コラム82 あなたは世界を変えることができますか?
これはぜひ若い方々に聞いてみたい質問なのですが、あなたは世界を変えることができると思いますか?
1. 医学部生はとても優秀
僕は現在広島大学病院で小児外科医をしていますから、多くの広島大学の医学部生と日々接することになります。
彼ら(彼女ら)は非常に優秀です。
学業成績だけでなく、その他の部活動や社会活動においても優れた成績を残し、資格も有して医学部を受験する。
医学部って最難関ですからね。さもありなんです。
正直僕が高校生の時より明らかに勉強がよくでき、能力も高い子たちが沢山います。
そんな人たちと話をする時に「あなたは世界を変えることができると思いますか?」という質問をすると、「できます」「できると思います」とすぐ答える人はほぼゼロ。
ちらほらと「〇〇があればできるかも」(〇〇の中はチャンスであったり、他人からのサポートであったりがほとんど)と答える人がいます。
ほとんどの大学生が「いやそこまでは…」とか、「それはムリだと思います」と答えるのです。
もちろん謙遜もあるのでしょうが、それにしても。
日本の宝のような頭脳の持ち主たちである国公立の医学部生たち(将来の医師)には、本当にそんなに力がないのでしょうか?
2. 世界との差
件のセリフ「あなたは世界を変えることができると思いますか?」は、日本人であり、国連事務次長として活躍されている中満 泉(なかみつ・いずみ)さんの言葉ですね。
彼女は国連の軍縮部門トップとして『核兵器禁止条約』の採択に尽力し、2018年には米フォーチュン誌『世界で最も偉大なリーダー50人』に選出されました。
まさに世界を変えるために活躍されていると思います。
そんな中満さんが多くの子供たちにこの質問をしたところ、日本人は明らかに「世界を変えることができる」「変えたい」と答える割合が少ないことがわかっています。

日本人は奥ゆかしいのか。
それとも、将来への諦観があるのか。
では、他国との比較はどうか?
2019年日本財団「18歳意識調査」
第20回 テーマ:「国や社会に対する意識」(9カ国調査)の結果を見てみましょう。

この調査だと18歳だけを対象にしていることなど、いろいろ理由があって「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」という項目にYesと答えた人は45.8%と、先ほどの調査よりは多くなっていますが、それでも他の国々と比べると大きな差があります。
イギリスは56.1%とやや低めですが、アメリカや韓国は60%を超えており、中国やインドでは80%(!)を超えています。
この理由はもちろん1つじゃないですし、人によって様々な意見や分析があると思います。
分化や民族性の違いという大きな括りにも原因はあるでしょう。また、日本は世界的に見て治安も良く、比較的安心で満足して暮らしている人が多く、あえて「世界を変えたい!」というモチベーションを得にくい環境なのかもしれません。
しかし、そういう事実を含めても日本はもう少し「自尊心を育てる教育」を進めていくことが必要だと思います。
3. 世界を変えるってそんなに「おおごと」だろうか?
まずもって、世界を変えるということはそんなに大事(おおごと)なのでしょうか?
みなさんは世界を変えるようなことってどんなことを想像するでしょうか?
一国のリーダーになる。
大発明・発見をする。
誰もしたことのない偉業を成し遂げる。
これらは確かに世界を変えることです。
でも、そういうのは本当に世界でも一握りの人たちがすること。
さっきの調査の中国やインドの子どもの80%がみんな、「そんな偉人に自分はなる!」と思ってますかね?
そんなわけはない。
まずもって「世界」の概念が違うんですよ。
別に一気にWorld wideでなくてもいい。
他の人の生き方に少しずつ影響を与えていく。ちょっとした地域の仕組みを変える。みんなの意識に訴える何かをする。
それだけでも彼らにとっては「世界を変えること」であるという意識なんです。
そういう、意識の違いが先ほどの世界との差として見えているんです。
日本は基本的に教育レベルが高く、よりハイレベルを求めがちです。
特に例にあげられるのが英語教育ですね。
日本人に「英語を話せるか?」と聞くとほとんどの人が「無理」と答える反面、普通に挨拶などは問題なくこなします。
逆に外国人に「日本語を話せるか?」と聞くと、多くの外国人は「Yes!!」と喜んで答え、「スシ!ニンジャ!」と片言の日本語の単語だけ並べていく。よく聞く話です。
彼らにとっては「知っている」=「話せる」くらいの認識なんです。
日本人は「完璧」を求めすぎです。
できるにしても大きなことができていないとダメ、上手にできていないとダメ、人から認められていないとダメ…と思ってしまいがち。
民族性もあるのですが、そこには「個性を大事にして、褒めて育てる教育が行われていない」という原因が根深く存在していると感じます。
4. 医師は世界を変えるお仕事
ちょっと話がズレてしまいましたね。本題の「世界を変える」ことに戻りましょう。
最初に書きましたが、医学部生たちはとても優秀です。
勉強が良くでき、それ以外の活動でも優れた成績を残し、たくさん褒められて育ってきたはずなのです。
でも、「世界を変えることができる」と言えるほどの自己肯定感や、「世界を変えること」をあまり大事(おおごと)と捉えないような一種おおらかさとも言えるような器の大きさが育っていない。
医師というのは世界を変えることができる職業です。
なにもそれは、研究者として新発見をしたり、新薬や新規治療を開発したりする…なんてどでかいことでなくてもいい。
「こんな治療で効果があったよ!」という症例報告をするだけでも、それが目に留まって次の患者さんをきちんと救うことができるかもしれない。
更に言うなれば、たった1人の人を救うことであっても、それがその人の人生を変えることになれば、小さくても世界を変えていることだと僕は思うのです。
そして、子どもの命を救うことはより可能性に満ちている。
だからこそ僕は小児外科という仕事が大好きだし、やりがいを感じているのです。
自分を小さく見積もってほしくない。
医学部を目指す学生や、現在医学部で医師になるために勉強しているような学生には
「あなたは世界を変えることができますか?(できると思いますか?)」と聞かれたら
自信を持って「できます!」とか、「そのために勉強してます!」と答えてほしい。
そう思います。
(参考)
なし
