コラム63 医療面接は技術です! ~あと何か聞きたいことはないですか?~
1. 医療面接(問診)は技術です!

みなさん、お医者さんにかかった時に、言いたかったことが十分言えなかった…という経験はありますか?
一方的に質問だけされて、すぐ診察になって、すごく短い時間で終わってしまった…とか。
逆もあります。「え?こんなことまで聞かれるの?」ということを聞かれて、最初は違和感を感じたけど、最終的には自分でも思ってもみなかったことが「症状」としてあることを自覚させられる…なんてことも。
うまく誘導してもらえて、話したいことや不安に思っていることを全部伝えられた。なんとなくそれだけでほっとする。
そんな経験をしたことがある人もいるかもしれません。
Peterson MC, Holbrook JH, Von Hales D et al. Contributions of the history, physical examination, and laboratory investigation in making medical diagnoses. West J Med. 1992; 156: 163-5.
かなり昔の論文ではあるのですが、いい問診・診察ができれば正しい診断にたどり着く割合は8~9割と非常に高くなるのに比べ、逆に悪い問診では十分に患者情報を得られず、ほとんど正しい診断にたどり着けないという報告があります。
医師にとっていかに「問診」「診察」が大事であるかを示しています。
特に「問診」ですが、実はこれは大部分が技術です。
一般の方や、医学生でも「問診」をきちんと技術としてとらえておらず、いわゆる「コミュ力が高い」とか、持って生まれた性格によるものが大きいと思っている人もいるようですが、まったくもって違います。
問診の能力のほとんどは、学習とトレーニングによって伸ばすものなのです。
2. OSCEという試験
医者になるためには試験があります。皆さんご存じ、医師国家試験ですね。
でもこれは単なるペーパーテストです。
車の運転免許をとるには、学科試験だけじゃダメですよね?学科試験受かっただけで路上運転したら、事故多発ですよ。
じゃあ医者も最低限実技試験が必要です。
ということで、医学部では卒業前にOSCE (Objective Structured Clinical Examination:客観的臨床能力試験)という実技の試験が行われるのです。

ちなみに細かいことを言うと、OSCEは医学部6年のうち臨床実習が始まる前の4年生で受験するpre-CC OSCEと卒業前のpost-CC OSCEの2種類が存在していますが、きちんと国によって公的化されているのはpre-CC OSCEだけで、まだpost-CC OSCEは公的化されていません。
個人的には、post-CC OSCEの方が実際的に「問診診察の能力を評価する」という意味では重要だと思うんですけどね…(ボソッ)。
きちんとした技術の担保がない医師をペーパーテストだけで世に出すのはとても危険なことです。
この危険性は厚生労働省の「医道審議会 医師分科会報告書」(令和元年)でも、「医学生の臨床実習が見学中心で実践性に乏しく、十分な技術習得が困難である。OSCEやCBTの導入にもかかわらず、手技を行う自信が持てない医学生や研修医が多い」とされていて、医学生~研修医の技術不足が実臨床での医療事故につながるリスクが懸念されています。
僕は以前VRでOSCEの練習ができるソフトを製作し、特許を申請して教育に活用しています。

広島大学医学部ではなんと、このVR OSCEを使って医学生に1学年一斉授業も行っています。これは世界初のことでして、広島大学医学部は世界最先端のVR授業をしています。
3. どんな技術があるの?
話がそれて宣伝になっちゃいましたね。
医者にとって問診・診察がいかに大事かっていうお話で、そのトレーニングをしなくちゃいけないってことですね。
じゃあ、実際に問診の技術って具体的にどんなものなんでしょうか?
問診には導入からクロージングまで、会話の仕方だけでなく、視線の動かし方、間の取り方に至るまで細かい技術がたーくさんあります。
その中でも、一般的に問診における会話の技術でよく強調されるのがオープンクエスチョンを使おうというものです。
簡単に言うと、オープンクエスチョンというのは「はい」か「いいえ」で答えられない質問で、クローズドクエスチョンというのは「はい」か「いいえ」で答えられる質問ということになります。
例えば、「今日はどうされましたか?」とふわっと尋ねるのはオープンクエスチョンで、熱があって受診した患者さんに「頭痛はありますか?」と聞くのはクローズドクエスチョンです。
オープンクエスチョンで聞いた方が患者さんはたくさんの情報を伝えやすいですから、優れているということになります。
…と簡単に世の中割り切れるかというとそうではありません。
例えば「家族に同じような症状の人はいますか?」と聞く質問は「はい」「いいえ」で答えられますが、「はい」だけ答えてその後何も言わない人なんていませんよね。
普通は「はい。実は両親が同じように…」のように続くはず。その場合これはオープンクエスチョンなの?クローズドクエスチョンなの?と不思議に思うかもしれません(個人的にはこれはセミオープンクエスチョンと呼んでいます)。
まあそういう細かいツッコミは置いといて、慣れた医師ほどきちんとこれを意識して使い分けます。オープンとクローズ、どちらも駆使するのが大事なのです。

