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コラム84 子どもに全身麻酔って大丈夫なんですか!? その1

「これは手術で治さないといけないですね」
外来で初めて会った患者さん(患児の親御さん)に、初対面でそう言わなければならないことが多いのが小児外科です。
そんな時に、「こんな小さい子に手術して大丈夫なんですか!?」と言われることよりも
圧倒的に
「こんな小さい子に全身麻酔なんて大丈夫なんですか!?」と言われることの方が多いのです。


1. その昔、子どもの全身麻酔は大変だった

世の中には、産まれてすぐ手術をしないと亡くなってしまう赤ちゃんが多数産まれてきます。
比較的多いものでは、肛門がなくて産まれてくる鎖肛の赤ちゃんや、その他に十二指腸や食道が閉鎖している赤ちゃんもいます。
いずれもミルクを飲んでウンチをするという消化ができませんから、何もしないと程なくして亡くなってしまいます。
その他にも、お腹の腸が脱出して産まれてきてしまう、腹壁破裂や臍帯ヘルニアという病気もありますし、横隔膜ヘルニアなども手術をしないと助けることはできません。

手術をするためには麻酔をする必要があります。
麻酔には大きく分けて局所麻酔と全身麻酔がありますが、小児では動くとダメですから全員全身麻酔ですね。
小児で手術となると、ほぼ100%全身麻酔なわけです。
麻酔科には常に感謝ですね。

手術において何のために麻酔をするのか?
これ、意外と知られていませんが、麻酔には3つの意味があります。
①眠らせる(鎮静して意識を失くす)
②痛みを感じなくさせる(鎮痛)
③余計な反応・反射を抑制する
それぞれに別な薬剤を使いますから、麻酔科は多くの薬剤の知識を持って全身の管理をしてくれているのです。

子どもの麻酔は大変…だけど、さっき挙げたような赤ちゃんたちは、生後すぐのうちに手術をしないと亡くなってしまう。
だから頑張って麻酔をして手術をしていました。
でも、僕が生まれた頃で5人に1人、医者になった頃で10人に1人、そんな赤ちゃんは亡くなっていました。


新生児手術の死亡率の推移

もちろん、麻酔のせいで亡くなる子は非常に少なかったでしょう。
手術自体や術後の管理というものが改善することにより、この死亡率はどんどん改善してきたのですから。
でも、新生児(生後30日以内)で手術したら10人に1人が亡くなる!なんて状況では「待機できる手術はなるべく待機して、全身麻酔はもう少し体が大きくなってからにしよう」となるのは当たり前です。

僕が医者になった頃は、様々な病院で差異はあるものの、麻酔科との話し合いにより「待機できる手術は待って、なるべく3~6か月以上にならないと全身麻酔はしない」という取り決めになっていることが多かったのです。

今でもある程度そういう取り決めが残っている病院はあるかもしれません。

2. 技術的に何が難しいのか?

こういう「赤ちゃんへの麻酔が大丈夫か」という漠然としたテーマを論じる時には、
・技術的にどう困難なのか

・薬剤投与などが本当に安全なのか
という問題は分けて考える必要があります。別問題ですからね。
まずは、なぜ赤ちゃんへの全身麻酔が難しいのかをお話しましょう。

僕は本職の麻酔科医ではありませんので、完璧な解説とは言えないかもしれませんが、赤ちゃんの麻酔で苦労するあるあるを3つほどあげてみましょう。

①各種ルートの確保が大変

これはものすごく大変です。
麻酔をかけるには薬剤を投与するための点滴(静脈ルート)の確保は必須ですし、ちょっと大きい手術になると中心静脈への点滴や、術中に血圧のモニタリングや採血チェックを容易にするための動脈ルートの確保が必要です。
いずれも成人では比較的簡単にスッ、スッっと入れて、手術室入室から数十分もすれば準備が完了したりするのですが…。
メチャクチャ点滴が難しい赤ちゃんでは、1時間以上点滴とれなくて、医師4人がかりで悪戦苦闘する…なんてこともあります。
赤ちゃんはすでに吸入麻酔といってガスの麻酔で寝ていますから、泣き叫ぶ中頑張るなんてことはないのですが、結構大変なのです。
意外なことに新生児では点滴は結構楽なのですが、生後半年くらいしてきて脂肪がついてむっちむちになっている赤ちゃんから点滴を取るのはなかなかにハードなミッションになります。


むっちむち

また、点滴だけじゃなくて術中におしっこの量をきちんと見ておく必要があるので、多くの手術で尿道からカテーテルを入れて導尿しておくのですが、これも小さな赤ちゃんでは難しいことがあります。
新生児では尿道が狭くて、一般的に使用される尿道留置カテーテルの一番細いサイズ(6Fr)でも入らず、別なチューブを用途外使用しなくてはならないこともありますし、女児では全く尿道口がわからず大変なこともしばしばです。
他科の手術をする際に、導尿のために小児外科医が呼ばれて挿入しにいく…なんてこともありました。

