
「プッ! ハハハハハハ!」
私は堪らず吹き出した。さすがマリちゃん、面白すぎ。
なんとなく続きがあるような気がして、スマホの画面を横にスクロールしてみると、お腹を両手で押さえて大爆笑している小学生くらいの男の子の写真が出てきた。私は慌てて写真を戻したけど、きっとマリちゃんの弟だ。
それっぽくフランス語も入れてみたんだけど、なんか変なんだよね、とマリちゃんは面白そうに言った。
これは逆に才能なのでは、と私は思った。
「ケンタなんか呼吸困難になってたし、日本語のニュアンスってホント難しいよ、だからアオイちゃんすごいよね」
「いや、これはこれで面白いよ、マリちゃん」
でも即身成仏なんてよく知ってたね、と私が聞くと、
「同じサークルの仏像好きのコに教えてもらったの、食べ物を食べないで餓死するっていう修行だって、怖すぎだよね」
マリちゃんは言ってカプチーノを一口飲んだ。
「でも、マリちゃん、ありがとう、なんか元気でた!」
私はマリちゃんに言った。
そっかあ、よかった、とマリちゃんはニコニコしながら言って、スマホの時計を見た。
「あ、あたしこのあとジムがあるんだった、行かなきゃ」
アオイちゃん、ごめんね、創作できたらまた見せてね、と言ってマリちゃんは席を立った。
「ここは払わせて」
と私はマリちゃんに言った。だってこんなに元気もらったんだから。
「ありがとう」
と、マリちゃんは笑顔で言って手を振りながらバタバタと店の出口の方へ行ってしまった。
マリちゃん、ありがとう。
私は「ここは払わせて」と言った自分にしばらくニヤニヤしながら、またパソコンに向かってキーボードを打ち始めた。
終わり
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