なかなかこのオープンクエスチョンをどのくらいの割合で行うのか…というデータをしっかり示した論文はないのですが、僕が現在研究している結果からは、問診の上手な先生は最初にオープンクエスチョンがまとまって行われる傾向にあり、その後クローズドクエスチョンで情報をまとめていきます。
トータルとしては3-4割がオープンクエスチョンになるようです。
逆に、まだ全然トレーニングされていない医学生に問診をさせると、クローズドクエスチョンに終始してしまったり、途中で思い出したようにオープンクエスチョンが入ったりと、とてもちぐはぐな問診になってしまいます。
きちんとトレーニングされた医師(あえて“ベテラン医師”とは言いません)ほど、技術を駆使して、より多くの情報を患者さんから聞き出すことができるのです。
僕は現在医学生の問診トレーニングを行う研究をしており、データ解析まで終了しています。いつかその詳細な結果をこのnoteで論文紹介として書くことができるかと思います。
4. “質問の仕方”でこんなに違う!
なんて言っても、「ほんとかよー?」って思う人もいるかもしれません。
分かりやすく例を出しましょう
お腹が痛くて吐いている患者さんが受診したとします。
いつからどんな風に症状が出ているかを確認して、病気の原因(鑑別診断)をいろいろ考えるために、胃腸炎であれば同居家族が同じ症状を呈していないかとか、他にも既往歴や家族歴を効率よく聞いて行かなくてはなりません。
これが慣れてない医師の場合は、
医者「えっと、周囲で同じような症状の人はいますか?」
患者「周囲…?会社とかですか?いないです」
医者「いえ、家族で…」
患者「そういえば姉が先週風邪を引いたって言ってました」
医者「あ、そうなんですね。症状は同じような感じだったんですか?」
患者「いえ、一緒に住んでないので、詳しくは分からないです」
医者「あ、そうですか…(同居はしてないんかい!)」
みたいな、すれ違いコントみたいな会話が冗談ではなくあったりします。
では慣れた医師の場合はどうなるか?
医者「そうですね…。ちょっと家族構成をお伺いしてもいいですか?」
患者「両親と、弟がいます」
医者「その中で、ちょっと似たように吐いたとか、お腹を痛がった方はいますか?」
患者「そういえば弟が先週、吐いてはないですけど、下痢をしてました」
医者「弟さんはおいくつで…?」
…といった具合に、的確にポイントをついて質問していくことで、無駄を防ぎ有用な情報を得ることができます。
会話には順序、聞き方がとても大事ということですね。
でも、これは画一的にみんな同じと言うわけではなく、患者さんの状態や主訴、考慮する疾患に応じて変えていく必要があるわけで(そうじゃなければ機械に問診を任せればいいので)、まだまだAIよりも人間のほうが優れている部分が多いと思うわけです。
5. 「あと何か聞きたいことはないですか?」
このような細やかな問診技術の中で、一番おススメしたい言葉があります。
それがこの「あと何か聞きたいことはないですか?」です。
さっきの上手な人と下手な人の問診を比べた図で、上手な人は最後に1つだけオープンクエスチョンをしていましたね。
実は、『問診の最後にもう一度オープンクエスチョンをして、患者さんがふと思い出したこと、言いたいのに言えなかったことを聞き取りましょう』…と問診の授業で教わります。
その時のセリフで、
「あと何か言い忘れたことはないですか?」と聞きましょうと習うのです。
医学生にトレーニングとして問診のロールプレイ(僕が患者さん役)をすると、みんな焦りながら必死に習ったことを思い出して問診しようとします。
すると突然
「何か言い残すことはないですか?」
とか言われて、
(オレは今から死ぬんかい!!)と内心ツッコミながらめっちゃ吹き出しそうになるのをこらえたりすることがあります。
「言い忘れたことないですか」
「他に何か思い出したこととか、気になることありますか?」
いろいろ言い方はあると思います。
そこで、「あと何か聞きたいことはないですか?」と言ってあげることで、患者さん側はより「あ、何でも言っていいんだ…」と感じるのです。
僕が外来でこのセリフを言うと、「大丈夫です」とおっしゃる患者さん(親御さん)が多いですが、意外なほど様々な種類の不安を訴えられ、それによって診断が深まったり新たな疾患が見つかったりということがあります。
「言いたいこと」を聞くかわりに、「聞きたいこと」を聞くだけなのに。
不思議なものです。
(参考)
Peterson MC, Holbrook JH, Von Hales D et al. Contributions of the history, physical examination, and laboratory investigation in making medical diagnoses. West J Med. 1992; 156: 163-5.