②気道の構造が違う

小児の治療の世界では、「赤ちゃんは大人のミニチュアではない」という言葉がよく使われます。
大人のサイズをそのまま小さくしても、子どもには当てはまらない。
これは麻酔をかける時にもいえます。
赤ちゃんって首が短くて、頭が大きいですよね。
そのような形の違いが、喉のあたりの形の違いに大きく関わってきます。


様々な形の喉頭鏡

全身麻酔で一番大事なのは、「気道の確保」です。息をしなくなってしまうほどの深い麻酔になると、人工呼吸をする必要があり、そのために気管にチューブを挿入します。
お口を大きく開けて(喉頭展開)、気管の入り口を見つけてチューブを入れる。
そのために使うのが喉頭鏡ですが、上にあるように成人から小児で様々な形があります。

特に新生児のような小さな赤ちゃんでは、通常の成人で使うような「マッキントッシュ型」という曲がった喉頭鏡を使っても、気管の入り口はきれいに見えません。
「ブレード型」という真っすぐなタイプで喉頭蓋ごと持ち上げるのですが、これが慣れてないと難しくなります。
また、チューブを入れることができても、小児は成人と違って気管が柔らかい、一番狭い部分が違うなど、多くの違いがありますから、それらを熟知していないと小児の麻酔は難しいのです。

③気道攣縮(スパスム)のリスク

ぜんそくになったことのある人は分かるかもしれませんが、気道が狭くなり、呼吸のたびにヒューヒューと音を立てながら息をするのはとても大変で、怖いものです。
気管というのはアレルギー反応などの刺激により炎症を起こすと、組織が膨らみつつキュっと細くなってしまいます。


成人と小児の気管の違い

気管の太さはだいたいその人の小指と同じくらいでして、成人ではそこそこの太さがあるのですが、赤ちゃんでは激細です。
挿管に使うチューブの太さでいうと、成人では8mmくらいですが、赤ちゃんでは3mmです。
そのような太さの違いは、気道が反応で狭くなった時により影響が強く出ます。元々気管が細い小児では、気管の粘膜や組織が膨らみつつ狭くなると、ほとんど窒息状態になってしまうのです。
風邪をひいているような人ではこのような気管の反応が起こりやすく、更に痰などの分泌物なども多くなってくるのでとても大変なことになります。
そして、小児はよく風邪をひいている…。

小児外科医であれば、全身麻酔での術後、麻酔の覚めがけに患児の気道が狭くなり、一生懸命麻酔科が対処するのを何度も見たことがあるハズです。

小児の麻酔というのはそれだけ技術を要するし、世の麻酔科の先生方はとても頑張って小児の麻酔をかけてくださっているのです。

3. 本当に小児の全身麻酔は危険か?

その昔、「赤ちゃんへの全身麻酔は危険かもしれない」と危惧されていました。
主によく使われるガスの吸入麻酔の影響に関してですね。

ガスで眠るということは、脳に影響している。
成人ならまだしも、脳の機能が未熟な赤ちゃんでは後遺症が残るかもしれない。
大きなものはなくても、長期的には学習障害などいろんなリスクがあるかもしれない。
という危惧です。
こちらも昔から様々な論文がありました。
以前僕が臍ヘルニアの手術の一般的な手術時期が1才~2才以降なのにも関わらず巨大臍ヘルニアに対しては乳児期早期の手術を許容してもいいのではないかという発表をたくさんしていた時にも

「そんな赤ちゃんの時に麻酔するなんてとんでもない!」「1才以降で安全に麻酔できるのに、無理してリスクを高めるな!」というご意見を多くいただきました。
実際に「赤ちゃんで麻酔をするとリスクがあった」という論文がまことしやかに引用されて、教科書になっていたりするものもあるんですよ。でもね。それをよくよく引用文献まで読み解いていくと、ちゃんとした比較対象研究ではなかったり、10数例くらいの経験だけであったり、きちんとしたエビデンスのあるものではなかったのです。

もう僕が医者になってから20年以上たちますが、今では様々な規模の大きな研究の結果から、小児に対してのガスの麻酔は取り立てて危険なものではないという結論に至っています。
特に、成熟して産まれた普通の赤ちゃんは麻酔をしてもそれ単独での悪影響というものはありません

ただし。

未熟な状態で産まれてきた赤ちゃんへの麻酔の影響はまだわかっていません。
例えば本来40週で出生するところ、24~25週で非常に小さな体重で出生してしまい、そのような赤ちゃんが本来産まれるはずの40週になる前に手術を受けるなんてこともあります。
そのような赤ちゃんはもともと様々な病気やリスクを持っていたりするので、麻酔をした場合としかなった場合をきちんとランダムに分けて研究する…なんてことができていないのです。なのでまだ、「未熟な赤ちゃんへの麻酔の影響はわからない」という結論になってます。


今日はもうとても長くなってきたので、実際に子どもの麻酔で小児外科医がどのように関わっているかは次回に続くということにします。

<参考>

Fang Li et al. Postoperative respiratory adverse events in pediatric anesthesia: Risk factors, clinical implications, and management strategies. Medicine (Baltimore). 2025 26;104:e44598.
Ying Zhao et al. The safety of propofol versus sevoflurane for general anesthesia in children: a meta-analysis of randomized controlled trials. Front Surg. 2022:9:924647.


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