【創作大賞2024 恋愛小説部門】 思い出の恋を、思い出す時⑥(全9話)
あまり品が良くない男性たちでしたが、全員、自営業の二代目や三代目。5、6歳ほど年上の彼らは、世間知があって頼もしそうに見えました。その時は。
未歩子の隣に座ったのは、不動産会社二代目(BMW所有)と、ガソリンスタンド店三代目(シルビア所有)でした。彼らは、クルーザーに乗って釣りをした話、夜の街で豪遊した話などを披露し始めます。
二代目BMWは、その頃活躍していた貴乃花に似ていました。三代目シルビアは、サル顔。当時、月曜夜9時放送のクリーニング屋の家族のドラマに夢中だった未歩子の好みは、福山雅治でした。
「今日はごちそうさまでした」
小料理屋を出た未歩子はにっこりとお礼を言い、帰宅します。
その合コン後、未歩子はBMWとシルビアの2人に取り合いされることになります。個人情報保護の意識などない、時代性と地域柄。おそらく未歩子の友人の誰かが、聞かれるままに教えてしまったのでしょう。
そういうの、困るんだけど。口では言ってみるものの、内心は甘やかな気持ちでいっぱい。
持ち始めたばかりのPHSが鳴り、それぞれの車が迎えにきます。夜の車内で抱きしめられ、熱い吐息を感じると、これまで見てきたドラマのシーンがいくつも頭の中を駆け巡ります。その時にはもう、枡渕さんのことなど頭の中からきれいさっぱり、消えていました。
若いってバカ。
未歩子はリビングに掃除機をかけながらつぶやきます。
サイドボードの上には、新聞紙ほどの大きさのフォトフレームがあります。ウエディングドレスの自分は、輝くような笑みを返してくるだけ。
夫は、紫や緑のスーツを着た仲間たちに囲まれてキメ顔です。貴花田似の顔と体は、今と大きさは変わりませんが、さすがに引き締まって見えます。
フォトフレームは、その仲間たちが結婚祝いにと、贈ってくれたものでした。クマやウサギのイラストが可愛らしい、ファンシーなデザイン。部屋のインテリアに合わないし、30年近く前のメイクをした自分の顔などもう見たくないので、いい加減片付けたい。
けれど夫の「連れ」たちとは、今でも家族ぐるみの付き合いが続いています。互いの子どもが小さい頃は毎週のようにバーベキューをしていました。フォトフレームには、その賑やかな様子も収まっています。
写真には、ガソリンスタンド三代目の顔も。今もしょっちゅう、家呑みと称して遊びにきます。夫と一緒にだらしなく酔いつぶれて寝ている姿を見ると「どっちと結婚しても同じだったかもしれない」なんて、考えてしまう未歩子。
そんな時はつい、歴代の恋人たちを思い浮かべてみたり。
就職してすぐできた恋人は、現在ネットワークビジネスをしているとかで、よくない噂ばかり聞く。
短大時代のボーイフレンドは海外を放浪していると聞いたのが最後で、行方不明。
高校の時憧れてお付き合いした先輩とは、子どもの中学の体育祭で再会したけれど、サッカーボールを追うチーターのようだった姿が、ぱつんぱつんのポロシャツを着たカバになっていた。
枡渕さん。枡渕融さん。
過去の恋人たちの中で、今まで彼のことだけは、姿を見かけることも噂を聞くこともありませんでした。
もしかしたら、娘の就職のことがなければ思い出すことはなかったかもしれない。
聞いた時は、ドキリとしつつも「下の名前は…えっと、サトルだったかミノルだったか」と少し考えたくらいです。
三ヶ月ほどのお付き合いだったんだもの。
言い訳のようにつぶやく未歩この胸には、甘いような苦いような、もう久しく感じていなかった気持ちが広がっています。
散らかったマンガ雑誌を拾い、スナック菓子の空袋を拾い、ソファの隙間から脱ぎっぱなしの靴下を引っ張り出す。そんな動作を挟みながらの掃除機がけは、なかなか終わりません。
だいたいこの家のリビングは広すぎる。掃除機のヘッドをぐいぐい動かしながら、未歩子は唇を尖らせます。
リビングの広さは、家を建てる時に夫が大型テレビを置きたがったせい。ご自慢の65型テレビは、もちろん自慢するためにあるので来客がしょっちゅう訪れます。掃き出し窓の外にはバーベキューテラス、カーポートはアルファードが停まっています。
ゴルフ仲間に麻雀仲間。そして「連れ」たちとの集会。夫はとにかく群れたがる。訪れた客をもてなし、酒を飲んだ彼らを家まで送り届けるのは未歩子の役目です。
「男は、付き合いも仕事のうちなんよ。自営業の家はそういうもんじゃから」
嫁いできてすぐの頃、隣に住む義母からそう言われました。
夫の実家の敷地内にあった離れを建て直した、建坪40坪の家。広々としたユーティリティーがあるこの家で、専業主婦をしている自分はかなり恵まれた立場であると、ちゃんと自覚している未歩子です。
だからこそ、愚痴を言う相手がいない。
会社勤めなら、不満を共有し合える同僚がいるでしょう。人気のない給湯室、仕事終わりの居酒屋などで憂さを晴らすこともできるでしょう。
専業主婦に同僚はいません。ならば地元にいる女友だちと、と思いますが、これがなかなか難しい。
不平不満や悩みというものは、「わかるわぁ」と言い合える間柄でないと吐露しづらいもの。恵まれた立場であると自覚している未歩子、友人たちとはかろうじてSNSで繋がっていますが、どうやら気軽な集まりには呼んでもらえていないらしい。(続く)
#恋愛小説部門
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①https://note.com/hukucat2929/n/n23d0c02cc9f7
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⑤https://note.com/hukucat2929/n/nf01e9d4e1f5f
⑦https://note.com/hukucat2929/n/nbb5a15d41703
⑧https://note.com/hukucat2929/n/nb5eef6d6a4ce
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