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第二章 東北地方一周旅 四日目 鶴岡市・秋田市・弘前市編

鶴岡にて朝を迎えた。この地を訪れたのは、羽黒山へ向かうためだ。羽黒山は千年以上の歴史を誇る修験道の山である。国宝に指定されている五重塔は歴史の教科書にも登場するほど有名で、それを見たいがために今回は鶴岡に宿泊した。

山頂の神社へ至る道中には長い石段が続く。登山用の服装に着替え、羽黒山行きのバスに乗るべく駅へ向かった。早朝の駅に人影はまばらで、羽黒山を目指す者は他に見当たらなかった。バスは市街地を抜け、羽黒山方面へとひた走る。車窓の外では、収穫を待つ稲穂が重そうに頭を垂れていた。「この稲たちは雪解け水で育ったから、きっと美味しいのだろうな」と物思いに耽っているうちに、バスは羽黒山随神門の停留所に到着した。

入口の鳥居

入り口の鳥居をくぐると、その先には巨木が連なっていた。修験道の山らしい厳かな空気に身が引き締まる。バックパックのベルトを締め直し、山頂を目指して歩き出した。足元は石段が整備されており歩きやすいが、朝露を含んで滑りやすくなっている。周囲は深い山道のため、クマよけの鈴は必需品だ。「たとえクマに襲われて旅の途中で命を落としても、悔いはない」――『奥の細道』の冒頭にそんな一節があっただろうか。

道中の写真
クマが横から出てきたら、おとなしく食べられるしかない

そんなことを考えていると、少し開けた場所に国宝・五重塔が鎮座していた。長年、雨風や雪にさらされてきたその姿は、表面の色が程よく抜け、削れた質感に独特の風合いがある。個人的に非常に好みの色合いだ。その雄姿を写真に収めながら、いつか雪に包まれた姿も見てみたいと願いつつ、五重塔を後にした。

国宝の五重塔

さらに十分ほど階段を登り続けると、急に霧雨が降り出した。木々に囲まれた中での霧雨は非常に趣深く、まるでジブリ映画『もののけ姫』の世界に迷い込んだかのようだ。しばし時間を忘れて景色を眺めながら、なぜここが修験の地として選ばれたのかを身を以て実感した。

道中その2

濡れた足元に注意しながら歩くこと二十分、ついに山頂の鳥居が見えてきた。霧に包まれた山頂付近は、いっそう荘厳な雰囲気を漂わせている。

山頂の本殿
霧がかかっており、非常に神秘的である

早速お参りを済ませ、御朱印をいただいた。ここの御朱印は非常に独特で、見開き二ページを使って豪快に書き上げられる。

下山後、鶴岡駅に戻ろうとバス停に向かったが、ここで問題が発生した。なんと二分前にバスが出発したばかりで、次の便は二時間後だという。「わずか二分の差か……」と運のなさに肩を落としたが、仕たがないので駅まで歩くことにした。道中、先ほどの稲穂が風に擦れる音を聞きながら、秋の訪れを感じて歩く。一人旅ならではの自由な選択に、不思議な満足感を覚えた。

駅までの道中

一時間ほど歩いてようやく駅に到着した。秋田行きの電車まで三十分ほど時間があったため、駅内のコンビニで山形県産米の「JAのおにぎり」を二つ購入した。少し疲れた体に、お米のエネルギーが染み渡る。

少し早い昼食

秋田行きの電車に揺られながら、日本有数の米どころ・庄内平野を通り抜ける。左右に広がる金色に輝く大地は、都会では決して見ることのできない絶景だ。遠くに鳥海山を望み、思わず車内からシャッターを切った。

車窓からの鳥海山

東北の豊かな自然に感動しているうちに、列車は秋田県へと入った。秋田駅に近づくにつれ乗客が増え、都会の活気が感じられるようになる。改札口では大きな秋田犬のぬいぐるみが出迎えてくれた。犬好きの私にはたまらない演出だ。

秋田駅の秋田犬

今回の秋田訪問の目的は、佐竹氏の居城・久保田城を訪れることだ。佐竹氏は鎌倉時代から続く名門で、長らく常陸国(茨城県)を治めていたが、関ヶ原の戦いでの日和見を徳川家康に咎められ、この地へ転封された歴史を持つ。ちなみに、常陸国から移る際に領内の美人を連れてきたというエピソードがあり、それが現代の「秋田美人」の由来だという説もある。確かに、東北は美人の割合が高いように感じられた。

城内を散策していると、散歩中の本物の秋田犬に出会った。愛くるしい姿に抱きしめたい衝動に駆られたが、そこはぐっと我慢した。復元された御隅櫓(おすみやぐら)の内部には、佐竹氏に関する展示があった。個人的には、一代で常陸国を統一した猛将・佐竹義重が好みだ。早くから豊臣秀吉と通じるなど、本領安堵を勝ち取る政治力も持ち合わせていた彼が、息子の代での転封をどのような思いで見つめていたのだろうか。そんな歴史のロマンに浸りながら展示を眺めた。

久保田城の城門

久保田城を後にし、弘前行きの電車に乗車した。他にも行きたい場所はあったが、交通の便と予算の都合上、今回は久保田城のみに絞った。いつか秋田の温泉巡りをすることを心に誓い、秋田を去る。

山中を走り抜けること二時間、弘前に到着した。改札口では大きなマスコットに出迎えられ、まずは本日の宿へ向かう。チェックインを済ませて荷物を下ろすと、急に空腹を覚えた。弘前には煮干し出汁のラーメンがあると聞き、今夜の食事はそれしかないと決めていた。

弘前駅のマスコットキャラ

早速店に向かい、券売機で煮干しラーメンの食券を購入した。店内は地元の人々で賑わっており、この味が青森に根付いていることを実感する。運ばれてきたスープは茶色く、濃厚な魚介の香りが立ち上っていた。一口啜ると、初めて体験する味わいに衝撃を受けた。これまでの魚介出汁とは一線を画す風味で、それでいて後味はさっぱりとしている。細麺との相性も抜群だ。空腹に任せて一気に平らげると、丼はすぐに空になった。

夕食の煮干しラーメン

満ち足りた気分で、散歩がてら遠回りして宿へ帰る。見知らぬ土地を歩くのは、まるで冒険をしているようで心が躍る。宿に戻ると、備え付けのサウナで一日の疲れを流し、そのまま吸い込まれるようにベッドで眠りについた。
次回 五日目編


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