コラム89 外科手技のコンテストは、愛のコンテスト 第7回創リンピック
広島には、外科医育成プログラムとして「Phoenix Surgeons Club(フェニックス サージャンズ クラブ)」があります。
外科医不足の昨今、卒後や前期研修医を終了後にいきなり「〇〇科になります」というのではなく、広く外科系になるためにまずはPhoenix Surgeons Clubに入り、その後外科の研修を自由に積んで、入局先を決めようという取り組みですね。
そのイベントの1つとして、創リンピックという外科手技のコンテストを毎年行っており、先週第7回が開催されました。
1. 第7回創リンピック
一口に外科手技といっても様々ありますが、こちらの創リンピックは
①初期研修医部門(卒後1~2年目)
②外科レジデント部門(卒後3~5年目)に分かれており、
初期研修医はトレーニングキットを用いた皮膚縫合や糸結びの手技を競います。
レジデントはドライボックスでの鏡視下縫合・結紮手技を競うことになります。
前もって決められた手技と自己アピールの動画を事務局に送っていただき、審査員の中堅医師たちが審査をして順位付けが行われ、Web上で順位発表と入賞者のビデオ上映が行われるという熱い企画です。
この創リンピック、今年で第7回を迎えまして、僕はちょど始まったくらいの頃に広島大学病院に赴任してきたので毎年のように見てきました。
最初の頃は参加人数もそれほど多くなく、手技も「まだまだだなぁ(研修医なので当たり前)」と思ってみていたのですが…。
最近では60人を超える参加者が集まり、そのトップともなれば、熟練した外科医に引けをとらないレベルの手技を見せる研修医・レジデントもいるのです!
末恐ろしい…。
この創リンピックで僕の役割はといいますと…
いろんな外科のトップの教授陣と並び、小児外科のトップとしてコメントを言うこと。
うーん、偉そう。
でも大丈夫です。
僕は自分の技術は棚上げして、偉そうなことを言う能力は比較的高いのです(自慢)!
2. 外科手技で大事にすべきこと
最近はシンプルな手での縫合・結紮も腹腔鏡下手術での縫合結紮も、詳細なビデオがあちこちに溢れています。
昔みたいに動画がなくて、指導医につきっきりで教えてもらっていた時代とは違い、一人で黙々と練習することができます。
糸や針、練習用機材もふんだんに用意されている病院もあります。
僕が若手の頃は、手術室から使用せずに余った糸などを捨てずに拝借し、使わなくなった持針器を機材室からもらい、自宅でちまちまとティッシュ同士を縫い合わせたりしていたもんですが…。
病院に「トレーニングルーム」なんてものが常設されるのが普通になった現在から考えると、隔世の感がありますね。
という恵まれた環境も、現在の若手医師のレベルアップにつながっているのでしょう。
しかしながら、まだまだ研修医1年目、2年目の子たちの手技を動画で見ながら「まだまだだなぁ」と思ってしまうことは多々あります。
それはなぜか?
創リンピックはコンテストです。
どうしても「早く、正確にしたい!」という思いが強く出てしまう。
1秒でも早く縫合を!
30秒間のうちに1回でも多く結紮を! となるのですね。
実際にそれも評価のポイントではあります。
外科医というのは1回の結紮で3-4回の糸結びをしますし、心臓血管外科なんかは5-6回の結紮を行うわけですから、20か所結べば100回近く結紮するのです。
それをノタノタ…とされたらリズムなんてあったもんじゃありません。1秒に1回くらいは結びたいものです。
しかしですね。
糸結びというものは何のためにするのか?を考えなくてはなりません。
組織を縫合するにせよ、止血をするにせよ、最初の糸がきゅっとしっかり目的とする力加減で結べていなければ、その後何度結んでも意味はないのです。
また、糸を結ぶときに、上に引っ張り上げたり横にズレたり、組織に無駄な力が加わってしまうようではダメです。それが血管でちぎれてしまったら大惨事です。
ですから、糸を左右にぐっと引っ張って締めるような手技は絶対に僕は認めません。
きちんと指送り(人差し指で結紮点を結び目まで送っていく方法)をしなくては。

30秒で30回以上結べたけど、指送りもせず、最初の結紮も緩んでいる。台座がガタガタ動く(もしくは他の人に動かないように支えてもらっている)…なんて人よりも
30秒で20回しか結べなかったけど、きちんと毎回指送りして、台座がピクリとも動かない人の方が優秀なのは誰でも分かることだと思います。
これは、針で縫合を行っていく手技でも同じことが言えると思いますし、ひいては外科の手技全般で言えることだと思うのです。
3. そこに「愛」はあるんか!?

外科手技のコンテストは、愛のコンテスト。
スピードだけでは語れません。
創リンピックで「トレーニングキットを用いた皮膚縫合や糸結びの手技を競う」、「ドライボックスでの鏡視下縫合・結紮手技を競う」なんて言われると、思わずスピードだけにとらわれ、「魅せる」ことばかり考えてしまいがちです。
でも、違うんです。
外科医が手技を磨くのは、あくまでも患者さんの治療をきちんと行うため。
審査をする外科医たちは、(おそらく)
トレーニングキットで縫合結紮をしているけれど、その相手が患者さんと思って手技ができているのか?を見て審査しているのです。
そこに愛はあるんか!?というやつですね。
最初に
僕は自分の技術は棚上げして、偉そうなことを言う能力は比較的高いのです(自慢)!
なんて書いただけあって、めっちゃ偉そうなこと言ってますね。
はい。
僕は怒られた側の人間ですからね。
外科医になろうとするだけあって僕は手技が大好きで、医者になったことからさっき書いたように家でティッシュ相手にちまちまと練習したり、いろんなトレーニングをしていました。医者3年目くらいの頃にはかなり上達したな…なんて勘違いして(実際に上級医に褒められることも多かったので)、手術でちょっとカッコつけて雑な糸の切り方をしたことがありました。
その瞬間、メッチャクチャ怒られました。
今自分で思い返しても、「愛がなかった」と反省しています。
そして、その時にちゃんと怒ってくれた指導医にとても感謝しています。
だからこそ、今は自分の未熟な手技は完全に棚上げしてでも、自戒を込めて若手の医師にきちんと想いを伝えていこうと思うのです。
<参考>
なし
